鹿児島を「100年に一度の災害」といわれる8・6豪雨災害が襲ってから30年。死者・行方不明者49人。家屋の浸水被害1万2,000棟。国道の陥没、幕末に架けられた石橋の流失、土砂に埋まる列車…。何もかもが信じられない光景だった。

一変した天文館の風景

1993年8月6日金曜日の夕方、鹿児島市で降り始めた雨は徐々に激しさを増していた。1時間に70mmを超える局地的な豪雨が続き、市内中心部を流れる甲突川(こうつきがわ)は危険水位を超え、濁流が街を飲み込んだ。

街を飲み込んだ濁流
街を飲み込んだ濁流
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「避難してください」。消防の担当者が通行人に呼びかけた。その日、ニュースを担当したキャスターは「安全な場所に避難してください」とカメラに向かって何度も呼びかけた。

あの日、鹿児島市の繁華街・天文館は人でにぎわっていた。しかし、甲突川の氾濫で天文館の風景は一変した。路面電車が走り「電車通り」と呼ばれるメインストリートは、まるで大きな川のようになっていた。

濁流が繁華街を飲み込み、まるで川に
濁流が繁華街を飲み込み、まるで川に

鹿児島テレビは当日の夜、通常番組を中断して特別番組を放送した。その中で、天文館の一角にある鹿児島商工会議所ビル前から、アナウンサーが「私の足元をご覧ください。水が膝の部分まで来ています」と、ひざ下まで水につかりながらリポートしていた。天文館一帯は広く浸水し、飲食店の約3分の1が営業できなくなったという。

水は膝の部分までつかるほどに
水は膝の部分までつかるほどに

この天文館の中でも浸水が激しかったのが「文化通り」と呼ばれる天文館の中でもひときわにぎわう一帯だ。

文化通り周辺の様子
文化通り周辺の様子

一帯は平坦なように見えるが、実は文化通りの辺りに向かって低くなっていて、あの日、この場所に水が集まったのだ。

浸水被害を受けた飲食店

8・6豪雨災害の実際の浸水状況を示した地図がある。専門家が歩いて調査し、まとめたものだ。

平坦なように見えた天文館周辺だったが…
平坦なように見えた天文館周辺だったが…

天文館周辺は、ほとんどが水深1メートル以下だが、よく見ると、水深1~2メートルとなっているエリアもある。あの日焼き鳥店の営業をしていたという、天文館文化通り会の中原寛会長(67)は、当時の様子をこう振り返る。

天文館文化通り会・中原寛会長:
午後5時半~6時には、一気に濁流のように流れてきて、水というか、泥水だった。ビール瓶、ウイスキー便、どこから来たか分からないタイヤも流れてきた。腰のあたりまで水につかりました。怖かったですね、30分で水が上がってきたので

こんな状況で、地下にある店はひとたまりもない。多くの飲食店が入居する「鹿児島ダイモンドビル」地下にあるスナック「私の店」。当時から変わらず、この場所で営業している。

マスターの牧之瀬優さん(65)は、当時35歳。氾濫した甲突川の近くに住んでいたため店に向かうことができず、地上の水が引いた深夜に天文館にたどり着いた。そこで目の当たりにしたのが、まだ水につかったままの自分の店だった。

「私の店」マスター・牧之瀬優さん:
もう終わったなと思いました。もう考えられなかった、余裕がなかった。まさか天文館が水につかるなんて

業者のポンプを使い、水を吐き出し、店に入れるようになったのは3日後のこと。鹿児島テレビは当時、店の後片付けの様子を取材していて「地下では、このように手がつけられない状態が続いているようです」と伝えている。

「私の店」マスター・牧之瀬優さん:
中に入るとすごかった。店内は跡形もないような感じ。泥が1cmぐらい積もっていて、テーブルや冷蔵庫はひっくり返っていた。天井は全部落ちていました。水も出ないから掃除するにも洗うところもないし。地下だからムシムシするし、風もないし、換気扇も動かないし、もうやる気ないですよ、あの状況見たら。やめようと思っていました

お客さんの声に後押しされ同じ場所で再起誓う

店を畳むことも考えていた牧之瀬さんを励ましたのは、お客さんたちだった。

「私の店」マスター・牧之瀬優さん:
「早く再開してください」「やっぱりあそこがいい」と言われたらうれしかった。いろんな人のおかげで今がある。感謝しきれない

浸水するとダメージが大きい「地下」の怖さから、2階以上の物件も見て回ったが、この店の木の雰囲気をどうしても手放すことができず、この場所にかけて店をやることに決めた。
あれから30年。落ち着いた雰囲気を醸し出す柱やカウンターは当時のまま。店には、若者から年配者まで夜な夜な多くの人が集まる。

「私の店」マスター・牧之瀬優さん(65):
あと5年は頑張ろうかなと。本当に「まさか」ですよ。何が起こるかわからないですから。明日、何が起こるかわからない

天文館文化通り会・中原寛会長:
災害が二度と起こらないことを祈るだけ。天文館の明かりが消えるのは寂しい

当時のことを知らない世代も増えている。だからこそ、あの日鹿児島を未曽有の豪雨災害が襲ったことを次の世代に語り継いでいく必要があるのではないか。みんなの暮らしを安全を守るために。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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