侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。10月28日から始まる日本シリーズ2023では、阪神タイガースとオリックス・バファローズが日本一をかけ争うこととなった。

そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。初回は、2年連続の4位に終わった読売ジャイアンツだ。

開幕から相次いだ主力の離脱

3年ぶりの優勝を“必達目標”とし、“奪回”のスローガンを掲げて望んだ2023シーズン。しかし、開幕から相次ぐ主力の離脱に苦しんだ。

菅野智之は自身初となる開幕二軍スタートとなった
菅野智之は自身初となる開幕二軍スタートとなった
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球団最多となる9度目の開幕投手が有力視されていたエース・菅野智之(34)が、開幕直前に右肘の張りを訴え、自身初の開幕二軍スタート。開幕戦の登板を回避すると、そこから一軍復帰まで2カ月の離脱を余儀なくされた。

さらに、5月にはリリーフ防御率6.14と苦しんだ中継ぎ陣の中で、絶対的支柱として君臨していた昨季の新人王、守護神・大勢(24)が、右腕のコンディション不良で6月に登録抹消。リハビリに3カ月の時間を要すこととなった。

主力の離脱は攻撃陣でも続いた。

今季肉離れで1ヶ月離脱した坂本勇人
今季肉離れで1ヶ月離脱した坂本勇人

開幕から22打席無安打と苦しんだ坂本勇人(34)が、本来の調子を取り戻しつつあった6月、右太ももの肉離れで1カ月の離脱。

さらに、開幕から好調を維持し打線の中心を担っていた中田翔(34)も5月、試合中に右太もも裏の肉離れで離脱するなど、開幕から主力の負傷離脱が相次いだ。

そんなチーム状況の中、一人気を吐いたのが今季からキャプテンに就任した主砲・岡本和真(27)だった。

2023年、キャプテンとしてシーズン通して4番を担った岡本和真
2023年、キャプテンとしてシーズン通して4番を担った岡本和真

8月には、王貞治氏(17年連続)、松井秀喜氏(7年連続)に次ぐ球団史上3人目となる6年連続30本塁打に到達すると、球団の右打者では最多となる月間12本塁打を放つ。9月には、プロ野球史上114人目となる通算200本塁打を達成した。

好不調の波が少なく、シーズンを通して巨人の4番として好結果を残し続け、球団の生え抜き右打者では最多の41本のアーチをかけた。

白熱のCS進出争い。あと1本が遠かった打線

相次ぐ主力の離脱も影響し首位を走る阪神からは大きく引き離されたものの、球界屈指のタレントが揃う打線。

勝負どころで起用される代走の切り札・重信慎之介(30)や、ルーキー・門脇誠(22)の好走塁など、試合終盤で粘り強さも見せた。サヨナラ勝ちは、球団55年ぶりの二桁となる10度を数えるなど、何とかAクラス争いには食らいついていった。

しかし、広島、DeNAとのクライマックスシリーズ進出争いが熾烈を極めたシーズン終盤。

チーム本塁打数(164本)とチーム打率(.252)でリーグトップを誇る打線がつながりを欠き、前半戦とは対照的に、安定感を取り戻した投手陣に打線が応えられない試合が目立つようになった。

1点を、1勝を争うCS進出争いの中、チャンスを作っても“あと1本”が出ずに、得点を奪えない試合が続いた。

主砲・岡本が両リーグ断トツの41本塁打を放ちながらも、そのうちの28本がソロホームラン。打点でDeNA・牧秀悟(25)の後塵を拝したのも、打線がつながりを欠いた結果だろう。

シーズン終盤の9月末。

逆転でのCS出場へ、連勝しなければ崖っぷちに立たされるDeNAとの直接対決でも、1点が遠く2試合連続で1-0の完封負けを喫し、CS争いから脱落した。

結果、同一監督では球団史上初となる2年連続Bクラスの屈辱を味い、シーズン最終戦後には原監督(65)が契約を1年残しての辞任を表明。阿部慎之助新監督(44)に、来季の巻き返しを託すこととなった。

