部下にいくら説明しても伝わらない。上司に何度もやり直しを命じられた。職場でこんな経験をしたことはないだろうか。それは“認識や理解のズレ”に原因があるかもしれない。

人材育成・教育研修の企業「ラーニングエージェンシー」がビジネスパーソン614人を対象に2月1日~3月6日、社会人のコミュニケーションにおけるズレの実態調査を行った。

約7割が上司と部下とのやり取りでズレを実感(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)
約7割が上司と部下とのやり取りでズレを実感(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)
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ここで、認識や理解のズレがどんな場面で起きるか聞いたところ「上司または部下と日々の仕事のやり取りをしているとき」(69.5%)と答えた割合が最も多かったのだ。

次いで「会議などでお互いの情報共有や意見交換をしているとき」(48.2%)、「顧客からの要件、要望などをヒアリングしているとき」(26.2%)などの場面でもズレを感じたという。

ズレにより仕事で困ったこと(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)
ズレにより仕事で困ったこと(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)

こうしたズレで、仕事では「再度同じ説明をしてもらうことになった/再度同じ説明を求められた」(54.1%)、「思わぬところでタスクの抜け漏れが生じた」(43.6%)などの影響が出たという。

ズレの発生頻度(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)
ズレの発生頻度(ラーニングエージェンシー:社会人のコミュニケーション実態調査)

ズレの発生頻度は「月に1、2回」(41.5%)が最も多かったが、「ほぼ毎日」(6.0%)という人もいた。認識や理解のズレはなぜ起きるのか。同じ説明をしてもらう・求められることが続くとストレスにもなりそうだが、防ぐことはできるのか。

ズレは「○○だと思ったけど、違った」状態

ラーニングエージェンシーの根本博之さんに聞いた。


――そもそも、職場で起きる「認識や理解のズレ」とはどんなもの?

簡単にいうと「○○だと思ったけど、違った」という状態です。部下が頑張ったことと違うところの品質を上司は要求していた。納期で「なるべく早めに」とお願いし、自分は今週中を想定していたが、相手は今月中に納品すればいいと思っていた。こうしたことがズレですね。


――同じ説明をしてもらう・求められることに困る人が多いようだが、具体例を教えて。

上司・部下間でよくあるのが、顧客に提供するはずの成果物が納期通りに納品できない、期待していた品質で資料が用意できないという状況です。上司は何度も説明しなければならない。部下はやり直さなければいけないので、モチベーションの低下につながる可能性もあります。 

上司と部下どちらもよくないところがある(画像はイメージ)
上司と部下どちらもよくないところがある(画像はイメージ)

――そうなるのはなぜ?上司と部下のどちらに原因があるの?

上司と部下どちらもよくないところがあります。原因は(1)仕組み(2)スキル(3)意識。ここにあることが多いので順番に説明しましょう。(1)は伝えた内容が確認できる、記録に残す仕組みがないことです。ここは、メールやチャットでも構わないので、伝えた内容をどこに残すか双方で明文化しておくことが重要です。

(2)は物事を伝えるスキル、理解するスキルが足りないことです。話しているけど何を伝えているかよくわからない、聞いているけど理解できていない。ここは、話す時は結論から伝えることを意識する、聞く時は疑問点をその場で聞くようにすると改善できます。

相手目線の意識が足りないことも原因に(画像はイメージ)
相手目線の意識が足りないことも原因に(画像はイメージ)

(3)は相手目線の意識が足りないことです。この話し方で伝わるだろうか、伝わっていないかも。といった意識がないままコミュニケーションしている。ここは、相手の表情などを見て、どう受け止められているか考えるようにすると改善できます。

「伝える」よりも「伝わる」ことが大切

――同じ説明をしてもらう・求められることを防ぐには?

相手に「伝える」よりも「伝わる」ことを意識してください。重要な話の前は準備として、自分の主張をメモなどで整理すると良いでしょう。表情や声のトーンも大切です。普段よりも真剣な表情だったり、声のトーンが真面目だと本気度が伝わります。

意見のすり合わせ、不明点の確認が大切(画像はイメージ)
意見のすり合わせ、不明点の確認が大切(画像はイメージ)

――上司と部下に意識してほしいポイントは?

上司は分かりやすい言葉で伝えることですね。知識や経験がある分、相手が理解できるか考えてから伝えてほしいです。普段の態度も重要です。忙しそう、威圧的だったりすると、部下が気になることがあっても質問できません。部下は細かなことを確認することですね。上司から指示を受けたら内容を復唱して、意見をすり合わせるようにする。分からないことはその場で確認してほしいです。


――職場全体で気を付けてほしいことはある?

コミュニケーションの省略には注意してほしいです。慣れるとつい「伝わるだろう」などと、簡単になることがあるのですが、知識や経験、情報の理解度は人によって違います。一部の人だけ分からない状態にもなりかねないので、意思疎通は丁寧にしてほしいです。

中間報告の機会を作るのもお勧め

――認識や理解のズレは未然に気づけるもの?

中間報告の機会があると良いと思います。資料の作成を例にすると、作り始めてから「これって、言われたものと違う?」とズレを感じることがあります。なぜこうなるのかというと、取り組むことで仕事に対する解像度が上がっていくからなのです。この解像度が上がるのは、経験豊富なベテランほど早く、若手ほど遅くなりがちです。ですので、作業への認識が少し深まったタイミングですり合わせができると、ズレを早めに修正できると思います。


――ズレが起きたらどう解決すればいいの?

相手と自分がどんな認識を持ち、ズレがなぜ起きたか確認することが大切です。職場だと上司が「こう言っただろう!」などと責めがちですが、それはいけません。ズレに対処しながら、双方が「こういう認識だったのですが…」とすり合わせることが、再発防止につながります。

ズレは手戻りが起きたり、誰かに迷惑をかけて気付くことも多いと思います。対処はきちんとしつつ、なぜそうなったのか、認識がどうだったかという原因分析をしてほしいですね。



担当者によると、認識や理解のズレは認識できると成長のきっかけにもなるという。物事を伝える力や聞く力は後天的にも磨けるともいうので、ズレが起きても落ち込まず、行動や言動を見直す機会と考えてもいいかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。