侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれた。

そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。2回目は、2年連続の最下位に終わった中日ドラゴンズだ。

“投高打低”で球団史上初の屈辱

2011年以来のリーグ優勝を目指し、“All for Victory”のスローガンを掲げて臨んだ2023シーズンの中日ドラゴンズ。しかし、球団史上初となる2年連続の最下位に沈んだ。

【中日ドラゴンズ2023成績:143試合 56勝82敗5分】

今季終了をオーナーに報告後、会見に臨む立浪監督
今季終了をオーナーに報告後、会見に臨む立浪監督
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今季も“投高打低”の成績で、チーム防御率は3.06とリーグ2位だったものの、チーム打率、本塁打数、得点数はリーグ最下位。先発陣の小笠原慎之介(26)、柳裕也(29)、涌井秀章(37)、髙橋宏斗(21)が二桁敗戦投手になるなど、屈辱のシーズンとなった。

就任2年目の立浪和義監督(54)は、昨シーズンに続いて積極的に若手を起用したが、守備や走塁のミスが相次ぐなど、厳しい戦いが続いた。

ファン期待の星 “投手”根尾昂

チームが最下位争いをしていたシーズン終盤。それでも大勢の中日ファンがバンテリンドーム ナゴヤに応援に駆けつけ、声援を送った。

そんなファンの多くが大きな期待を寄せているのが、“投手”根尾昂(23)だ。

野球ファンではなくても“根尾”、“大阪桐蔭”というワードは、きっと耳にしたことがあるだろう。

根尾は大阪桐蔭高校時代、野手と投手の二刀流で活躍し、3度の全国制覇を果たした。注目を浴びた甲子園のヒーローは、2018年に行われたドラフト会議で4球団から1位指名を受け、抽選の結果、中日が交渉権を獲得。仮契約を結んだ後の記者会見では「ポジションはショート一本でいかせて下さいとお伝えしました」と宣言し、野手としてプロの世界で戦う覚悟を決めた。

プロ3年目の2021年にようやく初めて開幕一軍、そして開幕スタメンの座を掴むと、同年5月4日のDeNA戦でプロ初本塁打となる満塁本塁打を放った。

「ホームランを打てたのは両親が産んでくれたおかげなので、両親にありがとうと伝えたい」とお立ち台で笑顔をみせた。

しかし、その後は打撃不振に陥り、二軍落ち。シーズンを通して活躍は出来なかった。

昨年3月には外野手へ登録変更された根尾だったが、同年4月に立浪監督から再びショートへのコンバートが告げられた。さらに同年の交流戦明けには、首脳陣と話し合い、異例ともいえる野手から投手への転向を決めた。

この投手転向を巡っては、中日ファンだけでなく、全国の野球ファンの間で物議を醸した。

賛否両論も大器の片鱗見せた投手1年目

賛否両論だった根尾の投手転向だったが、昨シーズンはリリーフとして25試合に登板。150キロ超えのストレートで強打者を抑え込み、大器の片鱗を見せた。さらにシーズン最終戦では、初の先発に挑戦し、3回無失点の好投で投手1年目を終えた。

「1試合1試合必死でしたし、とにかく目の前のバッターを抑えるということだけを考えて投げていた」と振り返った。

【根尾昂2022成績:25試合 0勝0敗1ホールド 防御率3.41】

2023シーズンから本格的に先発挑戦

投手2年目を迎えるにあたり、根尾は本格的に先発に挑戦。

1月には鳥取のトレーニング施設「ワールドウィング」で自主トレ
1月には鳥取のトレーニング施設「ワールドウィング」で自主トレ

オフシーズンにエンゼルス・大谷翔平も利用するアメリカのトレーニング施設や、中日のレジェンド・山本昌や岩瀬仁紀らも利用していた鳥取のトレーニング研究施設で、投手としての体作りを徹底的に行った。

今年1月の取材では、「先発ローテーションに入ることが今の自分の目標。将来的には大野雄大投手のように完投完封して、チームを勝利に導くのが大きな目標なので、沢村賞をとれるようなピッチャーを目指してやっていきます」と意気込んでいた。