DeNAに連敗を喫しCS進出が絶望的となった試合後、原監督はこう語った。

「(野球は)点取りゲームだからね。何かが足りないんでしょうね、このチームにはね」

チームに足りなかったその“何か”こそが、終盤に競り負けBクラスに終わった要因であり、覇権奪回を狙う来季へのカギなのだろう。

若手の台頭が覇権奪還への希望

そんな中でも、次世代の巨人を担う若手選手が台頭したのは明るい材料となった。

戸郷翔征
戸郷翔征

【戸郷翔征、2023成績:12勝5敗・防御率2.38】
投手陣では、戸郷翔征(23)が、エース・菅野を欠く先発陣の柱として獅子奮迅の活躍。キャリアハイに並ぶ12勝を挙げ、名実ともにエースと呼ばれるにふさわしい活躍を見せた。

【山﨑伊織、2023成績:10勝5敗・防御率2.72】
ルーキーイヤーをリハビリに費やし、今季が実質2年目となった山﨑伊織(25)は、原監督の最後の指揮となった最終戦で初の完封勝利をあげ、初の二桁勝利に到達。何より光ったのが、先発投手が試合を作った指標となるクオリティースタート(先発投手が6回以上を投げ、自責点3以内に抑えること)は23度の先発登板の内18度と抜群の安定感を誇り、先発ローテーションの一角として成長を見せた。

2年目の赤星優志(24)もシーズン序盤は、右肩のコンディション不良などもあり精彩を欠いたが、一軍復帰後は6試合に先発し5勝1敗と安定感を見せ、こちらもローテーションの一角に名乗りを上げた。

リリーフ陣でも、守護神・大勢の穴を埋めるべく大車輪の活躍を見せた中川皓太(29)、高梨雄平(31)に加え、育成出身2年目の菊地大稀(24)、オールドルーキー・船迫大雅(26)、ドラフト3位ルーキー・田中千晴(23)など、若手投手陣が奮闘した。

秋広優人
秋広優人

【秋広優人、2023成績:打率.273・10本塁打・41打点】

打者では、将来の主砲候補と期待され松井秀喜さんの“背番号55”を受け継ぐ秋広優人(21)が、3年目でついに覚醒。これまでプロ2年間で一軍出場は1打席のみだったが4月に一軍昇格を果たすと、身長200cmの長身から繰り出されるパワーだけでなく、しなやかなバットコントロールを武器に、クリーンナップの一角も任されるなど、二桁本塁打にも到達しシーズンを通して主力としての活躍を見せた。

【門脇誠、2023成績:打率.263・3本塁打・21打点・11盗塁】

ドラフト4位ルーキー・門脇誠(22)も、シーズンを通して一軍で戦い抜いた。
プロの中でも輝きを放つ広い守備範囲に、俊足を生かした走塁での貢献はもちろん、課題とされた打撃でも、シーズン中盤からはプロの球に見事にアジャスト。攻守で輝きを放ち、チームに欠かせない存在となった。

史上初となるショートでの2000試合出場を果たし、数々の記録を打ち立て続けている坂本勇人(34)が、16年にわたって守り続けたショートから、負担の少ないサードに回ることを決断できたのも門脇の台頭があってこそだろう。ショートの座を門脇に譲った坂本も、門脇のルーキーらしからぬ安定した守備力には一目置いている。

高松商時代の浅野翔吾
高松商時代の浅野翔吾

【浅野翔吾、2023成績:打率.250・1本塁打・2打点】

さらに、ドラフト1ルーキー・浅野翔吾(18)も高卒新人とは思えないポテンシャルの高さを見せた。
7月の一軍デビューでは、3打席で3三振。守備では打球を追う際に転倒するなど初々しい姿が目立ったが、二軍調整を経て再び戻った一軍の舞台では、昇格したその日にプロ初ヒットを記録。さらに、8月18日の広島戦では、プロ初ホームランも放った。

阿部新監督の下、巻き返しを図る来シーズン。

新監督は就任会見で「強い巨人軍、愛される巨人軍を必ず作ってファンの皆さんに良い報告ができることを約束します」と語った。

百戦錬磨のベテランに、そしてその座を脅かす輝きを見せる若手選手。

球界屈指の戦力を誇るその力が融合すれば、4年ぶりの覇権奪回も見えてくるはずだ。

(文・嶋雄士)