食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが今回紹介するのは「ペスカトーレ」だ。訪れたのは、東京・築地で乾物店や佃煮店の並びに突如現れる、海鮮を使った料理が人気のイタリアン「トラットリア築地パラディーゾ本店」の厨房。
本場、南イタリア・アマルフィの味にどれだけ近づけるのか!記事の最後で秘伝のレシピも紹介する。
築地で目立つ新鮮魚介のイタリアン
日本の食文化を凝縮させたような街、築地。
日本の開国に伴い、1869年に「築地居留地」が設けられた築地には、商売をする外国人はもちろんだが宣教師や教師、医師など文化や教育に関わる外国人もたくさん暮らしていたという。
1935年には築地市場が開場し、西洋文化の街から食の街へと姿を変えていった。

「トラットリア築地パラディーゾ本店」(東京都中央区築地6-27-3)は、すし店や食材専門店が軒を連ねる築地の場外で、ひときわ目を引くブルーの看板が目印の店だ。
日によっては開店と同時にカウンターとテーブル席が埋まる人気店だが、席がいっぱいでも店先に並ぶ必要はなく、順番がきたら連絡してもらえるシステムとなっている。
当日届いた新鮮な食材でメニュー決定
店内は地中海をイメージしたというオシャレな雰囲気。当日店に届いたばかりの食材から、提供するメニューが決まるという、築地らしいイタリアンだ。

築地だからこその新鮮な魚介を使った料理は、場外で働く人や観光客に支持されている。
魚介の味わいを最大限に生かし、トマトとバジルで爽やかに仕上げた「アクアパッツァ」や、南イタリアでは定番の「ズッキーニとチーズのスパゲッティ」が人気。

「トラットリア築地パラディーゾ本店」の他のメニューを写真で見る
さらに魚介だけでなく、食べ応え抜群の肉の炭火焼き盛り合わせまで、豪快な南イタリアの料理を思う存分堪能できる店だ。
超アウェーな街で孤軍奮闘した日々
いつか自分の店を開きたいと思いながら、日本のイタリアンで働いていた店長・久野貴之さん。

30歳の時、南イタリアの世界遺産・アマルフィの町を初めて訪れ、そこで食べた料理に衝撃を受けたという。
「この料理とこの街の雰囲気を味わえるお店を出したい!」
そんな気持ちを抱えたまま修業に励んでいた久野さんだが、イタリアで味わった“衝撃”から8年後、築地で惣菜店が閉店し、店舗を貸し出そうとしていることを聞きつけた。
「漁業が盛んなアマルフィの料理を出すには、築地はぴったりだ」と、すぐに大家さんの元へ急いだ。
イタリアンと聞いた大家さんの反応はいまいちだったが、久野さんの熱意が伝わったのか「なんとかやってみろ」と背中を押してくれ、2011年、築地にパラディーゾを開くことになった。

しかし、当初は「築地なら和食か寿司でしょ?イタリアン?無理無理!」「こんな店すぐ潰れるだろ?」と容赦ない街の声が耳に届いたという。
その声に「今に見とけよ!」と奮起したと明かす久野さん。
そんな頃の店を支えたメニューが、現在も看板メニューであるペスカトーレだ。港町のアマルフィで昔から食べられているペスカトーレは、新鮮な魚介が集まる築地にぴったり。その味は評判を呼び、パラディーゾはすぐに人気店となった。

「ペスカトーレ」は日本語に訳すと「漁師風」という名のパスタ。
トマトやアサリ・ホタテなど新鮮な貝類を煮込み、抽出したソースをじっくり煮詰めてパスタを合わせれば、海の香りが広がる、南イタリアの郷土料理だ!

一口食べた植野さんは「旨味吸い過ぎですよね」と膝を叩く。
築地パラディーゾの名物「ペスカトーレ」のレシピをご紹介する。