「東大の入試問題を小学生が解けるなんて、ありえない!」と多くの人が思うだろう。

しかし、偏差値35から東大受験を決意し、二浪の末に見事合格した西岡壱誠さんは「本当なんです」と語る。

著書『小学生でも解ける東大入試問題』(SBクリエイティブ)では、東大で過去に出題された5教科(国語、数学、英語、理科、社会)の問題から32問を取り上げている。

いずれも求められるのは、問題の表現や単語の複雑さに惑わされず、シンプルに考えること。かつて自身も「勉強の結果は知識量で決まる」と思っていたが、「思考力」を重視する東大の入試問題を通じて、学び方が大きく変わったという。

今回は社会の「高知と香川でやりとりしている“資源”とは?」と、国語の「あなたが価値があると思う文学作品は?」の問題から一部抜粋・再編集して紹介する。

「なぜ」と疑問を持つことの大切さ

問題:
高知県と香川県では、 ある重要な資源をやりとりしている。 資源の名称と、このようなやりとりが生じる理由を、この資源の供給と消費の両面から、あわせて3行以内で述べなさい。
【2020年 地理 第一問】

社会の問題は、私たちの日常生活に直結している題材ばかりです。

日常生活を何気なく過ごすのではなく、「なぜ?」について、社会という科目で習った、自分が知っている限りの知識を紐づけて解くことが大切です。

「東大の入試問題だから、答えは複雑な内容に違いない」「専門的な知識を使って答えなければいけない」などということはなく、いかにシンプルに答えられるかどうかが、カギを握ります。

では、さっそく始めましょう!

「資源」という言葉に対する「思い込み」

この問題は、小学生のほうがよく知っているかもしれません。なぜなら、小学校の社会の授業で、香川県は1年に1回「あるもの」で困るという話をまさに習うからです。

大人にとって、この問題を「難問」にさせてしまうポイントが1つあります。

それは、「資源」という言葉です。

資源という言葉を見て、「資源というのは鉱物や石油などのことだろう…。でも、そんなものは高知県や香川県にないはずでは?」と考え込んでしまう人が多いのではないでしょうか。

資源という言葉は、「生産活動に使うエネルギー」のことを指します。鉱石や燃料以外にも、生きるために必要な水や、場合によっては食料も当てはまるのです。

香川と高知は「水」のやりとりをしている(画像:イメージ)
香川と高知は「水」のやりとりをしている(画像:イメージ)
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したがって、この問題の答えは「水」です。

「夏になると香川県の水が不足している」というニュースが取り上げられることがあります。

それくらい、香川県は降水量が少ないのです。

夏に水不足になると、香川県は吉野川を通じて、高知県にあるダムから水をもらっているのです。

社会の解答例

今回の問題の解答例です。ただし、東大は模範解答を公表していないため、あくまで私が参考になればと思い作成したもので、必ずしもこの通りに解答する必要はありません。

名称:水

理由:高知県は年中多雨かつ人口密度が低く水が余剰となる一方、香川県では瀬戸内海式気候で夏季に少雨かつ人口密度が高く水が不足するため吉野川のダムで水の供給を行っている。

それでは次は国語の問題です。

「文学」ってなに?

国語の問題も、解こうと思えば小学生でも解くことは可能です。

ポイントは、言葉のとらえ方、物の見方です。

問題:
日本文学史上における価値高き作品、もしくは作家を十選び、その理由を簡単に述べよ。
【1947年 国語】

「日本文学史上における価値高き作品」は、主観や解釈による部分が大きくなります。文学の研究者10人に聞いたとしたら、おそらく10人とも違う作品を挙げることになるでしょう。

そもそも、唯一絶対の“正しい”基準がありません。

「価値高き」という表現も曖昧です。「価値」なんて、人によって変わってしまいます。

「採点の基準は、いったいなんだろう?そもそも、入試問題として成立しているの?」と、疑問に思った人が多いのではないでしょうか?

