2023年の夏は記録的な猛暑となり、お米の品質が危機を迎えている。国内の“お米離れ”に歯止めがかかっていない中、「おにぎり」のニーズは、国内でも世界でも広がっている。
“お米離れ”進むも高まる「おにぎり」のニーズ

2023年の夏は記録的な猛暑となり、お米の品質が危機を迎えている。農林水産省が発表した、2023年に収穫されたお米の検査結果は、色や見た目が良い「1等米」の比率が全国平均で68.9%(8月末時点)で、2年前(2021年)の76.1%、3年前(2020年)の74.3%と比べて大きく下がっている。
味は基本変わらないが、二等米になると買取価格が低くなるため、悲鳴を上げている農家も多くある。
2人以上の世帯が2022年の1年間にお米にかけた金額は平均で1万9825円で、2000年の4万256円の約半分にまで減っている。
しかし「おにぎり・その他(赤飯など)」は、2000年の3103円以降、2022年は5172円と最も高くなり、「お米離れ」が進んでも、おにぎりのニーズが高まっている。
食文化を取り上げる雑誌「dancyu」(2023年11月号・発売中)のテーマは「おにぎりと海苔巻き特集」だった。名古屋の情報を発信する「KELLY」でも2023年9月、インターネットの記事で「空前の“おにぎり”ブーム到来!名古屋の専門店」と題し、名古屋のおにぎり専門店を紹介している。
紹介されていた、地下鉄大須観音駅から南に徒歩10分ほどのところにある名古屋市中区橘1丁目の「おにぎりやさん」は、愛知県美浜町のお米を土鍋で炊いて作っていて、おかかを炊いたご飯の中に味玉を入れ込んだ「味玉ちゃんにぎり(300円)」が人気だ。

地下鉄丸の内駅近くにある「Tsubaki ONIGIRI STAND(ツバキおにぎりスタンド)」は、おにぎりを扱っている店とは思えない程おしゃれな外観で、「明太クリームチーズ(280円)」が一番人気だという。

記事を扱った「KELLY」も正確な数は把握できていないとしながらも、「明らかにおにぎり専門店が増えている」と話している。
なぜ?最大6時間待ちの老舗人気店も…

老舗の人気も続いている。東京都豊島区にあるおにぎり専門店「ぼんご」は、長いと平日で3時間、土日は最大6時間待つこともある人気ぶり。

具は58種類あり、1番人気が「さけ(350円)」、2番人気が「すじこ(650円)」だ。

おにぎりを販売する店が流行っている理由について「ホットペッパーグルメ外食総研」の有木真理(ありき・まり)所長は、客側と店側の双方に要素があるという。
客側の理由としては「新型コロナ」の影響だ。外で買って家で食べる「中食」が高まり、加えてオンライン会議などで活動量が減り、ライトな食事に変える人が増え、「おにぎりがちょうどよい」という人が多く、少し高くても家庭では真似ができない「プロのおにぎり」を選ぶ人が増えたという。

店側の理由は「開業しやすい」こと。パンやラーメンなどの原料でもある小麦など、物価が上昇しているが、お米は価格が比較的安定していることに加えて設備投資も少なく、狭いスペースでも開業でき、スタッフの修業も必要ないためと説明している。
また、アレンジの幅が広く、SNSで発信しやすいこともメリットではないかとしている。
海外にも広がる「おにぎり」人気

2023年5月のITメディア「ビジネスオンライン」の記事によると、日本のおにぎり専門店「おむすび権米衛」は、アメリカに2店舗(ニュージャージーとニューヨーク)とフランスに2店舗(パリ)出店した。
価格帯は日本の約1.5倍にも関わらず、ランチ時と夕食前のピーク時は連日行列に。コロナ禍で需要が急増し、今も続いているという。
具の人気は日・米・仏共に1位は「サケ」だが、「スパイシーツナ」や「スパイシーチキン」など海外限定の商品もある。全体的に味が濃く、パンチのある具材の方が人気のようだ。
福岡市博多区に本社がある不二精機(ふじせいき)は、おにぎりを作るマシンの国内シェアが8割を超える企業で、2022年はタイに、2023年はアメリカのテキサス州に販売子会社を設立していて、海外でも新規開業の希望者が多くいると感じているという。
また、アジアのコンビニで売るおにぎりにマシンを導入する動きも多く、国内外で売上は増加しているという。
増えるお米の輸出…需要拡大の起爆剤に?

