「長崎の被爆者の声を世界に届けたい」 と2025年の被爆80年に向けて新たな取り組みが始まっている。被爆者と活動を支える人たちの思いは。
被爆者の声を世界へ
カメラの前で被爆者が79年前の被爆体験やその後の暮らしなどについて語る。
この記事の画像(11枚)被爆者・小峰秀孝さん(83):お腹、両手、両足、前みなやけど、ケロイドである。4歳8カ月までは普通の子供、4歳8カ月から被爆者としての人生である
被爆者団体の1つ、長崎原爆被災者協議会が2024年始めた取り組みだ。
長崎原爆被災者協議会 田中重光 会長:もし核が使われたらどうなるのか、皆が自分事として考えてほしい。被爆者がいなくなる。いても活動ができないという年齢である。そういう中でこの運動をどう広げていくか。そのためには80年という節目で大きく世界に訴えていくことが必要ではないか
被爆者の平均年齢と現状
2024年、被爆者の平均年齢は85.58歳になった。その数は全国で10万6825人と11万人を割り込んだ。体験を語ることができる被爆者も少なくなる中、80人の声を映像に残す。
取り組みの狙いはもう一つ。活動の輪を広げることだ。中心メンバーの一人・横山照子さんは被災協の相談員として長年にわたり、生活や制度面で被爆者の支援に取り組んできた。
1956年に発足した被災協は、ピーク時には数万人の会員がいたとみられるが、今では約2000人にまで減った。
長崎原爆被災者協議会 横山照子 副会長:「80年」というのが1つの被爆者にとっては大きな区切りになるのでは。自分自身のことを考えても80を超したらあちこちガタが来てしまって…
証言の記録とあわせて、子供向けに被爆者の半生を描いたマンガを紙芝居風の動画にしている。英語の字幕を付けるのは2歳の時、被爆した長野靖男さんだ。
長野靖男さん(81):パソコンは定年後に始めたが、こういうことになるとは思わなかった
国際情勢が悪化する中、「被爆の実相を訴え続けるのが被爆地の役割」と日々編集にあたっている。まもなく中国語版も完成するが、長時間パソコンで作業を続けるのにも限界がある。
長野靖男さん(81):持続するのが難しい。それでもやっぱり、それだけのことをして沢山の方が見てくれればありがたいなと頑張っているところ
次世代へのバトンタッチ
活動を支え、被爆者の思いを受け継ぐ次の世代の存在が必要不可欠だ。
長崎原爆被災者協議会 横山照子 副会長:正念場だと思うので、私たちがどんな風に次に引き継いでいけるのか。大きなところに差し掛かっていると思う
横山さんたちは被爆者の体験を聞き取ったり、動画を編集するボランティアを募った。
呼びかけに応じたのは県の内外の大学生でつくる「MICHISHIRUBE(みちしるべ)」だ。核兵器のない世界を目指し活動をけん引してきた被爆者団体が担い手や資金不足に直面する中、平和への思いを若い世代で受け継いでいこうと2023年秋、発足した。
MICHISHIRUBE 上田直樹さん:原爆投下時の11時2分、田中さんはどういった景色を見られたんですか?
被爆者・田中安次郎さん(82):ここで遊んでいて、強烈な光、カメラを何万個も集めるような青白い光
学生たちは被爆者の映像を1分以内に短く編集してSNSでも発信している。
MICHISHIRUBE 上田直樹さん:内容の部分でも若者、外国人が親しみやすい、と思うような(被爆者の)人柄や背景などに注目する部分もつくっている。
「若者ならではの視点で国の内外の同じ世代に声を届けてほしい」と被爆者は期待を寄せている。
長崎原爆被災者協議会 横山照子 副会長:初めて今回TikTokとかわかった。若い人に引き継いでもらうってそういうことだと思う。私たちは「これしかダメなんだ」ではなく、若い人が取り組みやすいようにするのもこちらの責任だと思う
国際的な連携と発信
取り組みを通して新たなつながりも生まれた。長崎市に住むカナダ出身のジェームズ・パワーズさんだ。被災協の取り組みを新聞で知り協力を申し出た。
長崎市在住 カナダ出身 ジェームズ・パワーズさん(45):(被爆者)個人の話は時間とともに失われがち。私はこれらの人々(被爆者)のメッセージを未来の世代に保存する手助けをしたい
長崎原爆被災者協議会 横山照子 副会長:このプロジェクトで色々な人が関わってくださる。海外に発信しよう、と言いながらなかなかできていなかった。ようやく一歩が踏み出せた
12歳で被爆し5年前に亡くなった池田早苗さんの生涯を描いた紙芝居を英訳し、ナレーションを吹き込んだ。
「I hate war! I hate atomic bombs! I hate nuclear weapons!」(戦争が憎い!原爆が憎い!核兵器が憎い!~YouTubeより~)
パワーズさんは中学校や高校のほか、被爆の実相について修学旅行生などに説明している「平和案内人」に英語を教えていて、原爆についても学びを深めてきた。
月に一度開く教室に通う生徒もパワーズさんと被爆体験の英訳を進めていて、活動の輪は少しずつ広がっている。
長崎市在住 カナダ出身 ジェームズ・パワーズさん(45):教室の勉強だけじゃなくて、本当の世界につなげることができればいいなと思っている。被爆者はまだいる。昔々の歴史のことでないのだから、「私たちの人生に影響している」と意識してほしい
英語の字幕付きで公開された動画は20本になった(2024年7月時点)。活動の主体が変わっても取り組む姿勢や思いは変わらないように…。長年活動を支えてきた被爆者だからこそ持っている思いがある。
長崎原爆被災者協議会 横山照子 副会長:「原爆はダメだから」だけでなく、何がダメか、どうしてダメなのか掘り下げてほしい。被爆者の心を、心としてちゃんと自分の中に取り込んで(活動)してほしい
“ナガサキを最後の被爆地に”被爆者と若者が平和をつなぐ一歩を踏み出している。
(テレビ長崎)