近年、福井県の沿岸で野生のイルカによる被害が相次いだ。海水浴シーズンを前に、県は、被害をもたらしているイルカを特定し、発信器を装着した。リアルタイムで位置を監視し被害を防ぐことを目指す。背景には、観光地の評判を左右しかねないほどの被害と、野生動物への対応の難しさがあった。
人慣れしてしまった“かみつきイルカ”に発信器
福井県内の沿岸では、野生イルカにかみつかれるなどして過去3年間で53人がけがをし、その多くが中京・関西圏からの観光客だった。
県対策検討委員会の森阪匡通委員長は「イルカは基本的に人に会ったら寄って来ることはなく人を避けるが、人に慣れる経験をしてしまった」と話す。

県は被害を及ぼしているイルカは特定の1頭であるとみて、行動を監視する対策を検討。法律上、イルカの捕獲は原則禁止されているが、試験研究の目的で国の許可を得て、2025年6月にそのイルカが小浜市宇久漁港に入ってきた際、発信器を装着した。県対策検討委員会の森阪匡通委員長によると「世界的に見ても重要な例になる」という。

リアルタイムで位置を把握し被害防止へ
実はこのイルカ、小浜市の宇久漁港で3月頃からたびたび姿が確認されていた。取材班が乗る漁船にも並走し、人に慣れた行動が目立っていた。
「網を出たり入ったりするし、船が港に帰ってきた時に船に並走してくる。こんなに人に慣れたイルカは初めて」と漁師も驚きを隠せないでいた。

発信器による位置情報共有システムは6月30日から始まり、観測装置を通じて県や自治体、海水浴場の関係団体に情報が即時に共有される。誤った接触を防ぐため、一般には公表されない。イルカの接近時には、場内アナウンスやSNS通知などで海水浴客への注意喚起が図られることになっている。
県内外から毎年数万人の海水浴客が訪れる美浜町の水晶浜では2023年から、野生のイルカが海水浴客にかみつき、けがをさせるケースが後を絶たなかった。地元では海開きの是非についても議論を呼んだ経緯もある。
こうした事態を背景に、海の家のスタッフはイルカへの発信器の装着に大きな期待を寄せている。

7月1日に海開きを迎えた小浜市では、“かみつきイルカ”に発信器が付けられたことに安どする声が聞かれた。

発信器でイルカの位置を“見える化”する新たな取り組み。果たして、安心して海水浴を楽しめるシーズンとなるのか、その効果が注目されている。