燃料価格の高騰は農業にも大きな打撃を与えている。年間1000万円の負担増を強いられている農家もあり、経費削減は容易ではない。先行き不透明な中、農業の存続に向けて代替エネルギーを摸索する動きも出てきた。
この記事の画像(16枚)燃料高騰に苦しむ農家は…
「単純に経費が上がりますから大変ですよ」「必ず要る経費なので、どうしてもコストは丸々上がってしまうのでとてもきついですね」
燃料価格の高騰に苦しんでいる農家は厳しい現状をこのように語った。
ロシアによるウクライナ侵攻や円安などによる燃料価格高騰の影響を受けているのは農業も例外ではない。農業が主要な産業である佐賀県にとっては大きな打撃だ。
農家ができるのは“節油”しかない
農業で主に使われる重油。全国の平均価格でみると、3年前の2020年は1リットル当たり74.6円。それが2023年8月には117.6円と1.6倍に上がっている。
重油は国や県、JAが使用量に応じて価格を均一に決めるため安く仕入れることはできない。農家側でコントロールできるのは、使う量を節約する”節油”しかないのが現状だ。
佐賀・唐津市浜玉町の農家大場博紀さん(37)はサッカーコート9個分にあたる約6haの敷地でハウスミカンを栽培している。収穫量は年間約150トンに上り、重油の高騰が経営を圧迫しているという。
大場農園 大場博紀さん:
油代だけで年間1000万円くらい上がっている。5年、6年前くらいから
ハウスミカンは年間を通してハウス内を23度ほどに保つ必要があり、欠かせないのが加温機。通常、燃料は重油だが、大場さんは去年、LPガスを使う加温機を導入した。
他にも、大場さんは7年ほど前にヒートポンプと呼ばれる電気やガス式のエアコンを導入。しかし、値上がりしているのは重油だけではない。電気、LPガスなど様々な燃料価格が軒並み上がり、設備投資による節油対策は思うようにいかないと大場さんは言う。
ハウス“3層構造”で燃料を節約
設備投資による“節油”が思うようにいかない中、少しでも燃料を節約しようとハウスの構造に工夫を凝らす対策を始めた。これにより以前と比べて約2割重油が節約できているという。
大場さんは「保温が大事。いちばん外側を覆う一層目。扉を開けると二層目。これ自体もエアプラスという中に細かい空気の層がある断熱資材になっています。その下にもう一層ビニールがあり、三層構造を作っています」と話す。
しかし、値上がり分をカバーするには到底足りず、経費は上がり利益は減る一方。
「ハウスミカンは佐賀県が日本一なんですよ。父の代、祖父の代から見てきているので守っていきたい」
それでも、大場さんは唐津のハウスミカンを守りたいと語る。
“代替エネルギー”の摸索も
燃料費の高騰で、農業の“新たなエネルギー”を模索する動きも出てきた。
唐津市では2021年から“地中熱”を利用した空調システムをハウスミカン栽培に使う、国と県の実証実験が行われている。
初期費用は約7000万円で、6カ所に100メートルほどの穴を掘り、地下から熱を取ってきてハウスを温めるという仕組みだ。年間を通して一定という地中の温度に着目した試みで、地上に比べて夏は冷たく、冬は暖かいため冷房や暖房に利用できるという。
ハウスミカン農家 江川玄徳さん:
地下で温めた水を管を通して畑の中まで持ってきて、温かくなったお湯を風に変換してハウスの中に温かい熱を送っています
重油を使う加温機の使用を完全にゼロにはできないが、導入前の2021年と比べて重油の使用量は約9300ℓ、費用は約120万円減った。
県産業グリーン化推進グループ 佐保幸伸推進監:
佐賀県は地中熱のポテンシャルが高い。県内全域で行われている農業分野への活用を進めないといけない
深くまで穴を掘る必要があり、地中熱の設備投資は高額だ。しかし、農業を守っていくためには今後の技術の進歩や農家での共同利用などによって「代替エネルギー」としての可能性を摸索していかねばならないとハウスミカン農家の江川さんは語る。
ハウスミカン農家 江川玄徳さん:
こういう新しい省エネ方法に取り組んでいかないと、今後10年とか20年後の自分たちの農業は厳しくなるんじゃないかな
(サガテレビ)