1974年から1975年におきた連続企業爆破事件の重要指名手配犯、桐島聡容疑者を名乗る男を警視庁が確保した。捜査関係者によると、桐島容疑者を名乗る男は末期がんを患い、神奈川県内の病院で偽名を使って入院していたという。

桐島容疑者が所属していたのは、「東アジア反日武装戦線」。三菱重工ビルを爆破して8人を殺害するなど、企業を標的にテロ行為を繰り返したグループだ。

三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日
三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日
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ただ、犯行が行われたのは今から約50年前。当時を知らない人も多いだろう。「東アジア反日武装戦線」とは何だったのか、何をしようとしていたのか。その一端を知るために、1976年の警察白書を紐解いてみると、現代では考えられない過激なテロと、当時の社会情勢が見えてくる。

年間22件の爆弾事件

1976年(昭和51年)の警察白書の第7章「公安の維持」は、「極左暴力集団の動向」など前年の1975年に起きた極左暴力集団の事件がまとめられている。驚くのは爆弾事件の発生件数で、何と年間22件。前年より7件増加していて、そのうち19件(爆弾の数は22個)が爆発して6人が死亡、20人が重軽傷を負ったという。

三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日
三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日

また爆弾が「精巧かつ高性能化している」と指摘している。1969年頃に使用された爆弾は点火式の爆弾だったが、「トラベル・ウォッチやタイム・スイッチを利用した時限装置付きのものであった」という。さらに、「爆弾そのものの威力を高めるため、容器を二重構造にしたもの、セメント等で補強したものなどもみられた」という。

実は、こうした爆弾の高性能化で重要な役割を担ったのが、桐島容疑者が所属している「東アジア反日武装戦線」なのだ。

爆弾指南書「腹腹時計」を地下出版

1976年の白書にはこう記してある。

「こうした爆弾の製造については、その構造等からみて『腹腹(はらはら)時計』、『薔薇(ばら)の詩(うた)』等のいわゆる爆弾教本を参考にしていることがうかがえる」

連続企業爆破事件の捜査本部
連続企業爆破事件の捜査本部

ここに登場する「腹腹時計」という奇妙な名前の本。正式名称は「都市ゲリラ兵士読本VOL.1腹腹時計」だが、これこそが、東アジア反日武装戦線の「狼」グループが地下出版した有名な爆弾製造の教本なのだ。

三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日
三菱重工ビル爆破事件 1974年8月30日

東アジア反日武装戦線の「狼」は、1974年8月30日に三菱重工ビルを爆破したグループだ。白昼、東京・丸の内にある三菱重工本社ビルの正面玄関前に2個の時限式ペール缶爆弾を仕掛けて爆発させ、通行人など8人を殺害し、380人に重軽傷を負わせた重大な事件だ。

この爆破事件を皮切りに、東アジア反日武装戦線は連続爆破テロに突き進んでいく。

グループの摘発と桐島容疑者の指名手配

1976年の警察白書に戻る。

「(昭和)50年に入っても間組の本社及び大宮工場、韓国産業経済研究所、オリエンタルメタルKK、間組作業所、江戸川橋梁間組工事現場と続発した。このため警察では総力を挙げてその早期解決に努めたが、特に警視庁では、『東アジア反日武装戦線』名の犯行声明を分析した結果、同戦線名で49年3月地下出版された爆弾教本『腹腹時計』の出版グループとつながることに着目し、同グループの解明に全力を挙げた」。

当初「腹腹時計」と東アジア反日武装戦線との関係はわかっていなかったが、警視庁の捜査により関連性が突き止められ、それが一斉摘発へと繋がっていったという。白書はこう繋がる。

「韓国産業経済研究所」爆破事件 1975年4月
韓国産業経済研究所」爆破事件 1975年4月

「昭和50年5月19月、『東アジア反日武装戦線』の“狼”、“大地の牙”、“さそり”のメンバーであった8人を逮捕、その後2人を指名手配した。これにより一連の企業爆破事件のほか、46年以降未解決であった4件の爆破事件も同メンバーらの犯行であったことが判明し、合計15件の爆破事件が解決した」。

「2人を指名手配した」との記載があるが、そのうちの1人こそ、今回50年ぶりに身柄を確保された桐島容疑者だった。

なぜ彼らは企業を爆破し人を殺したのか

東アジア反日武装戦線のメンバーとはどういう人間だったのか。白書はこう記している。

「犯人はいずれも会社員、喫茶店店員等の職業に就き、近隣との付き合いも普通に行うなど表面上は平凡な市民を装いながら、一方で、床下に、押入れから通ずる秘密の地下室を作って爆弾を製造するなど周到に計画を遂行していた」。

彼らは、一般市民としてひっそりと暮らしながら、テロの準備を進めていたという。

そして1976年の白書には、彼らの動機に繋がる分析も記載されている。以下引用する。

「これらの犯人グループが企業爆破事件を企図した根底には、「我が国ではすでに一般の労働者は革命へのエネルギーを失い、アイヌ、在日朝鮮人、日雇労働者等の少数の差別を受けている人だけが、革命の主体になりうる。」という『窮民革命論』の強い影響があった。犯人らは、こうした立場から、日雇労働者の最大の敵は大手建設業者であること、東南アジアでも我が国の国外進出企業の搾取によって『窮民化』が進んでいること、したがって、これらの建設企業、進出企業を攻撃することが『窮民革命』の実践であるとして、爆弾闘争に踏み切ったとみられる」

東アジア反日武装戦線は「革命」の実践のために爆弾闘争に踏み切ったという。

50年間の逃亡生活で、「革命」とはほど遠い現代日本でひっそりと暮らしてきたであろう桐島容疑者。まだ本人と確定したわけではないが、50年間何をしていたのか、一連の事件の被害者に対して謝罪の気持ちはあるのか、爆弾闘争に踏み切ったことが正しかったと今でも思っているのか…聞きたい事は沢山ある。

末期がんに冒されているという情報もあるが、桐島容疑者が何を語るのか、注目される。

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。