今は受験シーズン真っ只中。受験生は勉強をしていて、集中力が落ちることもあるのではないだろうか?
そのような時に、集中力を高めてくれるかもしれない“ある方法”が見つかった。それが三菱鉛筆、芝浦工業大学の菅谷みどり教授、ストーリア株式会社が共同で実施した実証実験だ。
学習中に特定の音による聴覚刺激で集中力が向上する可能性についての実証実験を行い、集中力が落ちてくるタイミングに「川のせせらぎ」を流すことで、集中力を表す脳波が上昇することを確認したというのだ。
この結果について三菱鉛筆は「学習時の集中力が切れるタイミングで、背景音として『川のせせらぎ』を流すことで、集中力が維持、向上できる可能性があることが分かりました」としている。

「川のせせらぎ」を流すことで、集中力を表す脳波が上昇したということだが、この理由は何なのか?また、今回の結果をどのようなことに活用しようと考えているのか?
三菱鉛筆の担当者に聞いた。
「自然音のストレス軽減効果」が関係している可能性
――このような実証実験を行った理由は?
今回の研究は、三菱鉛筆株式会社、ストーリア株式会社、芝浦工業大学も菅谷研究室が共同で行った実験です。今回の実証実験における立場や目的は異なるので、当社の立場からご回答させていただきます。
当社は、創業より筆記具という商品を通じて、“書く・描く”という人々の「ユニーク」を表現するという価値を提供してきたと考えております。
そして、2022年、「ありたい姿2036(長期ビジョン)」として、「世界一の表現革新カンパニー」、企業理念として「違いが、美しい。」とすることを公表しました。
その趣旨としては、これまで当社が提供してきた価値に加えて、筆記具づくりに限定することなく、“書く・描く”ことを通じた“表現体験そのもの”を創造することで、世界中あらゆる人々の個性と創造性を解き放ち、提供価値をさらに広げ、高めていくことを目指していくというものです。
本実験は、 ひとり一人において異なる集中状態を把握することによって、より効率的かつ的確な学習や作業を実現するという新たな価値提供を実現することを目的として、実施いたしました。
――実証実験の方法は?
実証実験の手法につきましては、芝浦工業大学様に、基となるアイデアを出していただきました。
実験は、「EEG(Electro Encephalo Graphy)」という脳の活動状態を計測する脳波計を用いて、この脳波計を装着した実験協力者に対し、情報処理能力を測定する「PASAT」というテストを実施しました。
PASATテストは、 一定のリズムで読み上げられる1桁の数を聞き、 前後の数を加算した数を順次回答するストレステストの一つです。前半と後半、それぞれ2分の計4分間行い、後半の2分間では実験協力者に複数の刺激を提示しました。
複数の刺激としては、背景音(ホワイトノイズ、川のせせらぎ、クラシック音楽)と環境光(Red、Blue、Green Light)の6つを比較しました。

――「川のせせらぎ」を流すことで、集中力を表す脳波が上昇した理由は?
集中力を表す脳波が「川のせせらぎ」を流すことで上昇した理由については、現時点ではまだ特定できていません。今後の調査によって、理由などが明らかになることが期待されます。
理由としては、いくつか考えられますが、そのうちの1つとして「自然音のストレス軽減効果」が関係している可能性があります。
過去の研究では「自然音のストレス軽減効果」について述べられています。この中では、大きなストレス状況に陥る前に水の音を聞くと、脳の一部で自律神経を制御する(視床下部)部分を通じて、ストレス低減作用が得られるということが述べられています。
従来の研究では、こうした自然音のストレスへの自律神経系への影響が調査されていますが、それが集中(脳)とどのように関係するのかといった視点での研究は、まだ十分ではありません。
今後の調査により、集中との関連や、さらに多くのことが明らかになることが期待されると思います。
「作業環境の改善や教育の場での応用が考えられる」
――「ホワイトノイズ」は、どんな音?
「ホワイトノイズ」は人間が聞き取れる範囲の周波数帯域全ての成分を均一に含んでいる音で、「サー」という音です。一般的にテレビやラジオの砂嵐の音で例えられるものです。
――「クラシック音楽」で、かけた曲は?
実験で実際に用いた曲はショパンの「Nocturne Op.9, No. 2」です。
――「ホワイトノイズ」「クラシック音楽」では、集中力を表す脳波は上昇しなかった?
「ホワイトノイズ」「クラシック音楽」では、2回目のテストで有意に正答率が下がることがわかりました。
ただし、これらの研究では、集中との因果関係は十分に明らかになっておらず、今後は今後の調査により多くのことが明らかにできればと考えています。

――「川のせせらぎ」を、勉強をし始めた時から流し続けていても、効果はない?
今回は実験していないため、お答えすることができません。今後の調査によって、様々な条件下における効果について明らかになることが期待されます。
――「川のせせらぎ」を流すことは、勉強だけでなく仕事にも応用できる?
「川のせせらぎ」などの自然音の集中維持効果が普遍的なものなのか、それとも音楽の場合のように個人差に依存するのかは、まだ多くの研究がなされているので、確定的なことは申し上げられません。
――今回の結果を今後どのようなことに活用しようと考えている?
今回の研究結果は、将来的に作業環境の改善や教育の場での応用などが考えられるかと思います。
ただし、今回の実験はあくまで潜在的な可能性を探るものです。
集中力は、認知プロセスにおいては極めて重要なものです。今後も、様々な共同研究などを通じて、新たな価値創造を図り、多様な社会課題解決に貢献していきたいと考えております。

「川のせせらぎ」を流すことで集中力を表す脳波が上昇した理由は現段階では特定できていないが、「自然音のストレス軽減効果」が関係している可能性があるという。
入試を控えている受験生は、集中力が落ちたと感じたとき、「川のせせらぎ」の音を聴いてみてはどうだろうか。落ちてしまった集中力が向上していくかもしれない。