最近よく聞く「心理的安全性」という言葉。

「心理的安全性の高い職場=アットホームで居心地のいい職場」といったイメージを持ちやすいが、これは正しい解釈ではないという。

『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版)の著者で、経営コンサルタントの松岡保昌さんに本来の意味を教えてもらった。

安心して考えを発信できる環境

「『心理的安全性が高い職場=アットホームな職場』と思われがちですが、実際の意味は違います。アットホームであることは悪いことではありませんが、社員同士の和を重んじすぎると、上司の発言に忖度(そんたく)するような“ぬるま湯体質”の職場になりかねません」

では、本来はどのような意味なのだろうか。

「心理的安全性が高い状態は、誰もが安心して自分の考えや気持ちを話し、行動できる状態を指します。同僚の仲がいい職場ではなく、どんな考えやアイデアを発信しても、受け入れてもらえる職場のことなのです」

その心理的安全性が企業において重要視されている理由として、松岡さんは「社会の変化」を挙げる。

「今は、国内外の情報が一瞬で飛び交う時代です。かつての日本企業は海外のビジネスの真似をして大きくなりましたが、情報化の波によって、現在は自ら新しいものを生み出さなければ成長できない時代になってしまったのです。

日本企業がこの時代を生き抜くには、変化適応と強みの創出が欠かせません。そして、この2つを実現するには、アイデアを生み、実践したことを振り返るPDCAサイクルが不可欠なのです」

今の時代を生き抜くためにPDCAは欠かせない(画像:イメージ)
今の時代を生き抜くためにPDCAは欠かせない(画像:イメージ)
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そんなP(Plan/計画)D(Do/実行)C(Check/測定・評価)A(Action/対策・改善)を回していくにあたって、心理的安全性が重要になるという。

「PDCA、特に『Plan』『Check』の場面で、自由に考えやアイデアをぶつけ合うことが、新たな発想や成長のヒントにつながるのです。

1人で1週間考えても出ない答えが、他者の話を聞くと一瞬で見つかることがあります。まったく違う経験と知識を持った人が集まって議論すると、アイデアの幅が広がるのです。特に異色な経験をしている人が入っているほどいい。だから、人の意見を受け入れる心理的安全性が必要なのです」

マネジメント層ができる働きかけ

職場の心理的安全性を高めるには、どのような働きかけが必要になるのだろうか。

「心理的安全性を高める雰囲気をつくるのは、経営トップの役割です。トップが呼びかけなければ、社員は変わりません。社内の雰囲気や人間関係が良くなると、社員が自然と協力し合い、いい結果につながる。この好循環を、トップが理解する必要があります」

経営トップがその重要性を発信したら、続いてはマネジメント層が動く番となる。

「主に心理的安全性が表出する場面は、会議やミーティングです。この場の運営の仕方によって、社員が心理的安全性を感じられるかどうかが変わります。

マネジメント層がまず注意すべきは、『その考え方は変だね』『そのアイデアは難しいよ』という否定の言葉を使わないこと。メンバーが勇気を持って出してくれたアイデアを、『いいね』『アイデアの1つに入れよう』と受け入れると、他のメンバーも意見を言いやすくなります」

受け身ではなくアイデアを出していくことが大事(画像:イメージ)
受け身ではなくアイデアを出していくことが大事(画像:イメージ)

そして、会議に参加するメンバー層も、ただ参加するだけでは高まらないとのこと。

「今後はさまざまな考えや情報を集めて、アイデアの幅を広げていくことが重要になります。そのため、受け身で自分の考えがない人は、戦力にカウントされにくいのです。社員でいる以上、アイデアを出す訓練が必要になっていくでしょう。

また、会議で意見を述べるためには、自分の考えを端的に話せるスキルも必要になります。自分の強みや視点、経験を伝わりやすく発信するため、結論・理由・具体例を整理するなど、情報共有する力を鍛えていけるといいでしょう」

ちなみに「自分なりの強みや視点、経験」は、特別なものでなくてもいいようだ。

「アイドル好きな人が、アイドルのビジネスモデルをヒントにしてアイデアを提案したケースがあります。心理的安全性が高ければ、趣味の話題も出しやすくなるのです。また、部署が違うだけでも、視点は変わるもの。自分の経験の中から出る考えで問題ありません」

「ブレスト」で考えを貸し合うクセをつける

職場の心理的安全性を高めるには、「意見交換する場、いわゆるブレインストーミング(ブレスト)を実践していくのもいい」と、松岡さんは話す。

「理想はブレストをたくさんやって、『知のコラボレーションが起こる会社にしていくぞ』という思いを共有していくことです。部署を超えて、メンバーを集めることで、よりその思いは共有されるでしょう。

マネジメント層に限らず、メンバー層も“相手を否定しない”はマストですが、ある程度訓練しないとできないものです。つい『できない』『あり得ない』と言ってしまうので、その練習のためにもブレストを行ってみましょう」

ブレストではテーマが明確であることが重要(画像:イメージ)
ブレストではテーマが明確であることが重要(画像:イメージ)

ブレストを実践する際に、松岡さんが推奨している方法がある。

「ブレストの主催者と支援者を明確にすることです。主催者が『経営計画案がうまく出せなくて困っている』『新商品に斬新さが足りないから力を貸してほしい』などのテーマを掲げて、支援者=参加者を集めましょう。

テーマが明確で、主催者が苦戦している内容だと、支援者も真剣に考えるため、アイデアが出やすくなります。ここで、立場が上の人が『俺の意見を採用しろ』と圧をかけるのはNG。立場に関係なく、アイデアを出し合う場にすることが重要です」

会社の働きかけによってブレストが活発化したケースもあるという。

「部署を超えて考えや情報を貸し合うことも重要です。ある会社では、メンバーが社内向けに得意領域に関する勉強会を開催できる仕組みを設けたことで、横のつながりが生まれ、他部署の人もブレストに誘いやすくなるという副産物を得られました。

ブレストからいいアイデアが生まれた会社では、社内報に『○○さん主催のブレストがきっかけで新規事業が動き出した』と掲載。それを見た人が『自分もやってみよう』と、動き出すという循環が生まれています」

新入社員にものびのび活躍してもらうコツ

新入社員にも早い段階で心理的安全性を感じてもらうため、できることはあるだろうか。

「新入社員も大切な仲間として受け入れることです。会議の際に、まず新人から発言させる会社があります。そうすることで、先入観のない自由な発言をしてくれるからです。その意見を受け入れることで、新人でも臆せずに発言できるようになります」

ただし、新入社員に対しては、自由にさせすぎないことも必要だという。

「新人だと、会社が大切にしていることや社内のビジネスに対する評価軸を、正確に把握できていない可能性があります。例えば、スピード感よりも丁寧さを大切する会社で、スピード感を重視したアイデアばかり出しても、会社のためにならないですよね。

会社のビジネスモデルや大切にしている部分をきちんと伝えることで、会社が目指す方向とマッチしたアイデアを出せる人材に育っていくでしょう。逆に、そこが共有できていないと、『会社は意見を聞き入れてくれない』と、文句を言う人になってしまうかもしれません」

心理的安全性の高い職場とは、考えやアイデアを言い合い、受け止め合える職場のこと。立場によって、それを高めるためにできることは異なるが、仲間に協力する姿勢がカギとなりそうだ。

松岡保昌
モチベーションジャパン代表取締役社長、経営コンサルタント。同志社大学卒業後、リクルートに入社。その後、ファーストリテイリングやソフトバンク、AFPBB Newsで経験を積み、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業、モチベーションジャパンを設立。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。

取材・文=有竹亮介(verb)
イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。