侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれた。

そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。4回目は、セ・リーグ3位で進出したクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージで敗退した、横浜DeNAベイスターズ。

球界に電撃が走った大型補強

12球団で最もリーグ優勝から遠ざかっている球団であり、最後の優勝は25年前の1998年。三浦大輔監督の就任から3年目のシーズンを迎えたDeNA。投打ともに戦力が整いつつある中での勝負の年だった。

評論家やプロ野球OBも優勝予想をする人が増えていた中、スローガンは2021年「横浜一心」、2022年「横浜反撃」と続き、今年は「横浜頂戦」。文字通り全員が“頂上(優勝)”を目指した1年だった。

サイヤング賞投手 トレバー・バウアーの入団は大きな話題となった
サイヤング賞投手 トレバー・バウアーの入団は大きな話題となった
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シーズンが始まる直前、球界に電撃が走った。

DeNAは開幕の約2週間前の3月14日、メジャーで5度の2桁勝利をあげ、2020年にサイヤング賞を受賞したトレバー・バウアー(32)の入団を発表した。前例がないとも言える大物メジャーリーガーの加入によりチームやペナントの行方にどんな影響が出るのか…。DeNAファンはもちろん、プロ野球ファンにとって楽しみな存在となった。

“最強助っ人”は日本野球に順応、しっかりと結果を残して見せた。

一軍初登板の前日、バウアーは「27個三振をとる」と宣言。スターには“ビッグマウス”が多いが、真剣にこの目標を口にする彼からはその本気が伝わってきた。一軍初登板は7回1失点9奪三振で初勝利。その後2試合連続7失点と炎上したが、すぐに修正し日本の野球を研究。ヒットを打たれることは決して少なくない投手だが、ピンチでギアを上げるとストレートの球速が増し、変化球はナックルカーブ、スライダー、新球種スプリットチェンジ…と、どの球種も切れ味抜群。

さらには常識外れの中4日・5日登板でも力を発揮し長いイニングを投げた。そして何より野球に対する姿勢はチームメイトを刺激し続けた。

【バウアー、2023成績:10勝4敗・防御率2.76・130奪三振】

交流戦初優勝に首位浮上 順調な前半戦

前半戦は順調にきていた。

4番・牧秀悟は2つのタイトルを獲得
4番・牧秀悟は2つのタイトルを獲得

4番・牧秀悟(25)は開幕直後こそWBCの影響もあったのか、思うようなバッティングができず苦しんだが、徐々に勝負強いバッティングが戻り、最多打点と最多安打のタイトルを獲得。

共にクリーンナップを打つ宮﨑敏郎(34)は開幕から絶好調。序盤打率4割をキープするなど自身6年ぶりの首位打者に輝いた。

さらにプロ10年目の関根大気(28)が大ブレイク。走攻守すべてで能力の高さを見せ、交流戦までの期間チーム最多6度のお立ち台に立った。

そして6月からは4年目の助っ人・オースティン(32)が打線に加わり、破壊力抜群の打線が完成。「令和のマシンガン打線」とメディアに取り上げられることも増え、交流戦を初優勝。交流戦明けの首位阪神との3連戦では3連勝し、一気に首位に立った。

【牧秀悟、2023成績:打率.293・29本塁打・103打点】
【宮﨑敏郎、2023成績:打率.326・20本塁打・71打点】
【関根大気、2023成績:打率.261・4本塁打・31打点】

東・山本バッテリーの快進撃も…リーグ3位CS未勝利

DeNAは去年の夏はかなりの勢いがあったが、今年の夏は波に乗ることができなかった。

東・山本の不動のバッテリーはお立ち台にも登った
東・山本の不動のバッテリーはお立ち台にも登った

シーズン後半、バウアーより勝ち星を積み重ねたのが東克樹(27)だ。昨季トミージョン手術から復活を遂げ、6年目の山本祐大(25)と不動のバッテリーを組み、花を咲かせた。5月25日の巨人戦での黒星を最後に怒涛の12連勝。最終戦で久々の黒星がついたが、最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。最優秀バッテリーにも選ばれ、チームの中で心強い存在となった。

