多くの人が毎日の習慣として行っている「歯磨き」。だがその“正しい方法”を知っているだろうか?

歯磨きの方法について、インターネットには「朝と夜の2回するべき」「3食後すぐにした方がいい」「食後30分以内は歯磨きをしない方がいい」など、様々な“説”が掲載されているのを見るだろう。

しかし、よく見てみると「食後すぐにするべき」「食後30分は歯磨きNG」など、まったく反対のことを唱えているものもある。

では、本当に正しい“歯磨きの方法”とは?大阪大学歯学研究科・予防歯科学講座の天野敦雄教授にお話を伺った。

「食後30分は歯磨きNG」は誤解!

まず、一度は聞いたことがあるかもしれない「食後30分以内は歯磨きをしない方がいい」という説について。実はこれ、天野教授によると全くの誤解なのだという。

天野教授が推奨しているのは「3・3・3」のタイミング。この数字は「1日3回・食後3分以内に・3分間磨く」ことを意味している。

そもそも、歯磨きをすべき理由は、むし歯と歯周病の予防。このうち「むし歯」は、原因となる菌(酸産生菌)が出す酸によって歯が溶けることで起きるという。

人が食事をすると、口内の酸産生菌が人間が食べたもの(発酵性糖質)をエサにして酸を出す。これによって、元は中性であるプラーク(歯垢)が酸性になり、酸性の状態を好む酸産生菌が増加する…というサイクルが起きる。

歯の象牙質はpH6.4~6.2、エナメル質はpH5.5で溶け始めるというが、このサイクルの中で、歯は少しずつ溶けだしていく(脱灰)のだ。

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しかし、歯は溶ける一方ではない。唾液にはプラークに染み入って中和する働きや、溶け出したカルシウムやリンを歯の表面に戻す働き(再石灰化)がある。この「酸性になったプラークが中性に戻る」までの時間こそが、約30分なのだ。

これを聞くと「唾液の作用を邪魔してしまいそうだから、“食後30分は歯磨きNG”というのは正しいのでは?」と考える人もいるかもしれないが、それは違う。天野教授によると「食べかすを早めに口から出すことで、プラークを中和するのにかかる時間が短くなる」のだという。

少しでも早く「歯が溶け続けている状態」から抜け出すためには、唾液の効果をサポートすることが必要。歯磨きが唾液の働きを妨害することはないため、食後はすぐに歯磨きをするのが良い、ということだ。

「食後すぐ」の目安にしてほしいというのが「3分」。

天野教授は、歯磨きができない時は「せめて少量の水を口に含んで歯に強く叩きつけるようにグチュグチュと当てる“激しいうがい”をしてほしい」と推奨している。

食後すぐにブラッシングできない場合は「激しいうがい」を
食後すぐにブラッシングできない場合は「激しいうがい」を

また、普段からブラッシングがちゃんとできている人は約30分でプラークは中和されるが、すでにプラークが分厚く歯に付着している場合や、高齢者など唾液の分泌が少ない人は、中和に60分~120分程度かかってしまうことがあるという。

そのため、こういった人たちは特に「食後すぐに歯磨きする」ことが、歯を守るために大切なのだ。

「食後すぐの歯磨きは歯を痛める」のは“特殊な場合”

そんな中、実際に「食後30分以内に歯磨きをしない方がいい」場合もあるという。それは、レモンやグレープフルーツを丸かじりするような「酸性度の強い飲食物を口にする」ことで、歯が溶けだした状態のときだ。

炭酸飲料やスポーツドリンクを飲んだ後も注意が必要
炭酸飲料やスポーツドリンクを飲んだ後も注意が必要

表面が溶けた歯は、歯ブラシなどでゴシゴシと擦ると傷ついてしまう。むし歯菌が原因の場合も「歯の表面が溶けている」のだが、こちらの歯の方が特に傷つきやすくなっているのだという。

そのため、強い酸性のものを食べた場合は、歯磨きではなく「食後すぐの激しいうがい」が推奨されるという。

「朝食後・昼食後・就寝前」の歯磨きを推奨

次に気になるのは、歯磨きの「回数」。

天野教授が推奨しているのは「朝食後・昼食後・就寝前(夕食後に何も口にしない場合は、夕食後)」の1日3回の歯磨きだ。

本来、食べ物を口にするたびにブラッシングをするのが理想的だというが、まず守りたいのがこの3回。さらに、就寝前の1回は「しっかりとした歯磨き」をすることが、むし歯だけでなく歯周病を予防するためのケアに繋がるという。

就寝前に「しっかりとした歯磨き」をするべき理由は…
就寝前に「しっかりとした歯磨き」をするべき理由は…

歯周病とは、歯と歯茎の間に沿って存在するプラークによって引き起こされる。歯茎にプラークがたまり続けて炎症が起きると、歯周ポケットに潰瘍(傷口)ができる。さらに、ここから出血すると、鉄とタンパク質を栄養とする歯周病菌が爆発的に増殖してしまうのだという。

就寝中は、日中と比べて唾液の分泌が低下して、細菌が増殖しやすい口内環境になる。そのため、歯と歯茎の間に付着したプラークをしっかりと除去してから寝ることが大切なのだ。

「歯が痛くなる前に歯医者へ」の意識も

ここまで正しい歯磨きの方法を紹介してきたが、改めて、子どもも大人も「1日3回・食後3分以内に・3分間磨く」ことをしっかりと記憶してほしい。

天野教授は「歯を完璧に磨けている人はいません」と語る。子どもはむし歯予防のために「3・3・3」の歯磨きを徹底すること、大人はそこに歯周病の予防も考えて「しっかりした歯磨き」の意識をプラスするのが理想。また「歯が痛くなる前に歯医者へ行く」という意識で、年に3、4回は歯医者で磨き残しをしっかりと取り除くのが良いという。

「食後30分は歯磨きNG」が習慣として体に染みついている人も多いかもしれない。しかしこれを機に「人生100年時代」を自分の歯と過ごしていくため、歯磨きの習慣を改めてみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。