部下が思ったように動いてくれない。結果を出してくれない…。「的確な指示を出しているはずなのになぜ?」などと、悩みを抱えている管理職もいることだろう。

しかし、それはやり方が間違っているからかもしれない。自分が良かれと思ってやっていたことが逆効果になっている可能性もあるのだ。一方で、チームの業績を伸ばす“できる上司”は存在する。

彼らは部下のモチベーションを上手に上げて結果を残しているのだと思うが、どんなことをしているのだろうか? 例えば、部下に日頃から掛ける言葉に特徴があったりするのだろうか?

コーチングのメソッドを教える株式会社1on1エンゲージメント研究所の板越正彦さんに、優秀な上司に見られる口癖や意識を聞いた。

できる上司はいいタイミングで“褒める”

――部下の信頼が厚い、できる上司に“口癖”というものはある?

口癖とまで言えるかは分かりませんが、部下などに「よくやった!」「頑張ったね!」「ありがとう、助かったよ!」などの褒める言葉を、いいタイミングでしっかりかけていますね。自分の仕事が認められたということで自己肯定感が増し、部下のやる気にもつながります。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、上司の皆さんは、大変お忙しいので、意外とできていないものです。

その理由は「とりあえずなんでも褒めたらいい」ということでもないからです。部下が「何を重視しているか?」など、相手の価値観をしっかり見極めた上で、その点に言及しないと効果がうすいのです。

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――では、どのようにして褒めればいいの?

上司に褒められた時に、「そこは誰でもできるので、どうでもよくて…」と思った経験はないでしょうか。部下としては、頑張った部分や工夫した点を見てほしいわけで、見当違いの箇所や褒めるタイミングが違うと、「私の何を見てくれていたのだろう」と思われ、逆に信頼感を失うこともあるのです。

“褒める”よりも前に大切なのは、相手の話に心から関心を持ち、よく観察することです。「仕事への向き合い方」「何を頑張ってきたのか」などの、相手の価値観を読み取ることがポイントになります。

しっかり“観察”するには会話が重要

――具体的にどのようにするの?

基本は会話になります。まずはアイスブレーク的な雑談、天気や映画、家族の話題などを上司から話しかけてください。最近の若い新入社員でしたら、携帯ゲームや推しの動画などの話題が盛り上がるかもしれませんね。若い子は無口という印象があるかもしれませんが、自分が興味や関心があることについては、かなり話してくれます。

私は大学でも教えたりしているのですが、学生など若い人と話す時は、まずマイブームや最近の面白かった出来事などを聞きます。自分が熱中していることですので、その魅力などを熱心に話してくれる人が多いです。

自分があまり知らないことでも、じっくり聞いた後で、「どんなところが好きなの?」「面白いところを教えて」などと質問すれば大丈夫です。あなたが、その趣味に関心があることを伝えれば、より心を開いてくれます。逆に話題に興味がないと思われると、向こうからのコミュニケーションが最小限になってしまうこともあるので注意してください。

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――この会話が「観察」になっていくということ?

はい、この会話を通して、相手の好みや価値観を理解していくことが「観察」になります。熱心に話してくれる話題などから、「どんな性格か?」「どんな時にモチベーションが上がるか?下がるか?」などを探ってください。そして、把握した上で相手のタイプに合わせて褒めたり、関心を示すことで信頼関係も築いていけるのです。


――できる上司はこのような観察や言葉掛けを意識してやっているということ?

はい、意識している人が多いですね。例えば、こんなことがありました。私は以前、部門の業績が悪かった会社幹部に「自分に真剣に興味関心を持ってくれる上司がいると、チームとして安心感が出る」とアドバイスをしました。

これまで仕事にしか興味がなく、人にはあまり関心を持てないと言っていた彼は、1日に2回、部下200人がいる職場を回り、「子どもは元気?」「出張どうだった」などと意識してみんなと雑談をするようにしたそうです。すると、この雑談からの観察で部下をより理解し、愛着が出てきて、相手が喜ぶ声掛けをすることでチーム全体がまとまり、部門は業績を年々増加。

他の部門に比べて最低の方だった社員満足度もどんどん上がり、会社から功績が認められ、彼は本部長、副社長へと出世したのです。元から優秀な人でしたが、このように意識して行動したことで、部の雰囲気がかわり、出世という結果もついてきたのだと思います。

部下も真似してできる上司に

――このような上司がいると、その部下も“できる上司”になっていく?

はい、その傾向があると思います。このケースの場合も、忙しい時でも、継続して社内を回り続ける上司の姿を見た彼の部下の部長やマネージャーらが、真似するようになったそうです。部長らも部下をより理解しようとする声かけをするようになり、相手のタイプに合わせた対応をできるようになったのです。先ほど部門の業績が年々伸びたとお話ししましたが、このような好循環が生まれ、その結果、部門全体としてのモチベーションが上がったというわけです。


――では、もし雑談が苦手な部下の場合はどうしたらいい?

雑談を無駄な時間だと考える人はいます。雑談を好まない雰囲気を感じたら、「今、何を注力しているの?」「こうしたらよかったよ」などと端的に話しかけた方がいいですね。最初に、効率良く仕事でプラスになる話だけをしたいのかを聞くのもいいですね。

その上で相手の望むような対応を心がけてください。ただ、そんな部下でも「どんなことをこれからやりたいか」「仕事において何を重視しているか」などを、業務面談の場でストレートに聞けば答えてくれると思いますので、対話が全くできないことはないでしょう。

私が教えている学生たちも、バイトリーダーになる3・4年生が多いのですが、新人や後輩をまとめる立場として、こういった一人ひとりに合ったマネジメントや、雑談などの声かけを行うことで、信頼関係を築くことができた、後輩のミスが減ったと喜んで報告してくれる例が多いです。彼らは素直なので、ノウハウさえイメージできればすぐやるんですよね。

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基本的なことかもしれないが、部下の性格や価値観を理解することは意外と難しい。これまで、曖昧に部下を接していたのであれば、まずは雑談でいいので、自分から心を開いて、話しかける機会を増やすことから始めてほしい。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。