しかし、あれだけ破壊力のあった打線は別のチームになったかのように息をひそめ、1点がとれずに苦しんだ。勝てば2位が決まる10月4日の巨人戦では、東が8回1失点の好投も打線が無得点に終わり、本拠地CS開催を逃した。

CSでは宮﨑の2ランと関根のタイムリー、ソト(34)の犠牲フライの計4得点。短期決戦ならではの仕掛けをしてくる広島に対し動くことができず、CSでの復活を目指し驚異的な回復力を見せたバウアーの出番もなく、あっさりシーズンが終了した。

【東克樹、2023成績:16勝3敗・防御率1.98・勝率.842】
【山本祐大、2023成績:打率.277・3本塁打・16打点】

“話題”になった投打キャプテンへの「信頼の形」

首脳陣と選手の意思疎通、そして選手の起用というのは1年間を戦う上で重要な意味を持つ。

三浦監督と話す守護神・山崎康晃
三浦監督と話す守護神・山崎康晃

DeNAは今シーズン、「投手キャプテン」が10年ぶりに復活。選ばれたのは昨オフにメジャー挑戦が噂される中で、DeNAと6年の大型契約を結び残留した守護神・山崎康晃(31・※「崎」はたつさき)だった。球団が投手キャプテンをわざわざ復活させたということはそこに必ず「狙い」「意味」があると感じていた。

シーズンが始まり山崎は前半戦で20セーブを挙げたものの、打ち込まれる試合もあった。同じく昨季“勝ちパターン”を任されていた伊勢大夢(25)・エスコバー(31)、頭角を現した入江大生(25)も、昨季と比べ本領発揮できていない場面が多く見られた。

毎年多くの試合に登板する“勝ちパターン”の投手。DeNAでは彼らの登板数の多さが如実に表れている。昨季のセ・リーグ登板数トップ10では4選手が名を連ねた。

2022セリーグ登板数
☆1 伊勢大夢(De)71
☆2 エスコバー(De)70
 3 湯浅 京己(神)59
 3 高梨 雄平(巨)59
 5 岩崎 優(神)57
 5 大勢(巨)57
☆5 入江 大生(De)57
 8 R.マルティネス(中)56
 8 ロドリゲス(中)56
☆8 山崎 康晃(De)56

しかし“勝ちパターン”の投手たちは、去年と同じ力が必ず出せる保証はなく、怪我も付き物。そこをいかにうまくやりくりできるかは、首脳陣を始めとする球団の腕の見せ所だ。

今年でいえば、阪神の新守護神候補である湯浅京己(24)、広島の守護神・栗林良吏(27)、巨人の守護神・大勢(24)も“不調”があった。これらの選手に対し、各球団は「二軍調整」という選択をとった。結果的に湯浅も栗林も大勢も、今年のうちに一軍復活を遂げた。

一方、DeNAが山崎に対しとった選択は「中継ぎでの調整」だった。もちろん、上記他球団の3選手は怪我も絡んでの「二軍調整」であり、山崎は「怪我がない」というのも理由の一つかもしれない。

だが、これは裏を返せば「守護神を剥奪」した上で、一軍で投げ続けさせるということ。取材をしてきた中で、山崎の「守護神」というポジションへの大きなこだわりを知っていただけに、この選択は残酷なものだと感じたが、裏を返せば三浦監督含め首脳陣が信頼しているからこそ、彼に対しての「激励」の意味を込め、この選択を取ったのかもしれない。

しかし、結果的にシーズン終盤で二軍降格、CSでの一軍復活もなく、「投手キャプテン」の姿が見られないままシーズンは終了した。これに関してファンや評論家は様々な見解を口にし、賛否両論。この選択が最善であったかどうかは考えさせられるものとなった。

【山崎康晃、2023成績:3勝7敗・20S・防御率4.37】

練習中に三浦監督と話す佐野恵太
練習中に三浦監督と話す佐野恵太

キャプテン4年目を迎える佐野恵太(28)も、例年と比べ苦しいシーズンを送った。

佐野はシーズンが始まる前のオープン戦から「1番打者」を任されていた。レギュラーを獲った2020年に首位打者、昨シーズンは最多安打のタイトルを獲得し、結果を残してきた。慣れない1番ではあったが、5月終了時点で出塁率は.336、8本塁打を放つなど、役割を果たした。

