筋肉の研究をしながらボディビル選手としても活躍した東大名誉教授の石井直方さんは、老若男女誰でもできる「スロースクワット」こそ、高い効果が期待できる筋トレだと断言する。
そのスロースクワットのやり方のポイントは、次の3点だという。
(1)ゆっくりなめらかに動き続ける
(2)筋肉に「効いている」感覚を大事にする
(3)呼吸を止めず、動作に合わせて呼吸する
石井直方さんの著書『いのちのスクワット 鍛えれば筋肉は味方する』(扶桑社)から、一部抜粋・再編集して紹介する。
(1)ゆっくりなめらかに動き続ける
スロースクワットには、さまざまな種類や変法がありますが、すべてにおいて共通するポイントがあります。
〈やり方の3つのポイント〉
(1)ゆっくりなめらかに動き続ける
(2)筋肉に「効いている」感覚を大事にする
(3)呼吸を止めず、動作に合わせて呼吸する
スロトレの最も重要なポイントは、「ゆっくりなめらかに(同じ速度で)動き続ける」。
ゆっくりなめらかに動き続けるというのは、「筋肉に常に同じ負荷をかけ続ける」こと。
このようにすることで、筋肉が脱力することなく、高強度の筋トレ並みの効果が期待できます。
「ゆっくりなめらかに動く」というのは、太極拳のような緩やかな動きをイメージしてもらえればいいでしょう。能や日本舞踊に見られる動きとも共通したところがあります。

スクワットの回数を稼ぐために、スピードを速くしたくなるかもしれませんが、やみくもに回数を増やすよりも、スローで的確に行うことがはるかに重要です。
動きはゆっくりですが、「立ち上がったところで動きを止めない」ことも重要です。
通常のスクワットの場合は、腰を上げたとき、ひざを伸ばしきって動きを止めてしまうことがあります。

こうしてしまうと、ひざ関節の力で立つことになるので筋肉の力が一瞬抜けてしまいます。
スロースクワットでは、筋肉に負荷をかけ続けることで大きな効果が得られます。ひざを伸ばした姿勢で動きを止めないように注意しましょう。
ゆっくり動く、動きを止めない。ここが通常のスクワットとの大きな違いです。
(2)筋肉に「効いている」感覚を大事にする
スロースクワットをしているときは、太ももの筋肉に「効いている」という感覚をつかむこと、そしてそのような感覚が生じるまで繰り返すことが大事です。
具体的には、筋肉が「熱くなってきた」「だるくなってきた」「疲れた」「張ってきた」といったような感覚です。
何回できたかと回数にこだわるより、そういう感覚が得られたかどうかがもっと重要で、頼りにすべきところです。
この感覚が、筋肉の中でたんぱく質合成へと向かう化学反応が起きている証といえます。
(3)呼吸を止めず、動作に合わせて呼吸する
呼吸を止めないことも重要です。
呼吸を止めて力を入れると(怒責〈どせき〉=息むこと)、血圧が急上昇してしまうおそれがあります。
スロトレでも血圧は多少上がりますが、呼吸を止めなければ軽い負荷なので安全です。
基本的な呼吸は、「しゃがみながら息を吸い、立ち上がりながら息を吐く」です。動作に合わせて呼吸をしてください。
回数は1日1セット5回×3セット
次は、回数の目安です。
【1日に行う回数の目安】
8秒(下げ4秒、上げ4秒)×5~8回(これが1セット)
これを1日3セット
・1セットごとに1~2分の休憩を入れる
・1セットは5回から始め、とりあえず8回を目標にする
1セットは5回を基準にします。慣れたらだんだん増やしていき、8回を目標にしましょう。
5回が無理なら、できるところから始めてみてください。8回できた場合には、さらに12回くらいまでに増やしても結構です。
セット数についても同様で、3セットがきついようでしたら、2セットから(あるいは1セットから)始めましょう。
トレーニングのセット数は、1回でまとめて行うことをお勧めします。
朝昼晩1セットずつ分けて行うより、2~3セットまとめてトレーニングしたほうが効果的です。慣れてきたら、3セット行うのに10分もかかりません。
頻度は週に2~3回を目安に
【週に行う回数(頻度)】
2~3回(中2~3日空けて行う)
みなさんの中には、「トレーニングは毎日やったほうが、効果が出るのでは?」とお考えになるかたもいらっしゃると思います。しかし、残念ながら、毎日同じ種目のトレーニングをしても、あまり効果的でないことが判明しています。
筋トレを行うと、その直後から72時間後にかけて筋線維の中のたんぱく質合成が活性化した状態が続き、筋線維が成長します。
この間は、新たな筋トレ刺激が加わっても、さらなるたんぱく質合成の活性化が起きにくい状態になります。

したがって、最も効率よく筋肉を増やすためには、中72時間くらい、つまり3日おきくらいの頻度でトレーニングするのがよいと考えられます。
動物を用いた私たちグループの研究では、トレーニングの間隔を8~72時間の間で変えた場合、72時間空けた場合に最もたんぱく質合成が活性化され、24時間間隔ではあまり活性化が起こらなくなってしまいました。
8時間では逆に抑制が起こりました。この結果からも、週2~3回という頻度が最適ではないかと考えられます。
トップアスリートは、夕方から夜にかけて筋トレを行うことが多いのですが、一般のかたはそれほど時間帯にこだわらず、自分の生活リズムに合わせて、いちばんやりやすい時間帯に行うようにしましょう。
ただし、朝起きてすぐ、食後すぐ、寝る直前は避けましょう。

石井直方(いしい なおかた)
現在、東京大学名誉教授。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。筋肉研究の第一人者。少ない運動量で大きな効果を得る「スロトレ」の開発者。エクササイズと筋肉の関係から老化や健康についての明確な解説には定評があり、現在の筋トレブームの火付け役的な存在。著書に『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉革命』(講談社)など多数