パリオリンピックの女子レスリングに出場する高知・香南市出身の桜井つぐみ選手。夢の舞台に向け練習に励む姿を追った。
57kg級で世界ランキング1位・桜井つぐみ選手
群馬県にある育英大学。
この記事の画像(19枚)男女合わせて49人が所属するレスリング部には、男子選手と互角に渡り合う女子選手がいる。香南市出身の4年生、桜井つぐみ選手だ。
57kg級の日本代表として、7月に開幕するパリオリンピックに出場する。
桜井選手は2023年9月、セルビアで行われた世界選手権に出場。前年に59kg級を制した世界王者との決勝は彼女らしい戦いだった。
3点リードで試合を展開するも、残り26秒で1点差に詰め寄られたが、「粘り勝ち」した。桜井選手のスタイルだ。
試合後のインタビューで「最後まで勝ちにこだわった試合になったかな」と語った。
世界選手権を3連覇。
念願のオリンピック日本代表の座を勝ち取った。
“世界1位”が語る夢に向かう練習
練習は毎朝6時半から始まる。
57kg級で現在、世界ランキング1位だが「世界選手権が終わってからも課題がたくさんあったし、まだまだもっと強くならないと、絶対、勝てるまでいけないと思うので、もう一段階、二段階、強くならないといけないと思って練習している。まだまだやることがいっぱいあります」と今後の試合に向けてさらに日々のトレーニングに励んでいる。
指導しているのは柳川美麿監督。
桜井選手の父・優史さんは、群馬大学の卒業で、かつて柳川監督の父親にレスリングの指導を受けていた。そんな縁もあり、柳川監督は子どもの頃から桜井選手を知っていた。
柳川美麿監督:
今もやっているんですけれど、腕取り。あれが1番得意な技です。腕取ってそこからの展開を作るというのが得意ですね。腕取り自体で点数までつなげられる選手がなかなかいない。ここにもほとんど。桜井つぐみだけです。
朝練のあとは朝食。毎朝、マネージャー手作りの料理をみんなで食べている。
桜井選手は元々55kg級だったが、オリンピック種目ではないため57kg級に上げた。そのためか、朝の食欲は「あんまりないです」と話すも大盛りの親子丼を食べていた。
桜井つぐみ選手:
体重が減り過ぎたらだめなので、たくさん食べるようにはしている。
夢はオリンピックで優勝
レスリングを始めたのは3歳の頃。
父・優史さんが設立した高知レスリングクラブで厳しい指導のもと、1歳下の妹・はなのさんといつも泣きながら練習をしていた。
小・中学校では大会での優勝経験も増え高知の若きエースとなる。しかし、父親からは、「当たり前のことやってくれんか。中学校1年生なのに何回こんなこと言わすの。お前、何回言われてんだよ、二度と言わすなよ」という厳しい言葉も飛び出す。
それでも、つらい練習に耐えていたのは、かなえたい夢があったからだ。
桜井つぐみ選手(当時12歳):
オリンピックで優勝することです。
小学校で全国選抜3連覇したのを皮切りに、その後も全国と名の付く数々のタイトルを手に入れてきた。
妹・はなのさんも同じ育英大のレスリング部に入部。2023年に全日本社会人選手権の50kg級で優勝するなど成長を遂げている。
姉のオリンピック出場について、はなのさんは「やっぱり優勝したいって思っていると思うんですけど、それを考えすぎると自分のやってきたこととか出せなかったりするので、自分がやってきたことを全部、その一試合一試合で出し切ってほしい」と話していた。
金メダルに向け進化を続ける桜井選手が毎日通っているのがトレーニングジムだ。専属コーチとマンツーマンで筋トレ。この日は自分の体重とほぼ同じ55kgのバーベルなどを使い、腕や胸の筋肉を鍛えていた。粘り強さが持ち味だが、今は瞬発力などの課題に取り組んでいる。
寮では、はなのさんと後輩の3人部屋で生活している。
桜井つぐみ選手「やばいわ、明日テストや、わたし」
後輩「え、ガチすか?勉強して絶対に。何のテストですか?(自動車の)仮免?」
桜井つぐみ選手「うん」
パソコンに向かって書いていたのは卒論。
桜井つぐみ選手:
「日本女子レスリングの歴史と指導方法について」というテーマで書いているんですけど、自分の経験とかも入れながら書いています。
ーーあいみょんのファン?
桜井つぐみ選手:
あいみょん、めっちゃ好きなんですよ。高校の時から歌が好きで友達とずっと歌ってたんですけど、歌も好きだし人柄も好きだしって感じです。
2023年の年末、高知に帰省していた桜井選手。
父、優史さんが見守る中、地元のレスリング仲間との合同練習に参加した。
桜井選手の相手をしているのは日本体育大学の4年生、清岡幸大郎選手だ。桜井選手はこの日の数日前に全日本選手権を制し、オリンピック出場に一歩近づいた。
2人は高知レスリングクラブの幼なじみで、高知南高校の同級生。
日体大4年・清岡幸大郎選手:
(桜井選手は)ライバルであり仲間であり、共に切磋琢磨しあえるような存在。(オリンピックでは)緊張すると思うんですけど自分のやってきたことを信じて、何より楽しみながら自分の目標を達成できるように頑張ってほしい。
父・優史さん:
勝てない時期もありましたけど。元々、性格も格闘技向きではないですし、身体能力もすごく高いわけではないんですけど。いろいろ技術的なこととか、今は精神的な面、よく頑張ってここまで成長したなって
目指すのはただ一つ!
この日の夜、桜井選手の激励会が開かれ、多くの人からの寄せ書き、これまでの写真などが飾られた中、家族やレスリングの仲間たち約130人が集まった。
後輩たちからは「つー(つぐみ)ちゃん、頑張れ」と激励の言葉があった。
桜井つぐみ選手:
本当にたくさんの人に支えてもらって、ここまで来ることができました。本当にありがとうございます。
日本代表の座を勝ち取り、次に目指すのはただ一つ。
桜井つぐみ選手:
自分の知っている人だけでなくて、知らない人も応援してくれていることが本当にありがたい。絶対オリンピックで金メダルを取って、持って帰ってたくさんの人に見てもらいたいと思うので、これからも応援よろしくお願いします。
レスリングでのオリンピック出場は男女を通じて高知県勢では初めて。
金メダルを獲得すれば、1932年のロサンゼルスオリンピックの横山隆志さん(水泳・800mリレー)と北村久寿雄さん(水泳・1500m自由形)以来で、92年ぶりの快挙となる。
また、桜井選手の幼なじみである清岡幸大郎選手は、4月のオリンピックアジア予選で決勝に進出するか、5月の世界最終予選で3位に入ればオリンピックの日本代表に内定する。
高知に生まれ3歳から歩んだレスリングの道。
2024年、桜井選手の大勝負が始まる。
(高知さんさんテレビ)