しかし、6月途中でクリーンナップを任されたり、再び1番を打ったり、守備位置もレフトとファーストを行ったり来たりとシーズンを通して固定されることはなかった。

そんな中、衝撃的な出来事が起こる。横浜スタジアムで首位阪神との直接対決3連戦。2連敗し迎えた8月6日、1点を追う中、1アウト2・3塁のチャンスで、全試合スタメン出場のキャプテン佐野に代打・楠本泰史(28)が送られた。同じ左打者の代打。これは裏を返せば「チャンスで佐野より楠本」ということ。キャプテンはベンチで涙を浮かべながらも必死に声を出していた。

この選択も波紋を呼び、賛否両論の意見があがった。山崎の時と同じく、首脳陣が佐野を信頼した上での「激励」なのかもしれない。しかし、やはりこの選択も最善のものであったのか考えさせられる場面であった。

その後佐野は骨折により一軍離脱。CSは「投打のキャプテン」を欠いての挑戦となった。もちろん様々なチーム事情も絡んでいるとは思うが、これが指揮官の選んだ「信頼の形」。

佐野に代打を出した次の試合の練習では、佐野が守備練習をする合間に三浦監督の方から話しかけ、会話していたのが印象的だった。山崎に対しても同様、三浦監督は練習の合間にコミュニケーションをとった。投打の「核」である2人が優勝のキーマンでないはずがない。今年は結果に結びつかなかったが、来年以降、投打のキャプテンが悔しさをバネに進化を遂げることを願う。

【佐野恵太、2023成績:打率.264・13本塁打・65打点】

未来のスター候補の現在地

DeNAは主軸が固定されているものの、その他は固定されていない部分が多い。先発投手でいえばローテーションを守った東、今永昇太(30)、バウアーの3人が主軸であるが、今永・バウアーは移籍の可能性を残すため、先発の数は大きな課題である。

小園健太の投球を三浦監督も見つめる
小園健太の投球を三浦監督も見つめる

そんな先発投手のスター候補は、2021年ドラフト1の小園健太(20)。三浦監督の現役時代の背番号「18」を受け継ぐ男だ。

春季キャンプでは2年連続一軍参加。キャッチボール相手のコーチや選手が口々に「えぐい!」と絶賛するほどの逸材だが、2年目の今年、二軍で成績を残せず一軍登板はなかった。来年こそ満を持してのプロ初登板を迎えてほしい。

【小園健太、2023二軍成績:2勝5敗・防御率4.21】

野手でいえば佐野・牧・宮﨑が主軸であるが、これらの選手が調子を落とした時にカバーできない打線があったのは事実である。後半に差し掛かる7月、8勝13敗と負け越し。この月の主軸の成績は佐野が打率.224、牧が.259、宮﨑が.214、さらに前半戦好調だった関根も.225と調子を落としていた。

森敬斗の成長に期待したい
森敬斗の成長に期待したい

こういった時に空気を変えることができる若手の力が必要であり、中でもショートのスター候補2019年ドラ1の森敬斗(21)の成長に期待したい。森はチームが苦手としている「足」が使える選手であるため、1番打者に向いている。最多打点の牧を筆頭にDeNAのクリーンナップの得点力を見れば、1番・2番次第で得点力の大幅アップも狙える。今年は一軍での出場わずか9試合となり怪我にも泣いたが、先輩たちが「100人分の1位」の「NEXTブレイク部門」で毎年名前をあげ、「未来のベイスターズを背負う選手」と口にしているだけに、期待したい。

【森敬斗、2023成績:9試合・打率.167・1打点・1盗塁】

もちろん他にも期待の選手がたくさんおり、全員がレギュラーを掴むチャンスは大いにある。貪欲にレギュラー争いをしながら優勝できるチームを目指してほしい。


(文・入江早雪)