いよいよ大学入学共通テストまで1週間を切った。また大学だけではなく、中学校や高校などの入試も控えていて、今年度も本格的な受験シーズンが到来した。年明け気分もそこそこに、すでに緊張し始めている受験生もいるかもしれない。

いざ本番で、頭が真っ白になったら?パニックになったら?そんな時に緊張を和らげ、落ち着きを取り戻すにはどうすればいいのか。

受験生の脳機能を専門に扱う「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長
受験生の脳機能を専門に扱う「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長
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「受験うつ」など、受験生の脳機能を専門に扱う「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長に話をきいた。

緊張するのは悪いことではない?

そもそも人間は生命などの危機に直面した場合、ストレスホルモンを増やしたり、交感神経を優位にすることにより、筋力や判断能力を増強する仕組みを獲得したという。これが「緊張」であり、この「緊張」のお陰で私たち人間は、これから起こりうる災害やリスクなどの不安に備えることができる。

人間になくてはならないこの「緊張」は、受験においても役に立つ。吉田院長によると、本番を間近に控え「よし、力を出し切って頑張るぞ」とポジティブな心地よい緊張を感じた時は、集中力や思考力が高まるという。

ポジティブな緊張感は、集中力や思考力を高める。しかし“良くない緊張”にとらわれてしまうと…
ポジティブな緊張感は、集中力や思考力を高める。しかし“良くない緊張”にとらわれてしまうと…

一方で、緊張をコントロールできず、暴走してしまった時は厄介だ。「どうしよう、ダメかもしれない」と“よくない緊張”にとらわれると、集中力や思考力が低下し、逆にパフォーマンスが低下。最悪の場合は「受験パニック」に陥ってしまうのだという。

「デリケートな人は時に偏差値-10」メンタルの重要性

「受験パニック」とは、受験時に動悸(どうき)や発汗、窒息感、吐き気、めまい、コントロールできない恐怖心、といった不快な症状が現れることだ。アルファベットや文字が何かの記号に見えてしまったり、視野が狭くなって問題文が読めなくなったり、自分が今何をしているのかわからなくなってしまうこともある。

「受験パニック」に陥ると思考力がほぼ0に。一刻も早く抜け出し、目の前の試験に集中するにはどうすればいいのか
「受験パニック」に陥ると思考力がほぼ0に。一刻も早く抜け出し、目の前の試験に集中するにはどうすればいいのか

吉田院長は「一般的な模擬テストに換算した場合、そもそも、メンタルにより偏差値が+3 ~ -5程度変動するのは普通のこと。さらにデリケートな人の場合は、-10程度に相当する悪影響を受けます。そんな中で受験パニックに陥ってしまうと、大半の受験生が無条件に不合格となります」と話す。

時間との闘いでもある試験本番では、パニックに陥らない、陥ったとしてもすぐに立て直すことが必須。合格を勝ち取るためには、緊張をコントロールすることも重要な要素なのだ。

「受験パニック」防止!直前の追い込みは厳禁 睡眠リズムを整えて

では受験を直近に控えた今、緊張を和らげるためには具体的に何をすればよいのか。

不安感を払拭するため、とにかく1点でも多く点数をとろうと、がむしゃらに最後の追い込みをかけている人もいるかもしれない。しかし吉田院長は「最後の追い込みで得点が上がることはほぼなく、下げるだけ。受験パニックを誘発するので、最もやってはいけない」と警鐘を鳴らす。

吉田院長によると、良くも悪くも必ず緊張する受験本番で、新しく得た知識を自由に使いこなせるようになるには約2週間は必要だという。「新しく詰め込んでも脳が疲弊するだけ。これまでの知識を思い出すために復習したり、過去問や模擬テストを解き直す方がいい。ケアレスミスの確認をして対策をするのも、効果が高くオススメです」と話す。

適度な運動は脳を活性化させる。バランスのとれた食事、家族との会話もリラックス効果を生む
適度な運動は脳を活性化させる。バランスのとれた食事、家族との会話もリラックス効果を生む

しっかりと本領を発揮するためには、同時に体調を整えることも大切だ。睡眠を見直して体内時計を調整し、体操や散歩など適度な運動をする、バランスのとれた食事をとる、などだ。

具体的には、脳を覚醒させるために8時間は睡眠を確保し、試験開始3時間前に起きるようリズムを調整する。例えば試験開始が午前9時であれば、前日夜9時には寝る準備をし、10時には入眠、朝6時に起きる。できれば2週間前までにはこのリズムを整えておきたい。

睡眠のリズムを整えることは、若い女性に多い「過呼吸」防止にも有効だという。

睡眠は8時間確保し、試験3時間前に起床するのが理想。今からでも睡眠リズムを整えて
睡眠は8時間確保し、試験3時間前に起床するのが理想。今からでも睡眠リズムを整えて

また、普段から大事な時にお腹を壊しやすい人は、試験までに一度は内科や胃腸科を受診するのがオススメ。腸の調子が悪いと思考力も低下してしまうため、自分に最適な下痢止めを医者に処方してもらって持っておくと安心だ。

