九州本土最南端のまち鹿児島県南大隅町では、温暖な気候を生かし、熱帯の果物を新たな特産品にしようという取り組みが進められている。その中で、東京から移住した元警察官の夫婦が自然と闘いながらパイナップル作りに励み、リピーターを増やしている。

糖度18度!「最高のパイナップルができています」

「糖度が18度のパインは、なかなかないと思います。最高の品物ができていますね」。誇らしげに語るのは、鹿児島県南大隅町経済課営農指導員の岩下恭一さん。南大隅町は大隅半島の南端に位置しており、温暖な気候で亜熱帯性の植物が自生している。

7月、町内にある「佐多岬熱帯果樹施設」で、パイナップルを栽培する農家やJAの関係者などを集めて、2025年のパイナップルの試食会が行われた。

施設内のビニールハウスには何列もうねがあり、多数のパイナップルが植えられている。パイナップルの葉は剣のような形をしていて、地面から放射状に茂っている。高さは大人の腰の位置より少し低いくらい、直径は1メートル弱だろうか。円形に広がった葉の中心に茎がすっと伸びていて、その先に実がなるのだが、佐多岬熱帯果樹施設のビニールハウスでは、おいしそうに黄色く熟したものや、まだこれからのものなどたくさんのパイナップルが実をつけていた。

佐多岬熱帯果樹施設のパイナップル
佐多岬熱帯果樹施設のパイナップル
この記事の画像(19枚)

ハウスの前にはテーブルが置かれ、一口大に切り分けた試食用のパイナップルが用意されていた。参加者はようじに差して口に運ぶと、一様にうまい!といった表情で食べていた。

岩下さんの話では「パイナップルは、糖度が15度あったらすごくおいしい」らしいが、試食で用意したパイナップルの果汁を絞って糖度計で測ってみると「糖度18.1度」だった。

糖度18.1度のパイナップルの味は格別だ
糖度18.1度のパイナップルの味は格別だ

温暖な気候を生かし、熱帯果実の産地を目指す南大隅町

現在、南大隅町では13戸の農家が119アールの畑でパイナップルを栽培していて、その数は年々増えているという。

「今、地球温暖化の影響で、これから先、熱帯果樹類の作物へのシフトも考えられる」と岩下さん。南大隅町は、熱帯のくだものを新たな特産品にしようと、栽培に力を入れている。試食会が行われた「佐多岬熱帯果樹施設」は8年前に整備、技術開発や農家への栽培研修を行っていて、ハウスでは、パイナップルだけでなく南米原産の果物のパッションフルーツや、中南米が原産のアボカドも植えられている。

移住前は夫婦共に東京で警察官「自然に囲まれて暮らしたい」

「すみません、気を付けて。イノシシ出たんで。中まで入ってきたんですよ」。自身の畑に案内してくれたのは、試食会で出会ったパイナップル農家の仲理恵さん。南大隅町の山あいにあるハウスで、夫の究さんと4種類のパイナップルを育てている。

パイナップル農家・仲夫妻のハウス
パイナップル農家・仲夫妻のハウス

3つある仲さんのビニールハウスはイノシシの侵入を防ぐため、外回りにぐるりと一周、ピンクや白の平巻きのテープが巻き付けてある。ひざの高さくらいなので、それをまたいで中に入る際、夫の究さんも「気を付けて」と気遣ってくれた。

ともに東京で警察官をしていた仲さん夫婦。赴任先の小笠原諸島・父島で大自然に魅了され、「自然に囲まれて暮らしたい」と南大隅町への移住を決意した。「移住してから4年か5年」、パイナップルを栽培しているという。

警察官時代の赴任先・父島で
警察官時代の赴任先・父島で

「こちらは移住している方が多くて、移住者で作っている方もいらっしゃいます」。にこやかに語る理恵さんだが、自然が相手の仕事で苦労は尽きないようだ。

自然との闘い「試練を乗り越え、生き残ったパイナップルは甘い」

仲さん夫婦は、収穫までに通常よりも長い2年の歳月をかけている。つまり、それだけ自然との闘いが長く続くということでもある。ハウスの中では、パイナップルがたくさん実っているが、夫の究さんは「植えてから実になるまで2年間、その間に台風が来たり、寒波が来たり、色々な条件があり、実になるのは半分。半分近くはだめなんです」と語る。

仲さん夫婦は収穫までに2年をかけている
仲さん夫婦は収穫までに2年をかけている

さらに、パイナップルは100グラムあたり100円程だが、実が十分に大きくならないこともあるという。妻の理恵さんが鎌で茎から切り離したパイナップルの実を見せてくれた。店頭で見るものより、少々小ぶりのようだ。「これくらいで200円か300円しかならないんですよ。今、これがほとんどじゃないですか。ちょうど花の時期が寒波だったんですよね。花の時に小さい花が咲いたので、小さい実になると決まっていた」と、理恵さん。

小ぶりのパイナップル
小ぶりのパイナップル

このように苦労が多いパイナップル栽培だが、「試練を乗り越え、生き残ったパイナップルは甘い」のだと、究さんは味に太鼓判を押す。

「今まで食べていたパインと全然違う」あの感動を味わって

「私自身、元々大してパインが好きではなかったんですね。」究さんから意外な発言が飛び出した。

だが、「南大隅町を見に来た時おいしいパインを食べて、今まで食べていたパインと全然違ったんですよ。あの感動をですね、色々な方に味わってもらいたい」。そう続ける究さんは、手塩にかけた畑のパイナップルたちに何度も優しい視線を送っていた。

また隣では、「リピーターさんが少しずつ増えて『おいしい』と声をいただくので、おいしいものを何回も食べてもらうことが私の原動力になっていますね」と、妻の理恵さんが明るい笑顔で語る。

一大産地を目指し、広がりを見せる南大隅町のパイナップルは9月初めごろまで収穫され、南大隅町や錦江町の道の駅などで販売されている。仲さん夫婦のように「おいしいパインを食べてほしい」と、丹精込めて育てる生産者たちの思いも肥やしにして、食べた人の心に残る特産品として育っていくことだろう。

(動画で見る:今が旬! 甘くておいしい南大隅町産パイナップル 南大隅町が栽培を始めた理由とは?

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(19枚)
鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。