1970年代に展開された、金武(きん)湾での石油備蓄基地の建設に反対する住民運動「反CTS闘争」。

自然環境を守ろうと住民たちが行動を起こしたこの闘争の記録をまとめた書籍が、2023年9月に発刊された。当時、住民側の顧問を務めた池宮城弁護士に、当時の状況や、書籍に込めた思いを聞いた。

1000万坪の海を埋め立てる計画

勝連(かつれん)半島と平安座(へんざ)島や宮城島に囲まれ、穏やかな波が寄せる金武湾をめぐり、50年前に起きたのが、反CTS金武湾闘争。

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1970年、勝連半島から平安座島、宮城島周辺の沿岸部に石油備蓄基地・CTSをはじめとする大規模な石油コンビナートを建設する構想で、金武湾の一帯、およそ1000万坪もの海が埋め立てるものであった。

これに反対した地元の住民たちが立ち上がり、1973年に結成されたのが、池宮城紀夫弁護士が顧問を務めた「金武湾を守る会」。

池宮城紀夫弁護士は、「地元の海人(うみんちゅ)や住民が、巨大な原油タンクが作られることによって海に原油が流され、海そのものが殺されるから、金武湾を絶対守るべきということで、建設阻止の闘いにが立ち上がった」と振り返る。

かつての豊饒の海は姿を消す

守る会の結成当時には、すでに平安座島から宮城島にかけて200ヘクタール余りの埋め立てが始まっており、人々の暮らしを支えていた海に深刻な影響を与えていた。

タンカーからの汚染水の流出や廃油ボールが浜に流れ着くなど、かつての豊饒(ほうじょう)の海は姿を消した。

池宮城弁護士は、「戦争中は何も食べるものが無いなか、金武湾周辺の皆さんは金武湾から魚を獲って、命を繋いでいった。そういう大切な海なので決して壊すものではなく、我々一人ひとりの生活を支える大切な自然だから、埋め立て石油基地にするべきじゃない」と当時の人々の思いを語った。

構想では原子力発電所の計画も

住民たちの闘いの始まりから、2023年で50年の節目となるのにあわせて発刊された闘争史によると、CTS建設が沖縄で押し進められようとしたのは、当時の日本本土の事情が深く関わっていると記されている。

『反CTS金武湾闘争史』より
「石油への依存率の高い日本で、その備蓄は日本政府の重要政策課題でもあった。その解決策を沖縄の日本復帰に求めた」

急速な高度経済成長のなか、日本各地では四日市ぜんそくや水俣病など多くの公害問題が発生。公害訴訟も起こされ、石油関連企業の新たな立地は各地で困難をきたしていた。

金武湾の埋め立て構想では、造船所やアルミ製錬工場、さらに原子力発電所を造る計画も示されていた。

復帰直後の沖縄と本土との経済格差を埋めるために、当時の屋良朝苗(やら ちょうびょう)知事は計画を押し進めようとする立場であったため、住民たちは質問状を出し、県庁内に座り込んで、CTS誘致の撤回を訴えた。

池宮城弁護士は、「行政上の責任者として、タンクの設置の許可申請が出ているものに対して、屋良知事は許可せざるを得ないという方向に動いていた」と話す。

池宮城弁護士が『許可するということは大変間違いですよ』と主張をぶつけると、屋良知事は額にしわを寄せて、大変困惑したような表情で反対派の話を聞いていたということで、「大変悩まれたと思う」と屋良知事の苦悩を推しはかる。

屋良朝苗知事(当時):
(反対派住民の)気持ちを考えると私も苦悩いたしております。沖縄県政の発展のためにご協力いただきたい。お願いして終わりたいと思います

沖縄県が出した金武湾の埋め立て免許の無効を訴え、2度の訴訟を起こしたが、裁判では原状回復が不可能であるとして、住民たちの訴えは却下された。

池宮城紀夫弁護士は「我々が自然破壊だということを具体的に立証しても、もうタンクは仕上がっているという既成事実ができているから、訴えの利益がないなんていうことで、中身の実態に入らずに門前払いされた」と話す。

経済至上主義の権力に投じた一石

1980年にCTSの操業が始まったが、埋め立て面積は当初の計画から大幅に縮小された。

池宮城弁護士は、「金武湾を守る戦いで、(訴訟時に)設置されたタンク以上の増設と埋め立てが無理になった。現在の金武湾で埋め立てられずに残っている部分は、まさに住民運動の成果だ」と振り返る。

自然を壊して経済の豊かさを追い求める権力に対し、住民が投じた一石。

反CTS金武湾闘争は沖縄の住民運動の原点と言われ、その精神を引き継いでいかなければならないと池宮城弁護士は感じている。

池宮城弁護士は、「辺野古の問題にしても、これはもうしょうがないだろうと諦めている若者たちもいるが諦めちゃいけない」「沖縄の自然や島、命を守るためには、一人ひとりが自分のことだと思って、不条理な状態をなくしていくこと、戦うということを決意すれば、沖縄もまた変わっていくと思う」と次世代へ思いを託す。

(沖縄テレビ)

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