“Electability”って何のこと?

日本の政界には“地盤・看板・鞄”という表現がある。それぞれ組織力・知名度・資金力を指すようだが、それら無くして政界での成功は望めない。そんな事より政治信条や政策立案・遂行能力の方が遥かに重要と断じるのは書生論になるらしい。先ず選挙に勝たなければお話にならないからだ。

ある時、ワシントンの友人に尋ねたことがある。

「アメリカ政界で一番モノを言う力とは何か?」と。

特に金がモノを言うアメリカに於いて、友人は資金集めを得意とする選挙専門家で、分類すれば共和党保守派に属する。当然、資金力か政治信条を第一に挙げると予想していたのだが違った。間髪入れず返ってきたのが、本稿のタイトルの“Electability”の一言だった。前稿テーマと同様にこの言葉も学校の教科書には出て来ない。

“Electability”は選挙に勝つ能力
“Electability”は選挙に勝つ能力
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“Electability”を直訳すれば“選ばれる能力”、すなわち選挙に勝つ能力を指す。もしかすると能力というより総合力の方が正確かも知れない。普通選挙によって代表を選ぶ民主政治においては選挙に勝つことが先決なのは国を問わない。歴代の“POTUS”=アメリカ合衆国大統領になるのは結果的に最も“Electability”の高かった候補なのである。

トランプ前大統領の“Electability”は?

直近で筆者がこの言葉を目にしたのはワシントン・ポスト紙ウェブ版に2月に掲載された“Trump’s grip on the Republican base is slipping — even among his fans”=「共和党内でトランプの求心力低下中―熱狂的ファンの間でさえも」という記事に於いてであった。

そこにはこう記されている。「求心力低下最大の理由は“electability”である。トランプの前回大統領選挙は『盗まれた』という虚偽の主張を信じ、今なお彼を支持する共和党員さえも次回2024年の大統領選挙で、トランプがバイデン或いは別の民主党候補を負かすことが出来るのか疑問があることを認識し始めている」

民主国家に於いては何処でも似たようなものだろうが、特にアメリカの政界に於いて政治家の“electability”に疑問符が付き始めると先行きは暗い。

トランプ氏の“electability”に疑問符?
トランプ氏の“electability”に疑問符?

そもそもトランプ氏が2016年のアメリカ大統領選挙に於いて、並み居る有力政治家を押しのけて共和党の指名候補になれたのは、長い予備選の戦いを通じて、共和党支持者の間でトランプ氏の“electability”が最も高いとみなされるようになったからである。アメリカの大統領選挙に於いては多くが勝ち馬に乗りたがる。それ故に、当初から民主党の指名候補当確だったヒラリー・クリントン候補に勝てる可能性が一番高いのはトランプ候補と期待が集中したのである。

そして、クリントン氏に対して勝利を収め自らの“electability”を証明した後、トランプ氏の威光が共和党内で猛威を振るうようになったのは、トランプ氏の“endorsement”=「支持と推薦」を得た候補が、共和党内の予備選で軒並み“electability”を高め、強かったからである。

バイデン大統領の“Electability”は共和党候補者で変わる?

しかし、そのトランプ氏の威光は去年11月の中間選挙で明らかに陰りを見せた。今ではトランプ候補で次に勝てるのかという疑問がじわじわと拡がり始めているのである。共和党の新星、デサンティス・フロリダ州知事が、調査によるが、トランプ氏をぴったりと追走しているように見えるのは此の為である。元ポルノ女優に“口止め料”を支払ったとされる問題でトランプ氏はニューヨークで起訴されたが、これが氏の“electability”に長期的にどのように影響するかは現時点では未知数である。

共和党の新星、フロリダ州のデサンティス知事(44)
共和党の新星、フロリダ州のデサンティス知事(44)

対する民主党の現職大統領・バイデン氏の“electability”に、トランプ氏が相手の場合は、今のところだが、大きな問題は無いようにも見える。しかし、若く日の出の勢いのデサンティス知事がトランプ氏を予備選で打ち負かして本選に出て来れば、バイデン氏の高齢問題が彼の“electability”の足を引っ張ることになる可能性がある。

若いデサンティス知事が本選に出れば、バイデン大統領の年齢が“electability”の足を引っ張る可能性も
若いデサンティス知事が本選に出れば、バイデン大統領の年齢が“electability”の足を引っ張る可能性も

とは言え、次回大統領選挙本番は1年半以上先の事である。予備選挙の戦いが本格化し始めるのも秋である。政界では“一寸先は闇”という。アメリカ大統領選挙の行方を今占っても鬼が笑うだけだろう。

次稿テーマは“1st Amendment”と“2nd Amendment”を予定している

【執筆:フジテレビ解説委員 二関吉郎】