食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「ロースしょうが焼き」。
上板橋にある町中華「中華料理 共栄軒」を訪れ、甘辛でしょうがを利かせたタレが、柔らかくジューシーな肉のうま味を引き立てる一品を紹介。女性店主が息子とともに守る、亡き夫との思い出の味にも迫る。
息子の手を借りつつ頑張る女性店主
植野さんがやってきたのは、東武東上線で池袋から約10分の上板橋駅。
地元の人たちが「上板(かみいた)」と呼ぶこの町には、駅の南側には「上板南口銀座商店街」、北側には「上板橋北口商店街」があり、どこかホッとする町並みが広がる。

今年開店から50年目を迎えた町中華「中華料理 共栄軒」。カウンターとテーブル、全部で20席ほどの店内は、昔ながらの落ち着く雰囲気。
この店の厨房で腕を振るうのが、店主の丸山眞喜子さん(74)。夫の好治さんと夫婦二人三脚で営んできたが、2年前に好治さんが他界。
以来、息子の手を借りながらも、ほとんどの料理を眞喜子さんが担当している。素朴な味わいの中にキラリと光る店独自の味付けが特徴の、長く愛され続ける店だ。
働くあとにお金は付いてくる
たくさんのメニューに驚く植野さんは「全部、眞喜子さん1人で作っているのですか?」と尋ねと、頷く眞喜子さんは、「最初は主人と2人で開いたので、2人でやっていました」と話す。夫が2年前に亡くなってしまい、今は「息子がお昼だけ手伝うようになって…」と答えた。

若い頃から夫と一緒に鍋も振っていたと聞き、開店当初、大変だったことを聞くと、「何も中華のことが分からなかったので、全部(夫に)教えてもらって言う通りに作っていました」と眞喜子さん。とにかく全てが大変だったと振り返る。

そんな眞喜子さんの働く背中を、1番近くで見てきた息子に話を聞くと「尊敬だけですね、人類で一番尊敬しているのが父と母。生前、父が言っていた言葉で“働くあとにお金は付いてくる”って言っていたのが記憶にあった。並の人じゃできないことをやっていたなと思っています」と話した。
眞喜子さんは「(夫が)“店閉めて良いよ”って亡くなる3日前も言っていました、せっかく2人で開いたので続けようかなぁ、あの人の思いを…」と思い出深く話した。

本日のお目当て、中華料理 共栄軒の「ロースしょうが焼き」。
一口食べた植野さんは「甘辛のたれがものすごく豚肉に合う」と絶賛していた。
中華料理 共栄軒「ロースしょうが焼き」のレシピを紹介する。