反腐敗を掲げる中国・習近平政権の下、軍幹部が相次いで解任される事態は汚職が原因とみられている。その汚職の実態を関係筋に聞いたところ「(汚職は)”立ち小便”をしたことがあるかどうか、みたいな話だ」と言われた。「ほぼ全員アウトでしょ」とも。

正しさを追求すると言えば聞こえは良いが、全く融通が利かない社会というのは怖い。

知っている人は言わない

習主席の側近とされる張又侠(ちょう・ゆうきょう)中央軍事委員会副主席が解任に至った理由は諸説ある。「アメリカに情報を渡した」「台湾統一に慎重だった」「2027年共産党大会に向けた習主席による人事の布石」などなど。

解任された中国軍“制服組トップ”・張又侠氏
解任された中国軍“制服組トップ”・張又侠氏
この記事の画像(5枚)

結論から言えば「わからない」のだが、こうした表に出てくる“説”は眉唾という見方も根強い。中国には「(情報を)言う人は知らない。知っている人は言わない」という慣用句があり、とにかく情報が漏れないからだ。

「反腐敗の取り締まりを粛々とやっているだけ」(関係筋)という、至極シンプルな説もある。そもそも張氏は「高齢なのでほうっておいてもまもなく引退する人」(同)だという。そうであれば、この事態の異様がさらに際立つ。

王毅会見が“マイルド”だった理由

そんな軍の事情とは裏腹に、中国の国会にあたる全人代=全国人民代表大会は予定調和が目立ったのではないか。

経済成長率の目標、国防費の増加、台湾統一への意欲。この3つがニュースの見出しになるのは毎年のことだ。「注目すべき点は何もなかった」(外務省筋)、「目新しいことが何もないのが今回の特徴」(別の外務省筋)との評価が聞かれるくらいだ。

ただ、この全人代で開かれた王毅外相の記者会見については「その前のドイツでの発言と比べるとかなりマイルドだった」(関係筋)との指摘があった。

全人代の記者会見 8日
全人代の記者会見 8日

2月にドイツ・ミュンヘンで開かれた国際会議で王毅氏は

「日本は台湾を侵略、植民地支配する野心が消えておらず、軍国主義を復活させようとする亡霊が今も残っていることが明らかになった」

と発言した。一方の全人代では

「日中関係の行方は日本の選択にかかっている」「台湾問題は中国の内政で、日本が干渉するどんな資格があるのか」

と述べている。

発言のトーンが違う理由は大きく2つ考えられる。

ひとつは国際社会が注目する中で突出した発言を避けたという見方だ。アメリカに対する言及が控えられたのも、米中首脳会談を意識し、今は波風を立てたくない意向がうかがえる。

もうひとつはドイツでの日本批判への反発が強かったためだ。

茂木外相らが即座に展開した反論は大きな賛同を得ていて、修正を余儀なくされた面もある。

茂木外相 2月
茂木外相 2月

中国の主張はもはや「レッテル貼り」に近いが、その表現の仕方はともかく、国際世論を形成しようと繰り返し宣伝する意図は警戒すべきである。

ちなみに韓国はこの王毅外相の記者会見で、質問の機会を与えられなかった。中韓関係が改善基調にあるがゆえに敢えて触れなくてもいいと考えたか、日本に対する発信の必要性を重視したのか。これも様々な見方がある。

見通せない日中関係

そんな日中関係は今後どのように推移するか。

高市自民党の衆院選大勝を受け、中国側が日本にアプローチするのでは、との憶測も一部に聞かれるが、中国が日本に近づく可能性はむしろ低くなったと見るべきだろう。大勝した高市首相にすり寄ったように見られることは、メンツを重視する中国にとって避けたいことだからだ。

秋に予定される中国・深圳でのAPEC=アジア太平洋経済協力会議でも「日中首脳会談はほぼないと思う」(外交筋)というネガティブな見方が多い。
経済的な繋がりは無視できないが、政治的にはしばらく膠着した状態が続くのかもしれない。

日中関係はニワトリとアヒルの会話

これまでを振り返ると、2010年の漁船衝突や2012年の尖閣諸島の「国有化(所有権の移転)」などが発生した際、日中関係は「どん底の状態」などとよく言われた。

だが、その後も外交官の拘束、福島第一原発の処理水放出、中国に住む日本人襲撃事件などで関係は悪化し、どれも解決が曖昧なまま推移してきた。「日中関係は底だと言われても、各種の事案がさらにその底を深くし、それが繰り返されている状態」(外務省筋)だという。

処理水の放出を巡っては中国から大量の迷惑電話がかかってきた
処理水の放出を巡っては中国から大量の迷惑電話がかかってきた

これらの問題を解決すべき外交上のやりとりも進展がないようだ。

中国には「鶏同鴨講」という言葉がある。ニワトリとアヒルが会話をすること、転じてコミュニケーションが取れないことを言う。

ある外交筋は「鶏同鴨講がまさに今の日中関係を表している」と語った。上ばかりを見る”ヒラメ”官僚と過剰な忖度は中国の特徴だと言われているが、現下の国際情勢を見れば、確固たる外交戦略が必要な日本も他人事と笑っていられない状況だ。

中国語を専門にするある外交官(チャイナスクール)も「このまま中国の担当を続けていても将来性はないかもしれない。仕事自体が減っていくのでは」と半ば自嘲気味に語っていた。

問われるのは中国との「付き合い方」ではなく「距離の取り方」になっているようだ。
【執筆:元FNN北京支局長 山崎文博】

山崎文博
山崎文博

FNNプロデュース部長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より北京支局長に。その後2024年から国際部長を経て現職。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。