イラン問題は米中首脳会談の主要な議題のひとつだったが、中国の対応はロシアのウクライナ侵攻の時と重なって見えた。
このときは仲介に前向きと注目もされたが、
・当事者間による平和的解決
・主権の尊重
・国際法の遵守
など教科書のような“真っ当なこと”を繰り返すばかりで「具体的なことは何もやっていない」(外交筋)という評価が多かった。

当事国との協議などで停戦や平和の必要性を強調しつつ、具体的な行動はあまり見えないし見せない。
国際社会の批判を浴びない程度にロシアに理解を示す。敵を作らない、バランスを取る姿勢だ。
今回もアメリカ・イラン双方への態度を曖昧にすることでアメリカとの関係を維持し、一方で反アメリカの国との関係強化を図る。これが今後も見据えた中国の手法だと言えるだろう。
アメリカの発表は中国に痛手?
米中首脳会談ではアメリカが「イランは核兵器を持つべきではないと両国が一致」と発表した。

これまで「サプライズはない」と話していたある外交筋はこの点に注目し、北朝鮮を例に出して以下のように解説した。
「仮に米中が『北朝鮮は核兵器を持つべきではない』となれば、北朝鮮は特に中国に怒るだろう。北朝鮮をイランに置き換えて考えれば、アメリカの発表はイランにとって面白くないし、中国にとっても望まないことだったはずだ」と。
ちなみにアメリカの発表文にはその北朝鮮も取り上げられ「米中は北朝鮮の非核化という共通の目標を確認」とある。

これに対し、中国外務省は具体的な言及を避けた。
イランや北朝鮮に触れたくない中国の本音がうかがえる。
イランと北朝鮮もアメリカの発表は看過できないだろうし、どのような反応を示すのかが注目される。
味方を増やす中国 孤立していくアメリカ
こうした中国の外交は幹部の数とお金にも支えられている。中国の最高幹部である常務委員は習近平国家主席を筆頭に7人。
王毅政治局委員兼外相や副首相もいれば、中国共産党の対外窓口・中央対外連絡部もある。常務委員の役割はそれぞれ違うとはいえ、多くの幹部が海外の要人と会うことが出来る。加えて途上国・新興国(グローバルサウス)への援助を通じた関係強化も以前から積み重ねてきた。
台湾の頼清徳総統が4月、アフリカ南部のエスワティニを訪問しようとした際、周辺の3カ国が飛行許可を出さず、頼総統は日程や渡航手段の変更を余儀なくされた。
中国の影響力ゆえだろう。
「心のこもった手渡しの10万円と頬をはたかれる20万円、貧しい国は迷わず後者を選ぶ」(外交筋)というように、世界の外交は非常に現実的で、即物的でもある。
翻ってアメリカ・トランプ政権はカナダやヨーロッパも距離を置いている。
かつて世界をリードしてきたG7の結束、影響力の行使はもはやおぼつかないだろう。「今やアメリカ組は日本、韓国、台湾くらいだ」(外交筋)という冷ややかな見方すら出始めている。
表に出ない中国のマイナス面
ただ、情報の発信が統制されている中国は自国の問題、マイナス面が表に出てこない。

トランプ大統領を出迎え、一連の日程を仕切った習主席が強い指導者であることをアピールしたのは国内向けの「権威付け」の一環だとみられるが、習主席の側近とされる軍幹部らの交代は、体制内の不穏な空気を感じさせる。
国内経済の深刻さを指摘する声も多く「米中会談で経済面の成果をそれほど強調しないのは、恩を売るほどの余裕がないからでは」(別の外交筋)との見方もある。
グローバルサウスなどとの繋がりも「金の切れ目が縁の切れ目」とその脆弱さを指摘する向きもあり、全てが順風満帆だとは言えないだろう。
中国が得た成果とは
米中は今後も習主席の訪米、中国でのAPEC、アメリカでのG20と首脳会談を行うチャンスが複数ある。中国にとっては今回の首脳会談で目に見える収穫がなくても「米中首脳会談を開くことそのものが台湾への牽制になる」(外交筋)という。

アメリカは2025年12月に台湾への武器売却を承認しているが、この売却の進展と首脳会談の開催は密接に絡み合うからだ。
さらにトランプ氏が習主席に気を遣い、持ち上げる光景が次回以降も続くようなら「中国がアメリカより上という印象を世界に発信することになる」(同)と中国に有利な効果をもたらすとの声もある。
中国外交のもうひとつの特徴はこうした情報戦、認知戦で、自らの主張や認識を相手に先駆けて、繰り返し、各所で表明し、有利な環境を整えていく。
高市総理の台湾を巡る国会での発言を「軍国主義の復活」などと喧伝したように、対アメリカでも中国の地位を相対的に高めることを狙ってくるだろう。
したたかな中国にアメリカや日本はどう向き合っていくのか。その駆け引きは今後も続く。
【執筆:元FNN北京支局長 山崎文博】
