8月23日に石川県輪島市で規模を縮小しながらも行われた輪島大祭。祭りの熱気に町が包まれる中、祭りの参加に対して揺れた地区がある。それが、元日の大火災にあった朝市通り周辺を含む地域「本町九区」だ。震災があった年に祭りを行う意味を考え続けた住民の葛藤を取材した。

”祭”に参加すべきかどうか揺れる地域住民の思い

輪島大祭
輪島大祭
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夏の輪島を彩った輪島大祭。町が熱気に包まれる一方で、キリコの巡行に参加しなかった3基のキリコがあった。朝市通りの大規模火災に見舞われた地区「本町九区」のキリコだ。

能登半島地震で発生した朝市通り周辺の大火災。焼失した約240棟の大部分が、地元で「本町九区」と呼ばれる地区に建っていた。

7月、朝市通り近くに仮に作られた集会所で住民が集まり、激論を交わしていた。「祭りが町内をつなぐと」「今年に限って言うと、多くの人が亡くなっているので、そこに祭りとしてキリコを出していいものか。人の気持ちというものがやっぱりあるので…」「じゃぁ、祭りって、何のためにやる祭りなんですか?」8月23日に開催される、輪島で最も大きな祭り『輪島大祭』に地区として参加すべきかどうか。賛否が分かれていた。

「祭りをやるやらない、それぞれに配慮がいるんです。やる配慮、やらない配慮、やらないという選択で辛くなる人もいる」議論の中心で、意見を調整しているのは、小浦友行さん。本町九区に生まれ育ち、今は地元のクリニックで医師をしている。

小浦友行さん
小浦友行さん

コロナ禍を乗り越えようやく復活したキリコの『町流し』

小浦さんが、ある写真を見せてくれた。去年行われた「輪島大祭」の写真だ。

朝市通りにキリコがめぐり、法被姿の多くの人がキリコを引いている。「町流しって言って、キリコは町内を練り歩くんです。それで色々な厄とかをキリコの中に集めて、それを神社に持って行って祓い清めて…ということが、本来キリコが町に対する役割としてあったことなんです」と小浦さんは、懐かしそうに写真を眺めながら話してくれた。

コロナ禍を乗り越え、2023年、ようやく本来の姿に戻った輪島大祭。本町九区でもキリコが町内を練り歩いた。にぎわう商店街にあふれる人々の笑顔と活気。しかし…地震と火災が全てを奪ったのだ。

そんな地震が起きた年に祭りをどうするか。各地で同じような議論が交わされてきた。「僕はキリコの運行はダメだと思う。運行は絶対にダメだと思う」と言う人もいれば、「春祭りで、亡くなられた方に対する慰霊の思いを込めてやったじゃないですか。それと同じように、夏祭りもそういうイメージでやるべきじゃないかと思います」と肯定的な人。しびれを切らした男性は
「地域のコミュニティー、コミュニティーというけど、祭りせんかったらコミュニティーなんてできんぞ」と話す人も。議論は煮詰まっていた。

地区のまとめ役を買って出た小浦さんは、「単に祭りに関して賛成・反対というか白黒みたいなそんな単純なものでもなくて、様々な体験や思いが錯綜するというか、折り重なっている状態。話を詰めすぎると、相手の気持ちに土足で踏み込むような状況が起こりかねないのではないか」そんな思いを持っていた。それぞれの住民が持つ祭りへのあふれる思い。本町九区にとってこの祭りは地区の誇りなのだ。

祭りの日…住民が出した結論は?

輪島大祭当日。集会所の前に3基のキリコが並んだ。住民たちが出した結論。それは神社への巡行には参加せず、地震で無事だったキリコを1カ所に並べ、亡くなった人々に祈りを捧げるというものだった。

キリコを前に小浦さんは「諦めずにここまで来られたのが本当に良かったと思います。今のこの町とゆっくり向かい合う事もないかなと思うので、ゆっくり思い出を振り返るというか…そんな日になってもいいのかなと思います」と話していた。

午後5時すぎ。

解体工事による規制線が解かれたのをきっかけに、3基のうち1基のキリコが動き出した。地震と火災で、志半ばで亡くなった仲間に、祭りの訪れを告げるためだ。

本町九区、町流し。この町を愛した人々に、祈りの太鼓を届ける。

小浦さん:
いにしえから伝わってくる『祭り』というものの意味を今回のことでかなり根っこから皆で問い直しましたね。住んでいる人たちの絆というか、つながり、『ご縁』ですよね。ご縁をしっかりと豊かにしていく、祭りとはそういうものなんだろうなという事を改めて思います。

夜、3基のキリコにあかりが灯されました。小浦さんは、キリコを前に「いつまでも見ていたい」としんみりとした表情でつぶやいた。人々の笑顔とともに、キリコは静かに町を照らし続けていた。

象徴的だったビルも解体され復興へ新たな一歩

祭りから数日後。朝市通りの火災で象徴的な存在だった4階建てのビルが解体された。朝市通りで「ついにそこも区切りをつけたなって感じですね」と話す小浦さん。今年、祭りを開いたことについて「感無量です」と語り、力を込めた「たくさんの人に感謝して、これから前を向いていけるエネルギーとなったなと。とても嬉しかったです」

輪島、本町九区。その地に暮らす住民は、迷いながらも一歩一歩、復興という未来に向け歩みを進めている。

(石川テレビ)

石川テレビ
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