鹿児島・奄美群島が戦後の米軍統治から日本に復帰して2023年12月で70年となる。奄美大島には「奄美の言葉」を大切にして島の文化を伝え続けるコミュニティーFM局がある。奄美市のコミュニティFM「あまみエフエム」だ。

シマグチでニュース伝えるラジオ番組

「こんにちは」を意味する「うがみんしょーろー」と元気な挨拶で始まった番組。「シマユムタ」と呼ばれる現地の方言で、島の1週間を紹介する番組が始まった。

シマグチで奄美大島の1週間を伝える「シマグチNEWS シマユムTIME」
シマグチで奄美大島の1週間を伝える「シマグチNEWS シマユムTIME」
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週に1回放送されている「シマグチNEWS シマユムTIME」では、奄美の方言「シマグチ(島口)」で、ニュースを伝えている。

この日は、奄美市内にある鹿児島県立奄美高校の生徒が観光ツアーを計画し、ワールド航空サービスと一緒に「奄美大島ふれあい旅」というツアーを生徒たちがプロデュースしたニュースを、シマグチで軽快に伝えていた。

ただ読み上げるのではなく、ワンフレーズごとに、出演者のリアクションが入るのがアットホームな雰囲気を醸し出す。

かつて薩摩藩と琉球王国の影響を受けたことで、独特の方言や文化が生まれた奄美。あまみエフエムが大切にしているのは「自分たちの島のことを大切に思ってもらうきっかけになれば」という思いだ。

あまみエフエム・麓憲吾代表は「島に生まれ育ったこと、島のアイデンティティーが大きなテーマ。足元のものを自分たちですくって、自分たちで浴びて、自分たちで潤いを感じるという環境が(ラジオなら)できるんじゃないかと思った」と話す。

島民がゲストに!奄美の“名物番組”

開局から16年、島民おなじみの名物パーソナリティーが2011年からラジオに出演し始めた渡陽子さんだ。

毎日の番組をほぼフリートークでこなす名物パーソナリティー・渡陽子さん
毎日の番組をほぼフリートークでこなす名物パーソナリティー・渡陽子さん

毎日お昼に生放送されるレギュラー番組には台本がない。あるのは流れを記したA4のキューシート(進行表)のみで、ほぼフリートークだ。

「みなさーん、うがみんしょーらー!お昼の生ワイド番組ヒマバンミショシーナー」と渡さんの元気なタイトルコールが流れる。

放送所近くを通りかかった島民がゲスト出演!
放送所近くを通りかかった島民がゲスト出演!

放送所は奄美市中心の商店街に近い。通りかかった島民も即席のゲストとなる。この日は七五三帰りの男の子が“出演”した。

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
かっこいいー、どこに行ってきたの?5歳?だと思ったー。お名前なんて言うの?

りょうと君:
りょうと!

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
よし!このあと出てもらうから待っててね

渡さんは、りょうと君に色々と質問しながら番組を進行していった。自分のおしゃべりだけでなく「島民の声を伝える」。それが渡さんの考えるラジオの在り方だ。

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
大きくなったら何になりたいの?

りょうと君:
幼稚園の先生

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
えー、すてき!!何でそう思ったの? 

りょうと君:
なりたいから

島民一人一人の声を…“日本復帰”を取材

2023年12月、日本復帰70年を迎える奄美群島。渡さんが取り組んでいる取材がある。

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
シマグチでいつもお世話になっているお姉さんがいらっしゃって、その方に復帰のお話とか短めのインタビューに来ました

奄美群島の日本復帰当時を知る女性を取材
奄美群島の日本復帰当時を知る女性を取材

訪ねたのは奄美市内で菓子店を営む女性のもとだ。女性はシマグチで当時の思いを語った。ここではその内容を共通語で記す。

大迫製菓・大迫正子さん(84):
(奄美群島が日本に)復帰した時の思いは、まだ子どもだったけど「よかった」って。東京や大阪にも行けたのは日本復帰のおかげ。やっぱり日本についてよかったと思う。先輩方にありがとうと、今はいらっしゃらないけれど、みなさんのおかげという気持ちでいっぱい

渡さんのインタビューの目標は100人。その後も商店街を歩きながら、復帰当時のこと、尽力した先人たちへの感謝と、子供から大人まで、島民一人一人の声を拾っていく。

年配の男性を見かけた渡さんは、すかさず「あ、出ませんか?先輩、インタビュー」と問いかけた。男性は74歳で、「復帰の時はちょうちんを持って歩いたよ、近くの小学校から」と気さくに取材に応じてくれた。

小学生の時、日本復帰をテーマにした劇を上演したという女性は、「前で見ていたおばあちゃんとか年配の方が、すごく大泣きして見てくれたのを思い出す」と当時の思い出を語った。

あまみエフエム パーソナリティー・渡陽子さん:
みんなが島の将来を思って「このままじゃよくない」「絶対日本に復帰していい島にするんだ」という思いで取り組んできてくれたから、今の奄美大島、こうやって皆さんに喜んでもらえる島になっている。じゃあ自分たちが残していくことって何が大事なんだろうと思うんですね。自然もだけど、文化を残していけたら。人間関係、島の営みそのものを残していけたらと思うんです

放送に“島ならではの心を添えて”

ラジオというメディアを通して伝える奄美の文化や歴史。そこに寄り添う“シマグチ”。島の人にとっても残したい大切な文化だ。

シマグチでニュースを伝える“女性キャスター”たちは「(シマグチは)島全体の子守歌みたいな安らぎとほっとする気持ち」「本当に心に残るもの。じーんとくる。情けのある言葉に思う」と話す。その表情は誇りに満ちていた。

「シマグチでしか伝えられない島の心が含まれていると思う」と言う渡さん。「あまみエフエムを聞いたら元気になるよね、島の生活って楽しいよね、島でこんなに頑張っている人がいるんだ、自分も頑張ろうとか、大事にしようとか、島、島、島っていうのをずっと流していけたら」と目を輝かせた。

島ならではの心を添えて。きょうも奄美の街にはシマグチのラジオが流れている。

(鹿児島テレビ)

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