死者、行方不明者49人。鹿児島を襲った1993年の「8・6豪雨災害」から30年。鹿児島市は甲突川などの氾濫で広い範囲で浸水した。あの時、なぜ被害は拡大したのだろうか?街が浸水する様子を克明に記録し続けた住民の映像と、甲突川を取り巻く地形から氾濫のメカニズムを分析した。

“水が集まりやすい”地形的条件

鹿児島市新照院町の国道3号。鹿児島市を南北に結ぶ交通量の多い幹線道路は、1993年8月6日、川と化した。

1993年8月6日撮影 川と化した国道3号を泳ぐ男性(提供:住民)
1993年8月6日撮影 川と化した国道3号を泳ぐ男性(提供:住民)
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当時住民が撮影した映像には暗闇の中、国道3号を泳ぐ男性の姿があった。映像に表示された時間は、午後9時過ぎ。このとき雨はすでに小康状態だったが、水位はピークになっていた。

8・6豪雨災害について長年研究してきた鹿児島大学・大木公彦名誉教授
8・6豪雨災害について長年研究してきた鹿児島大学・大木公彦名誉教授

甲突川が氾濫したあと、街の浸水はどのようなメカニズムで進んでいったのだろうか?地質学が専門の鹿児島大学・大木公彦名誉教授は被災地域を歩き、住民から得た情報や映像を元に浸水の経過を分析した。

鹿児島大学・大木公彦名誉教授:
すぐ近くに城山があります。反対側にはシラス台地が向こうにも見えているんですが、地形が狭いですね

甲突川に水が流れ込むエリア(鹿児島市)
甲突川に水が流れ込むエリア(鹿児島市)

甲突川に水が流れ込む鹿児島市のエリアを示した地図を見ると、甲突川の源流に近い八重山、郡山などで降った雨に加え、支流の川に流れ込んだ雨水は市街地に向かうにつれ、甲突川に集まり新照院町の付近で一つにまとまっている。

浸水した国道3号を歩く人たち(提供:住民)
浸水した国道3号を歩く人たち(提供:住民)

広い範囲で浸水した国道3号沿いの中でも、この場所は特に水が集まりやすい地形的な条件がそろっていたのだ。

鹿児島大学・大木公彦名誉教授
鹿児島大学・大木公彦名誉教授

それだけではなく、大木名誉教授によると「この年は6~7月のすごい先行雨量の影響で、流域にたくさんあるシラス台地がすでにたくさん水を含んでいて飽和状態だった。このためシラスがずいぶん崩れ、その崩れた水も全部甲突川に集まってしまった」という。

雨弱まるも水位上昇

このような地形条件、住民から提供された映像、そして各地の雨量から大木名誉教授は新照院町での浸水の経過を分析した。

1993年8月6日午後5時~6時の雨量と新照院町のバス停の水位を示した図(提供:大木教授)
1993年8月6日午後5時~6時の雨量と新照院町のバス停の水位を示した図(提供:大木教授)

まず、8月6日午後5時から6時。大木名誉教授は「100mm近い、50mm以上の雨がドーンと甲突川上流から伊敷の辺りまで全部降った」と語る。しかし新照院町のバス停の水位は、大人の膝下ぐらいだった。

バス停の水位は胸の辺りまで上昇(提供:大木教授)
バス停の水位は胸の辺りまで上昇(提供:大木教授)

次に午後6時から7時。源流に近い八重山の雨は小康状態だが、伊敷から郡山の辺りは相当な雨が降り、バス停の水位は胸の辺りまで上昇した。

雨が弱まった後も水位は上昇していった(提供:住民)
雨が弱まった後も水位は上昇していった(提供:住民)

午後7時から8時。各地で雨は弱まり始めているが、水位は下がらない。住民が映像を撮影し始めたのはこの時間からで、それ以降、雨は小康状態になるが、水位は逆に上がっていった。

流される冷蔵庫(提供:住民)
流される冷蔵庫(提供:住民)

午後9時ごろに撮影された映像には、大きな冷蔵庫が流されている様子や、水面から顔だけを出し、泳ぐ人たちの姿が映っており、水の流れもかなり速く、ここが道路だと想像できないような状況になっていた。

浸水ピークずれた原因は…

大木名誉教授は「水位のピークは実は午後9時ごろ」と話す。

鹿児島大学・大木公彦名誉教授:
上流に大量の雨が降って、それがどんどん流れ下ってきて、新上橋のこの一点に全て集まってきたんで、水位が下がらなかった。このあと、満潮があるもんですから、まだ水は引かなかった

提供:住民
提供:住民

大木名誉教授は、八重山や郡山など約3時間前に上流部で降った大量の雨が時間差で集まったことが、浸水のピークがずれた原因と分析した。

1993年8月6日午後11時過ぎに撮影された映像(提供:住民)
1993年8月6日午後11時過ぎに撮影された映像(提供:住民)

その後、午後11時を過ぎてようやく水位は膝の高さほどに下がり、外出する人も増え始めた。午前0時近くになると水は完全に引いた状態になった。

日頃から地形などの情報に興味を持つことの重要性話す
日頃から地形などの情報に興味を持つことの重要性話す

鹿児島大学・大木公彦名誉教授:
私たちが住んでいる所の地形、どちらが高いとか低いとか、地形によって水がそこに集中するとか、そういうことに日頃から興味を持つことがとっても大事

さらに雨雲レーダーなどの活用も重要だと、大木名誉教授は強調する。

鹿児島大学・大木公彦名誉教授:
日頃から今どこら辺で雨がたくさん降っているか使ってほしい、雨雲レーダーとか。8・6の頃はレーダーが一般の人が簡単に見られる状況ではなかった。だから上流で雨が降っていてもわからない。電話とかそういうものでしか情報は来ない。今はそういう情報を皆さんお持ちですけれど、これをどれくらい使えるか、興味を持っているかが大事で、使わなければ宝の持ち腐れですから

あの夏から30年、8・6豪雨災害について長年研究してきた大木名誉教授は「その時、『何が起きたのか』だけでなく、『なぜそうなったのか』を知ること」の重要性を熱く語った。当時と比較にならないほどさまざまな情報が簡単に入手できる今、情報の積極的な収集と活用が求められる。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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