一見、「悪問」にさえ思えます。でも、これでいいのです。

じつは、この問題の最大のポイントは、まったく別のところにあります。

あなたが「文学」と考えるものは

それは、「あなたは、“文学”という言葉をどのように捉えているか?」ということです。

文学とは、「日常の当たり前のことを切り取って、その意味や価値を広げるもののこと」を指します。言ってしまえば、この定義に当てはまるものであれば、なにを答えてもいいのです。

2016年にボブ・ディランの歌詞がノーベル文学賞を受賞したことからもわかるように、ひと言で「文学」といっても、小説にとどまらず、歌詞からスピーチ、テレビドラマ、劇まで「これが文学だ」と自分が考えたのなら、それが答えになります。

あなたにとっての「文学」は何ですか?(画像:イメージ)
あなたにとっての「文学」は何ですか?(画像:イメージ)

この問題を見たときに、「日本の文学史上で有名な作品といえば、学校の授業で文豪として夏目漱石や芥川龍之介、太宰治を習ったな…。理由は、後世にも大きな影響を与えているというような趣旨のことを書けば正解になるだろう…」などと考えてしまいがちです。

でも、この問題に模範解答的な「正解」は存在しません。

この問題を通じて東京大学が見ているのは、「世間的に文学史上価値の高いと評価されている作品・作家を10個挙げられるかどうか」ではありません。

「物事を“文学的”に考えられるかどうか」なのです。

夏目漱石や芥川龍之介の作品ではなくても、自分の身の回りの音楽や詩などについて「文学的」に納得できる理由を書くことさえできれば、なんでも正解になるのです。

村上春樹でも夏目漱石でも「ポケモン」でもOK

たとえば、子供がよく読む漫画など、自分以外の人が「文学的に価値が高い」と考えていないようなものであっても、この問題の答えになりうるのです。

僕なら吉本ばななさんの『キッチン』(福武書店、1988年)を挙げます。

また『ドラえもん』でも正解をつくることができると思います。

何度も言いますが、どんな解答でもかまいません。

村上春樹でも夏目漱石でも芥川龍之介でも椎名林檎でも米津玄師でも、『ポケモン』でも『ドラえもん』でもいいのです。

素直に感動を伝える能力が、この問題を解くカギなのです。

手垢にまみれた言葉よりも、子供の素直な感動のほうが、理由として成立するかもしれないからです。

国語の勉強とは、「自分の考え」なしに、ひたすらに知識を詰め込むことではない。「文学」という言葉1つに対しても、自分の考えを明らかにしたうえで論理的に説明できることが、国語の勉強には大切である。

この問題を通して、東大はそう教えてくれているのです。

国語の解答例

今回の問題の解答例です。ただし、東大は模範解答を公表していないため、あくまで私が参考になればと思い作成したもので、必ずしもこの通りに解答する必要はありません。

(作品例)ドラえもん
未来の世界のロボットであるドラえもんというデバイスを、のび太くんは非常に上手に使いこなしているといえる。そのような未知の新しいものを使いこなす姿勢について、卑近な例も交えながら教えてくれる作品。

(作家例)King Gnu
何気ない日常を歌ったものであっても、それがどこか輝かしい価値を持っているものだと気付かされる歌詞をつくっている。日常生活の輝きを気付かせてくれるという点において価値が高いと考えられる。

小学生のお子さんがいる方は、ぜひ親子で一緒に本書の問題に挑戦してみてください。大切なのは知識の「使い方」と、その知識を使って問題を解く力です。

学ぶとはどういうことかについて親子で一緒に話し合うきっかけにしてほしいです。

『小学生でも解ける東大入試問題』(SBクリエイティブ)
『小学生でも解ける東大入試問題』(SBクリエイティブ)

西岡壱誠
株式会社カルぺ・ディエム代表。
偏差値35から東大を目指すも、2浪する。3年目から勉強法を見直し、偏差値70、東大模試で全国4位となり、東大合格を果たす。東大入学後、人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集を行うほか、TBSドラマ日曜劇場「ドラゴン桜」の脚本監修を担当。『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)など著書多数。

西岡壱誠
西岡壱誠

株式会社カルぺ・ディエム代表。
偏差値35から東大を目指すも、2浪する。3年目から勉強法を見直し、偏差値70、東大模試で全国4位となり、東大合格を果たす。東大入学後、人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集を行うほか、TBSドラマ日曜劇場「ドラゴン桜」の脚本監修を担当。『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)など著書多数