2023年は、新型コロナウイルスの5類移行や水際対策の緩和で環境が大きく変化し、身近な“日用品”でも人気が高かったもの、逆に落ち込んだものに変化があった。では、2024年はどんなものが“売れ筋”商品になるだろう?インテージの小売店販売データ「SRI+」を用いて分析した。
2024年トレンド予測!
今後の消費動向を考えると、「インバウンド」、「気温上昇」、「健康志向」、「値上げ」、「脱マスク」、「外出増」とさまざまなキーワードが挙げられる。
まずは「インバウンド」。人の流れが急速に戻っているが、回復の鈍い中国からの訪日客が増加すれば、「強心剤」をはじめとする「医薬品」は、今後、需要がいっそう拡大するだろう。
この記事の画像(13枚)「気温上昇」の影響もありそうだ。熱中症対策として飲料の需要だけではなく、「日焼け止め」の需要も拡大している。背景には地球温暖化があり、気温上昇の影響は今後も続いていくと予想される。
また、睡眠やストレス緩和によいと訴求する「乳酸菌飲料」や、水分補給でもビタミンを豊富に含む「美容・健康ドリンク」など、「健康志向」の高まりもうかがえそうだ。
一方、直近、値上げによる買い控えが目立つのが、コスパの良さを強みとしていた商品だ。例えば、酒類のうちの一つである新ジャンル。商品の需給に直結する価格の動きも無視できない。
こうした予測のもととなったのが、2023年に売れたもののデータである。
売れたものトップは「強心剤」
2023年(1ー10月計)の販売金額の伸び率ランキングで1位は、動悸や息切れなどへの効用を訴求する強心剤だった。
強心剤は、「神薬」として中国や台湾などの訪日外国人に人気の医薬品だ。コロナ禍にインバウンド需要の縮小に伴い販売が落ちていたが、2023年に前年よりも183%売れ、コロナ前の2019年との比較でも96%とほぼコロナ前の水準にまで回復している。歴史的な円安により割安感が出たのも人気の理由だろう。
5位の総合感冒薬(風邪薬)、6位の鎮咳去痰剤(せきやたんなどを抑える薬)、10位の口腔用薬(のどの痛みやはれなどを抑える薬)などの感染症対策の医薬品の好調も目立つ。インバウンド需要の活況だけではなく、風邪やインフルエンザなどの感染症が広がり国内需要が拡大したことも影響したようだ。
外出の際に使用する、2位の口紅、7位のほほべに(チーク)、9位の日焼け止めなどの化粧品・雑貨の販売が回復したことから、国内の人の流れも活発だったことがうかがえる。
では、直近の2023年9ー11月ではどうだろうか。
「気温上昇」が消費行動に顕著に影響
1位は、1ー10月計と同様に強心剤とインバウンド需要の活況が続いていることが分かる。上位に日焼け止め、パック、リップクリーム、ビタミンC剤と並ぶが、これらもインバウンド需要で伸長した商品だ。
ただ、日焼け止めは、この時期も平年より気温が高く、日差しが強かったため、国内需要も好調だったようだ。
13位のトマトジュースと14位の美容・健康ドリンクも、気温上昇の影響で伸びが加速した。猛暑により生鮮トマトの生産量が減少し、価格が高騰した結果、価格が安定していたトマトジュースの需要が高まったと見られる。
美容・健康ドリンクは、ビタミンを豊富に含む飲料や経口補水液など熱中症対策の需要が拡大した。
次に、2023年に販売が減少したのは、どういった商品だったのだろうか。
体温計や検査薬の販売減 脱コロナへ
まずは、年間を見てみよう。
1位の体温計、2位の殺菌消毒剤、3位のマスクと、コロナ禍に販売が急伸していた商品の販売が落ち込んでいた。殺菌消毒剤では、手指の消毒に使用するものの販売が顕著に減少している。5類移行に伴い、感染予防対策が緩んだ結果と言えるだろう。
コロナの沈静化とともに、1ー10月計では販売金額の前年比159%と大きく伸びていた検査薬が9ー11月は57%と減少に転じた。
また、9-11月のデータからは値上げによる買い控えも見られる。9位の新ジャンル、12位のインスタントコーヒー、14位の食用油だ。
食用油の中でも低価格であったキャノーラ油が、値上げにより販売苦戦に陥っている。新ジャンルもアルコール飲料の中で、インスタントコーヒーもレギュラーコーヒーと比べて「低価格」な商品だ。コスパの良さで支持されていた商品に割高感が出たことで、買い控えにつながっていると見て取れる。
コロナ禍からほぼ日常に戻った2023年。
2024年にはどのようなものが売れ行きを伸ばし、どのような分野に買い控えが起きるのか。インバウンド需要のさらなる拡大のほか、円安や物価高などの経済動向に注目したい。
(執筆:インテージ市場アナリスト・木地利光)
(イラスト:さいとうひさし)