山口・萩市が意外な場所に“お試し住宅”を作った。それはなんと現役の駅。JR三見(さんみ)駅の駅舎を改修して「♯さんちゃんち」と名付け、移住生活を体験できる宿泊施設として貸し出しているのだ。
![改修前のJR三見駅。老朽化が進んでいたという](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/700mw/img_3ddf870766f191a2a424b9582fcf5f45764439.jpg)
JR三見駅は1925年に建設。駅舎は木造平屋建で、地域の人々に親しまれたが、老朽化などからJRが解体を検討。その際に市への無償譲渡の提案があったことから、待合室やプラットホームを除いた場所をリノベーションし、約57平方メートル、1LDKの“住める駅舎”として活用することにしたという。
![「♯さんちゃんち」に生まれ変わった姿](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/5/700mw/img_950341f56a0214b3c7001c55d7c1bda9852204.jpg)
玄関を抜けるとリビングと和室があり、キッチン、バスルーム、トイレのほか、家電やネット環境も整備され、くつろげる空間となっている。
![出窓からは列車の往来を見ることもできる](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/f/700mw/img_9fdf6fbab7e399bbf048acf24d83a3ee518004.jpg)
さらに、室内には大きな出窓があるのが特徴。JR三見駅は無人駅だが、列車は往来していて間近で見ることもできる。♯さんちゃんちの利用期間は1週間~最長4週間までで、利用料金は6泊7日で1組7000円(※)とリーズナブルなのもうれしい。※6泊7日以降は、1泊追加ごとに1000円かかる。
駅自体に人の交流機能があると感じた
♯さんちゃんちは2023年4月にオープンし、今は8月まで予約が入っているという。ユニークな試みだが、駅舎をなぜ住める場所にしたのか。どんな生活ができるのだろう。萩市の担当者に聞いた。
――駅舎を♯さんちゃんちとしたのはなぜ?
2021年にJRが駅舎の解体を決め、市が活用するなら無償譲渡するとの話がありました。駅舎がなくなると駅の利用者は不便になるので、検討を進める中、三見地区で計画していたお試し暮らし住宅として活用することにしました。駅自体に人の交流機能があること、100年間使われてきた建物の魅力があることから最適だと考えました。
![♯さんちゃんちの間取り(※待合室とプラットホームは駅の機能)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/700mw/img_a994da0336a33ed00eb3ebd244146a66270532.jpg)
――“住める駅舎”にしたのはどうして?
2019年、市街地にある伝統的建造物群保存地区の古民家を改修して、お試し暮らし住宅「♯梅ちゃんち」として整備したところ、人気もあって利用率の高い状況でした。中山間地域にも、そうした施設の建設を検討していたのですが、そのタイミングで三見駅舎活用の話が舞い込んできた形になります。
![仮眠室を改修した和室](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/8/700mw/img_880a940642cd9309d0c4d964439ab2bb327966.jpg)
――♯さんちゃんちの魅力や特徴を教えて。
駅舎の思い出を残しているのが特徴です。例えば、玄関には落雷の高い電圧から信号、通信機器を守ってきた「保安器」がありますし、琉球畳のおしゃれな寝室(和室)は、駅員が仮眠室として使っていた部屋を改修したものです。「萩焼」(萩市名産の陶器)を食器として使うこともできます。
美しい海岸線と山々に囲まれた場所
――♯さんちゃんちの周囲はどんなロケーション?
三見地区は萩市の西端に位置し、美しい海岸線と山々に囲まれている場所です。目の前をトワイライトエクスプレス「瑞風」や、観光列車「○○(まるまる)のはなし」などの列車が通り、田舎暮らしの実情を知ることができる施設となっています。
![♯さんちゃんちの周辺の風景](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/700mw/img_15521b7c403b22dd9eec27c0f5a2b64f1076039.jpg)
――宿泊施設とするにあたり、重視したところは?
近年では、テレワークなどで地方にいながら首都圏等の企業に勤務することが可能となりました。本施設では光回線を導入し、移住希望者のお試し勤務の拠点としても利用できるように整備しました。
――利用料金は格安に思うが、これはどうして?
料金は♯梅ちゃんちと同額になっています。長期間(1週間から4週間)の滞在が可能になり、萩のゆったりとした時間の流れや空気感を体験していただくことができると思います。移住希望者には、滞在期間中に市内を案内(空き家紹介、子育て施設、病院、スーパーなど)しています。
![生活に必要な設備も整っている](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/8/700mw/img_d8d3db042f3857a4e7303c0ff6e722d6505847.jpg)
――利用者からはどんな反応が寄せられている?
「きれいで、とても住み心地が良かった」「朝、鳥の鳴き声を聴くことができ、癒された」「心にゆとりができ、地元の方とも楽しく話せた」などの反応が聞かれています。
観光目的での滞在はできない
――♯さんちゃんちを利用する上での注意点は?
萩市への移住、市内でサテライトオフィスの開設を検討している人向けの場所なので、観光目的や滞在期間が1週間未満の方は利用不可としています。注意点としては、リビングの壁にモニターがありますが、テレビの受信機能はありません。寝具は持参いただくか、レンタル寝具を利用していただきます。
――今後の予定や目標はある?
「さんちゃん通信」として、note(文章などを投稿できるプラットフォーム)でリアルな暮らしの情報を発信していますが、今後は三見駅を拠点に、JRやバスなどの公共交通機関で萩を周遊する体感コースの紹介を検討しています。
萩市の担当者によると、JR三見駅のそばにはバス停もあるため、駅やバスを利用する地域住民との交流の場にもなってほしいという。宿泊や予約受付の方法は、萩市のウェブサイトに公開されているので、興味がある人は確認してみてほしい。
(画像提供:萩市)