JRのローカル線で広島・岡山両県にまたがって走る芸備線は、一部区間の利用者が極端に少ない。その区間について存続か廃止かを議論する沿線自治体との協議会の設置を全国で初めてJR西日本が国に要請している。山陽と山陰の間の山中のローカル線の現状を取材した。
山陽と山陰をつなぐ線として100年以上の歴史
10月21日、JR芸備線の備後庄原駅では駅の開業100周年を祝う記念イベントが催され、鉄道ファンの演歌歌手徳永ゆうきさんが1日駅長を務めた。
鉄道ファン演歌歌手 徳永ゆうきさん：
イベントがあるとね、鉄道ファンだったり沿線の皆さんも盛り上げて人が集まるんですけど、イベントがないときですよね。なかなか難しいところも厳しいところもあるかと思うんですけれども、ちょっとずついい方向に向いて行ったら鉄道好きとしてもうれしいなと思いますね
この備後庄原駅から先、岡山県新見市の備中神代駅の区間68.5kmは、利用客の低迷を受けて存続か廃止かを話し合う協議会の設置をJR西日本が国に要請した。
備後庄原駅から5駅先にある備後落合駅は、島根県を結ぶ木次線との接続駅だが、芸備線の岡山の新見との間は一日3往復のみ。
野川諭生アナウンサー：
午前6時33分です。今、備後落合駅に新見からの始発列車が到着しました。新見駅を5時台に出てくるということで、なかなか使うのは難しい列車ではあるんですが、それでも5､6人が降りてきました
乗っていたのは、ニュースを見て駆け付けた県外の鉄道ファンたち。
神戸市から来た乗客：
列車に乗っている人を見ると、なんとなく地元の人じゃないんじゃないかなと。手段のひとつとして残っていくとありがたいなという…
この備後落合駅と岡山県との県境にある東城駅間の1日に運んだ平均人数を示す「輸送密度」は2022年度は20人。
JR西日本管内でワーストの収支率で、100円を稼ぐために2万3,687円がかかる計算になる。
かつて芸備線には山陽と山陰方面を結ぶ貴重な移動手段として、急行列車も走っていたが、高速道路の開通など、時代の流れと共に姿を消した。
1カ月の売り上げ3500円の小さな駅をスーパーマーケットとともに守る
野川アナウンサー：
こちらは備後落合と東城の中間駅、小奴可（おぬか）駅なんですけれども、昭和9年（1934年）にできたという味のある駅舎が私たちを出迎えてくれます
野川アナウンサー：
こちらの駅の業務は、JR西日本から委託された地元の人が請け負っているんです
地元で生まれ育った林嘉啓（よしひろ）さん、62歳。日頃、駅前にあるスーパーマーケットとタクシー会社の経営をしながら妻の千鶴さんと共に小奴可駅の管理にあたっている。
小奴可駅を管理 道後タクシー 林嘉啓社長：
駅の売り上げは、ここ10年か15年くらいでガタっと来たという感じじゃないですか
林嘉啓社長：
月300万円くらいだったのが100万円になり、50万円になり、3万円になり、月1万円くらいが長かったかね
この日、駅を利用したのは高校生1人だけ。5月の1カ月間の乗車券の売り上げは、わずか3,500円だった。
芸備線に約10年乗っていない地元の人：
乗ることがほとんどないですね。本数が少ないんですよ。便利も悪いかなと思います
人口減少と車社会の広がりによってスーパーマーケットの売り上げもピーク時の約4分の1まで落ち込んだ。
野川アナウンサー：
成り立たなくなるかもしれないという考えは…
林嘉啓社長：
もう既に成り立っていないです
林嘉啓社長：
毎年ほとんど利益は出ていない。徒歩で押し車を押して、買い物に来るお年寄りの人がいるので、頼りにしてくれている間はなんとか頑張っていかないといけないかな
地元自治体、JR、国で協議、3年で結論
JR西日本が要請した「再構築協議会」が設置されれば、国が議事進行役を務め自治体と協議しながら原則3年以内に存続か廃止かの結論が出される方針。
庄原市生活福祉部 岡本貢部長：
特に高校生や高齢者。多い少ない関わらず、芸備線を唯一の手段として使っている人がいることは重要なこと
沿線のさらなる人口減少が見込まれる中、芸備線の持続可能な需要をどのように掘り起こしていくのか、残された時間は多くはない。
道後タクシー 林嘉啓社長：
走っているのを見ていると、これは続けられないなという思いは日々していた。最近、色々騒がれ出したから朝の列車も10数人とか乗っているが、それは地域の人じゃない。地域の交通機関としての役目は、もう悲しいかな終わっているかな
中山間地域では高齢化が進んでおり、車を運転できない交通弱者が増えている。このような交通弱者でも利用できるシステムの再構築が求められている。
（テレビ新広島）
