「部下のモチベーションが下がっている」

そう感じるようになった時、原因は上司や先輩の立場の“あなた”にあるかもしれない。

では、どんな接し方が、部下のモチベーションを下げてしまうのだろうか。『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版)の著者で、経営コンサルタントの松岡保昌さんに、部下との接し方について聞いた。

モチベを下げる上司、2タイプ

なぜ、部下らのモチベーションは下がってしまうのだろうか。その原因には上司らの言動にあると、松岡さんは指摘する。

「上司や先輩の対応が大きいといえます。部下の発言やアイデアを『そんなことできない』『新しいことは大変だろ』と否定した瞬間、部下は発言できなくなり、モチベーションも下がっていくのです」

まず「否定しないこと」が大事。

さらに、部下のモチベーションを下げる上司には、2つのタイプがあるという。

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「1つ目は、メンバーを目標達成のための道具と思っている上司。

相手へのリスペクトがないので、部下の目を見て話さない、部下を立たせたまま報告させるといったことをしてしまう人です。上司に報告に行った際に、パソコンを見ながら『聞いているよ』と言われても、信用できませんよね。

タスク管理を指す『事のマネジメント』も大切ですが、それ以上に『人のマネジメント』が重要。部下をリスペクトして丁寧に接することができる上司は、部下のモチベーションを上げ、『事のマネジメント』もうまく管理できるのです」

2つ目のタイプは、「責任転嫁をする上司」。

「『部下がやらない』『部長がやれって言った』と、全方位的に責任を他者になすりつける人って稀にいますよね。こういう上司は成果だけは自分のものにするため、部下はモチベーションが下がる一方です」

部下の意見を受け入れ、モチベを上げる「対話」を

部下のモチベーションを上げる上司の接し方のカギは「対話」だと、松岡さんは言う。

「対話とは、相手を個として認識し、一人ひとり考え方が違うという前提で話し、相手の発言の真意を理解しようとすることです。

例えば、部下に頼んだ業務が進んでいない時、頭ごなしに叱るのではなく、進められなかった理由を聞くのが対話です。さらに、その理由を受け止めたうえで、業務の進め方を一緒に考えていくことができれば、部下のモチベーションは下がりません。

上司は『相手の行動には理由があるかもしれない』という思考を持ちましょう」

その対話をする際に、上司が心掛けておきたいこともある。

「上司と部下では立場が違うので、視野が異なることを認識しましょう。頼んだ業務を期待通りのレベルで仕上げてもらうには、上司が何を考えて、その業務を頼んだかという背景を丁寧に共有することが必須。そうするだけで、部下の仕事は変わってきます。

とある会社の管理職の方は、業務を依頼する理由や背景、ゴールイメージを丁寧に伝え、最後に部下自身に業務内容やゴールイメージを説明してもらうそうです。

このひと手間を行うことで、その時点で認識のズレを修正できます。部下も、上司が向き合ってくれていることを感じ、モチベーションが上がるのです」

対話する際には、「責めるニュアンス」を避けることも大切だという。

「コミュニケーションの場で『なぜ』を多用すると、相手は責められている気がして萎縮してしまいます。『なぜ進んでないの?』と聞くより、『何が理由で進まなかったの?』と聞くほうが、追い詰められている感じが少なくなりますよね。

『あなたはなんで報告しなかったの?』という、“あなた”が主語になるYouメッセージも責めるニュアンスが出てしまいます。

同じ内容でも、『私はこの段階で報告してもらえると、次の段取りを考えられるからうれしい』のような“私”が主語になるIメッセージで伝えると、部下も話を受け止めやすくなります」

モチベが低いと成長も変化もしない

「社員のモチベーション次第で、その会社の『企業力』『変化適応力』は大きく変化します。『企業力』はわかりやすいところ。モチベーションの高い社員100人と低い社員100人がいた場合、前者のほうがパフォーマンスが高いということは容易に想像できますよね。

