大会期間中のパリの地下鉄・バスの運賃が約2倍に跳ね上がる。
乗車券は2.1ユーロ(約340円)から4ユーロ(約650円)に。10枚つづりの回数券も16.9ユーロ(約2700円)から32ユーロ(約5200円)に値上げされる。期間はオリンピックが始まる1週間前の7月20日から、パラリンピックが閉幕する9月8日まで。月額や年額パスを持っている地元の住民は影響を受けないという。
びっくりだ。オリンピック招致の段階では「大会チケットを持っている人は公共交通機関が無料で利用できる」ことが売りだったはずなのに…。
理由は何か。
期間中は1500万人がパリを訪れると見込まれ、市内の移動は公共交通機関の利用が推奨されている。交通サービスは通常より15%多く提供され追加費用は2億ユーロ(約326億円)に上るという。この追加費用を、オリパラで訪れる外国からの観光客に負担させるというのだ。パリと近郊の公共交通機関を統轄する当局IDFM(イルドフランス・モビリテ)のバレリー・ペクレス会長も公然と言い放つ。
「観光客が交通費を負担するのは当然」
この決定に、パリジャンたちも憤る。
大学生・22歳:
観光客が交通費に4ユーロも払わなければならないのは、ちょっとやり過ぎだと思います。すでにホテル代がとても高くなっているのに…市はこれに味をしめて、五輪後も値段を戻さないかも知れないですね。
男性・67歳:
私が観光客の立場だったら、パリに来ようと思わないでしょう。ホテル代なども、時間の経過とともに価格が上昇しています。オリンピックにやってくる外国人観光客にとっては耐え難い出費になります。
大学生・20歳:
普段でも十分混雑するのに、観光客が増えたら悪夢のようになります。値段に見合わないサービスにお金を払うなんて、まったく馬鹿げていると思います。
また今回の値上げ発表を受けて、市民だけでなくパリ市も強く反発している。パリ副市長は自身のSNSで怒りをあらわにした。
「ペクレス会長は値上げを独断で決めた。私たちは元の運賃に戻すことと、ボランティアの運賃を無料にすることを要求する」
実はこの値上げ発表の5日前、ペクレス会長とパリのアンヌ・イダルゴ市長が互いに不信感を募らせる出来事が勃発していた。きっかけはテレビ番組に出演したパリのイダルゴ市長の一言だった。
「交通の準備が間に合わない」
このように述べ、一部で不便が生じる可能性があると懸念を示したのだ。この発言に、即座にペクレス会長が反発した。
「イダルゴ市長は交通の準備状況についてなぜ知っているのか。彼女はここ数カ月の間に、電話でこの件を聞いてきたことは一度もない」
さらに市長がフランスの評判をおとしめるリスクを冒していると述べた上、
「私たちは開催都市の市長から誹謗中傷を受けている」
と厳しく批判した。
こんな非難の応酬のなか、ペクレス会長が発表した開催期間中の運賃値上げ。
イダルゴ・パリ市長は翌日に予定されていたパリ市とオリパラ組織委員会、IOC(国際オリンピック委員会)の合同会見に予告なく欠席。会見は午後6時すぎからだったにも関わらず欠席理由は「ディナーの予定が入ったため」。ずいぶんと早い夕食、あまりの不自然なドタキャンはフランスメディアの間でも様々な臆測を呼んだ。
女性2人の対立は果たしていつまで続くのか。五輪に悪影響を及ぼしては本末転倒だが、そうならないことを切に願う。
ところで現在売られている地下鉄乗車券に有効期限は無い。ペクレス会長は利用者に対して、値上げする前に乗車券を買いだめするよう呼びかけている。
さあ、五輪に備え買いだめに走るか。
(FNNパリ支局長 山岸直人)