味わった苦悩、失敗と試行錯誤の日々

“先発投手”として初めて迎える2月の沖縄キャンプは二軍スタート。そこで待ち受けていたのは苦悩の日々だった。

今年2月の沖縄キャンプではネットの枠にすら収まらないほど制球に苦しむ
今年2月の沖縄キャンプではネットの枠にすら収まらないほど制球に苦しむ

「もっとこうしたいっていうのを自分で整理する前に、いろいろ着手していったことで、今までだったらできていたことができなくなったりすることとかがありました」と語るように、コントロールが定まらず、ひたすらネット相手にボールを投げ続けることになった。

制球難はシーズンが始まっても続いた。4月からは約1カ月の間、実戦から離れ、ブルペンだけでの調整を強いられた根尾。甲子園のヒーローにとって、あまり経験のない失敗、試行錯誤の毎日だった。

「結構失敗しましたね。自分の中にある理想のフォームを考えた時に、実際にその動きを知らなかったっていうのもあって。その動作ができるように繰り返し、地道な練習でしたけど、基礎練習を繰り返してって感じでしたね」

試行錯誤しながら少しずつ感覚を取り戻していき、5月には再び実戦のマウンドに戻った。左足を伸ばして、ためを作ってから投げる新たなフォームを披露。その後も先発として、ファームで9試合に登板。

苦しんだ期間について、根尾はこう振り返った。

「将来的に見て、やらないといけない課題をしっかりクリアしたっていうような期間になったと思うので、当時に戻るとするとしんどいですし、きついですけど、今振り返るとしっかりやることをやっていたのかなと思いますね」

さらに「結構周りの人に支えられていたというか、試合を見に来てくれる友人や家族がいたんです。休みの日に出かけることも多くなりましたし、よりリフレッシュしながら、オンとオフを分けて、また明日も野球を頑張ろう、みたいな感じになれたので、周りの人に支えられたのが大きかったですね」と明かした。

来季への希望を抱かせる今季一軍初先発

目標への道のりを一歩ずつ、着実に歩んできた根尾。

そして9月18日の広島戦で、ついに今シーズン初の一軍昇格を果たした。与えられた役割は、本拠地のバンテリンドームでは初めてとなる先発のマウンド。登場曲が流れ、根尾の名前がコールされると、一気に球場が沸いた。この声援こそが、ファンの根尾に対する大きな期待の表れだった。

まずは初回。根尾と同じくドラフトで4球団が競合した同期の広島・小園海斗(23)と対戦。フォークで打ち取り、上々の立ち上がりを見せる。その後も、140キロ後半のストレートを中心に、新球カーブも投じるなど、打たせて取るピッチングで6回まで無失点と好投。

さらに4回の第2打席では、元野手ならではの鋭いスイングで、ライト前へ打球を運ぶなど、大谷翔平(29)の「二刀流」を彷彿とさせる“根尾劇場”で観客を魅了。リリーフ陣が逆転を許し、プロ初勝利とはならなかったが、先発として大きな一歩を踏み出した。

試合後には「最後踏ん張り切れずに、フォアボールになってるところだったり、反省するところは反省して、次に向かってって感じですね。しっかり次のチームの勝ちに貢献出来るようにピッチングしますので、また大きな声援よろしくお願いします」と語った背番号7。
【根尾昂2023成績:2試合 0勝0敗 防御率0.71】

今季初登板の翌日 インタビューに答える根尾
今季初登板の翌日 インタビューに答える根尾

投手として2年目のシーズンを終えたが、その後もフェニックスリーグで3試合に先発し、いずれも好投を見せるなど、すでに来シーズンのさらなる飛躍に向け、準備は始まっている。

本人が当面の目標として掲げる先発ローテーション入りを果たすこと。それは中日にとって、長引く低迷からの脱却、そして新たな黄金時代の幕開けを意味するといっても過言ではない。チームの未来を背負う根尾の挑戦は、どんなときも熱い声援を送り続けるファンの希望そのものなのだ。


(文・小島範美)

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