モチベーションが低い人は、求められる目標ギリギリのことしかしようとしませんが、高い状態で働けている人は、仕事に意義を見出し、『こうしたらもっと世の中の役に立つんじゃないか』と、求められた目標以上のことを実行しようと動くのです。その結果、会社も成長していきます」

社員のモチベーションは企業の成長にも影響する(画像:イメージ)
社員のモチベーションは企業の成長にも影響する(画像:イメージ)

では「変化適応力」はどのように影響するのだろうか。

「コロナ禍で外食より中食が増えたり、リモートワークが導入されたりと、これまでと違うサービスが求められるようになりました。コロナ禍前から社会の変化もスピード感を増し、会社は変化しないといけない時代になっています。

社員のモチベーションが高いと、チャットGPTのような新しいシステムが出た際に、『どうしたら自社で導入できるか』と、積極的に動けます。しかし、モチベーションが低いと、『新たに導入するのは大変なだけ』と、変化に消極的になってしまい、現状維持を目指すのです」

また、モチベーションが低いことで、社会の変化にも気づきにくくなるという。

例えば、こんなケースが想定される。

コロナ禍でデリバリーを始めようと考えたラーメン店が、容器メーカーに「逆さにしても汁がこぼれない容器はつくれないか?」と相談した。

容器メーカーの社員にやる気がないと、「うちでは対応できません」と断わる可能性が高いが、やる気があれば「検討します」と、開発に向けて動き出すだろう。

「現場のメンバーのモチベーションが高いと、顧客の要望を聞いた際に『今後のために対応したほうがいいかもしれない』と考え、新しい製品やサービスのヒントを持ち帰ることができます。これが会社の変化につながっていくのです」

会社が生み出す価値への「共感・共鳴」がカギ

最後に松岡さんは、「社員のモチベーションが高い会社は、社員が『社外規範』『社内規範』に共感・共鳴している」と、話す。

「『社外規範』とは、その会社の理念やミッション、ビジョン、パーパスのこと。商品やサービスを通して、世の中にどのような価値を提供しようと考えているかという部分に社員が共感・共鳴すると、『この商品を多くの人に届けよう』と、仕事に対するモチベーションが自然と上がっていきます」

ただし、会社が何もしなくても、社員が共感・共鳴するとは限らない。

社員が共感・共鳴する機会を設けることも重要(画像:イメージ)
社員が共感・共鳴する機会を設けることも重要(画像:イメージ)

「共感・共鳴のきっかけを仕掛けることが大切。社内表彰の際に、受賞者が手がけた仕事の取引先や顧客からコメントをもらい、全社に共有するという方法があります。社員は『うちの会社が生み出した価値は、顧客に評価されているんだ』と実感するとともに、自分の仕事に意味を見出し、本気で取り組めるようになるのです」

もうひとつの「社内規範」は、「社内で重視されている価値のこと」をいう。

「『社内規範』は、同じ業界でも会社によって異なります。

ラグジュアリーホテルであれば、お客様の忘れ物をタクシーで届けるような丁寧さが価値とされますが、ビジネスホテルのスタッフがタクシーで届けたらきっと『経費を使い過ぎだ』と叱られます。ビジネスホテルは、いかに安価で宿泊してもらうかというところに価値を置いているからです。

会社が競争優位性にしているところを社内に共有し、どのような行動が評価されるかが伝わると、社員の目指す方向が明確になり、モチベーションが上がります。『社外規範』『社内規範』への共感・共鳴は、モチベーションを上げる大前提といえます」

部下のモチベーションを上げるには、会社の取り組みも重要だ。一方で、上司の振る舞いも大きな影響を与えている。自分ができることから始め、上司も部下も本気で働ける職場を目指していきたい。

松岡保昌
モチベーションジャパン代表取締役社長、経営コンサルタント。同志社大学卒業後、リクルートに入社。その後、ファーストリテイリングやソフトバンク、AFPBB Newsで経験を積み、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業、モチベーションジャパンを設立。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。

取材・文=有竹亮介(verb)
イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。