食の雑誌「dancyu」の編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

今回植野さんが紹介するのが「ハンバーグ載せピラフ」。東京・入谷の名店を訪れ、店主に頼み込んでおいしさの秘密を学ぶ。一家一丸で続けてきた「喫茶トロント」の58年の歴史を振り返り、最後に秘伝のレシピを紹介する。

下町・入谷で50年以上続く「喫茶・トロント」

スカイツリーを間近に臨む下町・台東区入谷。江戸時代の始めまで「千束池」という大きな沼地があるなど湿地帯が広がっていたが、徳川家康が大規模な埋め立てを敢行。

その後アサガオ栽培が盛んとなり、1,000種以上もの品種が誕生したという。今でも7月には色とりどりの朝顔が購入できる「入谷朝顔まつり」が開かれている。

この記事の画像(12枚)

そんな下町・入谷の大通りに面した入谷駅から徒歩一分と、目と鼻の先の好立地にある「喫茶トロント」(東京都台東区入谷1-6-16)。50年前にマスターが奮発して設置したという深紅のソファーに、特徴的なデザインのシャンデリアが今も残り、昭和レトロな雰囲気が愛されている。

家族経営「喫茶トロント」のメニューの秘密

トロントは家族経営の店だ。

昭和レトロなお店としても愛されている
昭和レトロなお店としても愛されている

主にドリンク類を担当するマスターの大野勝弘(かつひろ)さんと、洗い物を専門に行う妻・一二三(ひふみ)さん。長男で調理を担当する貢一(こういち)さんと、その妻・美枝子(みえこ)さんは主に接客担当。さらに貢一さんの妹、多香子(たかこ)さんは、接客から調理までなんでも担当。家族5人で全てを回している。

常連客が「野菜も採れるから」と週4~5日は食べるというモーニングに始まり、ランチ、ディナーと、喫茶店とは思えないラインナップが揃う。

細麺を使った懐かしい味わいの「ナポリタン」に、薄切り肉をたっぷりと使った「生姜焼き」。喫茶店ならではのオムライスや、デザートにはちょっと固めの食感がたまらない「プリン」など、豊富なメニューが楽しめる。

地元に愛される喫茶店の歴史は?

マスター大野勝弘さんの出身は、入谷から程近い東京・御徒町。

家族5人で守り続ける喫茶トロント
家族5人で守り続ける喫茶トロント

喫茶トロントを始めたのは58年前の1965年のこと。コックだった弟さんと2人で立ち上げた。

時を同じくして、勝弘さんは上野の喫茶店の同僚だった一二三さんと結婚。弟が独立した後、妻も店を手伝うことになる。経営状態も決して悪くはなく、その後長男・貢一さん、長女・多香子さんと2人の子供にも恵まれ、大塚家と喫茶トロントは順調だった。

その後、多香子さんは会社員に。料理が好きだった貢一さんはレストランで働いていたが、2人とも店を継ぐつもりは無かったという。しかしマスターの勝弘さんが60歳の時、突然病に倒れてしまった。2人の子供は「いま店を潰すわけにはいかない。他の人に任せるくらいなら家族がやる」と一念発起してトロントに家族が集まった。

幸いマスターは1ヶ月ほどで回復したが、家族はそのまま残り、一家が助け合う今の形となった。

特製ピラフ〜自家製ハンバーグ添え “秘伝”のレシピ

そんなトロントで、ガッツリ派の人気メニューとなっている名物メニューが「特製ピラフ〜自家製ハンバーグ添え」だ。

ひとくち食べた植野さんは「スパイスどうこうではなく、安心するような味」とつぶやく。

時間のない中、素早く食べられるようにと、バターと塩が効いたピラフにジューシーなハンバーグを乗せたら、これが大好評に。「年配のお客さんも食べやすいように」と気遣い、ハンバーグの食感を柔らかくするなどの工夫をしているという。

肉、ソース、ピラフが奏でるトライアングル。喫茶トロント・特製ピラフ〜自家製ハンバーグ添え〜のレシピをご紹介する。