貧困にあえぎ続ける北朝鮮の一般市民。脱北するなどして北朝鮮の国外から北朝鮮の家族に向け送金する一助を担っている“送金ブローカー”が、日本メディアの取材として初めてFNNのインタビューに応じた。今まで詳細が明らかになっていなかった北朝鮮への送金の実態を語る。
“頼みの綱”としての北朝鮮外からの送金
この記事の画像(37枚)北朝鮮内で撮影されたという映像には、暗い部屋の中で、市民が一心不乱に紙幣を数えている様子が映っている。
その高齢の北朝鮮市民(女性)は「お前が送った20万円(=9180元)をもらった。感謝するよ」とカメラに向かって話した。
別の北朝鮮市民は涙をこらえきれないでいる。
北朝鮮市民(高齢女性):
夢のようだ、本当に。言葉が出ないよ…。
核・ミサイルなどの開発を進める一方、貧困にあえぎ続ける北朝鮮の一般市民。
そうした人々の“頼みの綱”となっているのが北朝鮮外からの送金だ。
FNNは、これを請け負うブローカーを、日本メディアとして初めて取材した。
夫や子どもとソウル近郊で暮らす“送金ブローカー”のチュ・スヨンさんは脱北者で、韓国側の“送金ブローカー”の一人。「私は2010年に韓国に来たので、13~4年前の事です」と語る。
北朝鮮への送金システム
ブローカーは、送金を希望する人から金を受け取ると、まずソウル市内の「両替所」と呼ばれる場所に預ける。
その後、ソウルの両替所から中国の両替所に送金し、その金はさらに、複数のブローカーを介して北朝鮮に入り、ようやく送り先へと渡る流れとなっている。
また、映像内で札束を数える様子が映し出されていた北朝鮮市民の別の男性は、「13万5000円…(6300元)。(送金主の家族に対し)元気か?俺たちはみんな元気でいる。こんなに助けてくれて本当にありがとう」とカメラに向かい感謝の言葉を述べた。
撮影されたこうした映像は、送金完了の証(あかし)としての意味もあるという。
“闇市”のような場所で食べものを確保し生きていくしかない
しかし、市民が実際に手にする額は最初の送金額の6割程度で、残りの約4割はブローカーへの手数料とされている。
日本円で20万円あまり(=200万ウォン)の外貨を手にすれば、北朝鮮では1年暮らしていけると話すブローカーのチュさん。
“送金ブローカー”チュ・スヨンさん:
北朝鮮は配給制なんですが、すでに名ばかりのものです。
市民は“闇市”のような場所で食べるものを確保し、生きていくしかないんです。
だから、海外の送金は砂漠のオアシスのようなお金です。
チュさんのような“送金ブローカー”は実は、韓国では非合法な存在なのだが、なぜ今回、顔や名前を公表し取材に応じたのだろうか。
きっかけは、これまで“黙認”されてきた送金ブローカーが警察の捜査対象になったことだった。北朝鮮に強硬姿勢を取る韓国の尹政権下で、ブローカーの取り締まりが強化されたという。
「私をスパイとして捜査しようとしたんですよ。それがあまりにも悔しくて…。合法的にお金を送れるルートが他にあるのなら、こんなことはしません」と語るチュさん。
北に残る家族たちを助けたいだけなのに時の政府に翻弄されている…。“抗議”の意味も込めて、“顔を出して”の取材に応じたという。
一方で北朝鮮事情に詳しい専門家は、こうした非合法な送金が、結果として金正恩ファミリーを潤す一因となると指摘する。
甲南女子大学鴨下ひろみ准教授:
脱北者が家族に向けて送金したお金が取り締まりを受けて没収されて金正恩政権に入るということは十分あると考えられます。