いざ本番!でも頭が真っ白…脳を「再起動」させる6つの方法

しかしいくら対策をしていても、ピリピリとした空気が漂う本番では、頭が真っ白になってしまう人もいるかも知れない。

そんな受験パニックに陥った時、脳を「再起動」させるために有効な方法は次の6つ。時間がある、試験問題が配られている最中などにやっておくとなお良いという。

【ゆっくり息を吐く】
5秒以上かけて、無理のない範囲でできるだけゆっくりと息を吐く。副交感神経が優位になり、リラックス効果を得られる。
1回でダメなら、何回か繰り返す。

【筋弛緩法】
全身どこでも良いが、座っていることが多いと思うので腕や肩などがオススメ。
とにかく「グッ」と力をいれた後、ゆっくりと息を吐きながら緩める。

肩や腕に力を入れた後、緩めると心の緊張も和らぐ。吉田院長によると「適当にやるだけでもかなり効果があります」
肩や腕に力を入れた後、緩めると心の緊張も和らぐ。吉田院長によると「適当にやるだけでもかなり効果があります」

【目を閉じる】
大脳新皮質の70%は視覚情報処理に関わっているため、視覚情報をシャットアウトすることで脳の負担を軽減し、余裕を持たせる。

【カウント法】
「1、2、3…」とカウントするが、先述した通り目を閉じながらやると有効。悪い考えを断ち切ってリセットし、目の前の問題に集中できるようにする。
試験中なら3秒、試験前なら20秒ほどカウントするといい。

【部分的に頭の中で“音読”をする】
受験パニックが起こると、多くの場合、言語中枢は「ダメかも、どうしよう」などと良くない考えを頭の中に渦巻かせ、症状を悪化させてしまう。
別のことを考えるのをやめて集中するために、頭の中でとにかく問題文を“音読”する。

悪い思考を断ち切るため、とにかく指を動かす。とりあえず図解してみたり、線や丸をつけてみたりするのもオススメ
悪い思考を断ち切るため、とにかく指を動かす。とりあえず図解してみたり、線や丸をつけてみたりするのもオススメ

【指を動かす】
不安を生む神経回路をグルグル回っている脳に、指の感覚で刺激を与え、リセットさせる。
とにかく何でも指を動かせばいいが、試験中であればとりあえず問題文のキーワードとなりそうなところに丸や線をつけてみたり、図解してみたり、といった動作がオススメ。

また試験直前や、休憩時間の緊張緩和には、家族との会話も効果的だ。
しゃべることが息を吐くことにつながるほか、自分の“圧倒的味方”とコミュニケーションをとることがストレス緩和につながるという。あらかじめ両親などに「この時間に電話をするからとってね」と伝えておくと安心だ。

受験本番までまだ少し日にちがある人は、過去問などを解く時に、以上の動作を練習しておくといいという。もし頭が真っ白になってしまった時でも、冷静に対処できるようにしておこう。

「余裕で合格だから大丈夫」そんな人に潜む落とし穴

中には、「私はできる限りのことをやってきたし、合格しないわけがない。緊張なんて全くしないから大丈夫」という人もいるかもしれない。しかし、そんな人にも意外な落とし穴が潜んでいるという。

本郷赤門前クリニック 吉田たかよし 院長:
「自分は合格して当たり前」という慢心した気持ちで臨むと、少し予想外の問題に出くわしただけで、一気にパニック状態に陥る危険性があるので注意が必要です。チャレンジ精神を忘れず、よい緊張感を持って臨めるのがベストだと思います。

大事な時期にメンタルどん底…経験者からのエール

今回、話を聞いた吉田院長は、実は高校3年生の大事な時期に「うつ」を経験している。3年生の1学期に、誤診により処方された薬によって、重いうつ病を発症してしまったというのだ。

吉田院長は「勉強どころか布団から出ることもできず、2学期は出席がほぼゼロという状況でした。受験どころか人生が終わったと思いました」と笑顔で話す。その後、当時の恩師から、本記事で紹介した睡眠などの適切なアドバイスを受けたほか、セカンドオピニオンで原因となっていた薬をやめ、適切な治療を受けて急速に回復したという。

自身も現役の際、メンタルがどん底状態に陥ったという吉田たかよし院長
自身も現役の際、メンタルがどん底状態に陥ったという吉田たかよし院長

とはいえ、共通第1次学力試験(現在の大学入学共通テストに当たる)の日にはギリギリで「試験会場に行ける」という状態だったそうだ。そして2次試験の日には完全に回復し、無事、東京大学に合格した。

そんな、メンタルの重要性をイヤというほど痛感した吉田院長から、受験生にエールをもらった。

本郷赤門前クリニック 吉田たかよし 院長:
心が十分に成熟していない小中高生にとって、受験は脳にも心にも、とても厳しい試練です。でも、社会に出たらもっとシビアな試練が待っています。
試練から精神的に逃げ出すのではなく、ポジティブな気持ちでチャレンジできたら、その経験はかけがえのない財産となります。
たとえ入試の結果はどうであれ、試練に立ち向かったあなたは人生の勝利者になれると確信しています。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。