海外での需要増は数字にも表れている。5年前の2018年の1年間は、輸出量が全体で約13800トン。このうちアメリカが約1300トン、EUが約800トンだったが、2023年は8月までで全体が約22600トン、アメリカが約4000トン、EUが約1500トンだった。
日本のお米が海外でも人気がある理由は、経済ジャーナリストの寺尾淳(てらお・じゅん)さんによると、日本米は「冷めても美味しい」というメリットがあり、他の日本食と比べておにぎりは比較的低価格で手に入りやすく、需要拡大の起爆剤になりうると話している。
農林水産省も海外でおにぎり店の需要開拓に努めていて、その影響も考えられるという。

ホットペッパーグルメ外食総研の有木所長は、おにぎりは米・海苔・塩で構成されるため、宗教上の理由で食材に制限がある人や、動物性食品を食べないヴィーガンも手に取りやすいとしている。
最古の「おにぎり」は弥生時代!? 奈良時代の風土記に記述も

おにぎりは、古くは弥生時代に、石川県の遺跡から炭化したお米の塊が発見され、現存する最古のおにぎりと考えられている。
奈良時代に編纂された風土記には、おにぎりの最古の記述「握飯(にぎりいい)」がある。
その後、江戸時代になって、おにぎりに変化が起きた。江戸で海苔の養殖が盛んになり、「海苔で巻いたおにぎり」が普及した。
1978年には、セブンイレブンが「パリッコフィルム」を考案し、パリパリ海苔のおにぎりを食べられるようになった。
東海地方に目を向けると、1959年に、天むす発祥の店として知られる三重県津市「千寿(せんじゅ)」が、まかない飯として「天むす」を考案したという。

また、1969年に「おにぎりせんべい」を開発した三重県伊勢市のマスヤは2023年9月、「ジャパン・フード・セレクション」で「おにぎりせんべい銀しゃりファミリーパック」がグランプリを受賞した。

売上について、マスヤの担当者は「おにぎりブームとの因果関係は不明ですが、おにぎりせんべいの売上は上がっていて、おにぎりつながりでこれからも一緒に盛り上がっていけたら大変うれしく思います」と話している。
そんなおにぎり、秋も油断大敵・・・食中毒に注意

ただ、おにぎりも「秋の食中毒」には注意が必要だ。名古屋文理大学・短期大学部の佐藤生一名誉教授によると、行楽シーズンで外での食事も増え、夏の疲労の残りで免疫力が低下し、そして「涼しくなったから」という油断が起こりやすいという。
気を付けたいのが「黄色ブドウ球菌」だ。人の手指や顔、髪などに生息し「スマホ」にも潜伏している。
「黄色ブドウ球菌」は増殖が速く、加熱しても取り除けない毒素を作る。見た目やニオイではわからず、「おにぎりは塩をつけるから大丈夫」とはならないので注意が必要だ。塩で滅菌するのは難しいという。
大切なことは、菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」の3点だ。

このため具材は、水分が少なめで、よく熱が通ったものがお勧めで、梅干し・ゆかり・塩鮭・ふりかけ・塩こんぶ・佃煮など。
また、具材を含めて当日調理するようにし、梅干しなどは抗菌作用があり有効だが、過信は禁物だ。
ほかにも、アツアツのごはんは蒸気が冷えて水分が出るので冷ますこと、ビニール手袋やラップを使って握ることが大切だという。
そして、一度口や箸をつけたおにぎりは食べ残さないことや、作り置きは避け、作ったらなるべく早く食べて、残ったら早く冷やし、食べるときは必ず加熱するようにしてほしい。
(東海テレビ)