音声コンテンツに特化したサービス「Voicy」。2022年7月には会員登録者数150万人を超え、投資家から27億円の資金調達を実施したことも話題となった。

新著『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)で自分らしく話すコツについて記している代表の緒方憲太郎さんは、音声技術を「スマートフォンの次の時代」と位置付ける。

我々の未来の社会は、音声によってどのように変わっていくのだろうか?特集「スタートアップ・リポート」年末特大号として実施した、フジテレビアナウンサー藤本万梨乃との対談をお届けする。

起業は苦闘。我々にはセオリーがない

藤本:まずはVoicy(ボイシー)がどんなサービスなのか、教えていただけますか?

Voicy 代表取締役 緒方憲太郎
Voicy 代表取締役 緒方憲太郎
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緒方:個人が一人一人チャンネルを持って音声コンテンツを届けるサービスです。よく「YouTubeの音声版」と言っています。また、Twitterが140文字制限なのと同じようにVoicyは10分という尺(=時間の長さ)の制限の中でしか発信できません。10分の尺内で声を入れたらそのままバックノイズを消してBGMをつけて人に届けられる。この仕様のシンプルさは他にありません。ボタンを押してしゃべるだけでいいんです。Voicyは「声のブログ」とも呼ばれています。

藤本:10分って絶妙ですよね。アナウンサーが読む原稿で一番短いニュースが15秒くらいなのですが、めざましテレビで放送している企画コーナーはCMも入れて大体10分なんです。人が耳を傾けられるちょうどいい時間なのかもしれません。

緒方:尺については最適なものを追求してきましたからね。苦労しました。

藤本:当初はどんな方が発信されていたのでしょうか。

緒方:じつは、はじめは発信してくれる人が全然いなかったんですよ(笑)。サービスができたばかりの頃は「発信するのは芸人やアナウンサー等でしょう」みたいな常識があったんですね。

もともとVoicyは、そういったプロの専売特許みたいになっている声のコンテンツの大衆化を目指しました。たとえば「書く」という作業もかつては新聞記者などのプロの書き手だけが主に書いていた。「動画制作」もカメラマンとかそういう人たちが撮っていた。

でも時代が進んで、「書く」も「動画制作」もみんなができるようになり、配信まで個々人が可能になった。これを大衆化と呼びますが、「声」ってまだ大衆化ができていなかったんです。こんなにもみんな毎日しゃべりまくっているのに。

だから、音声プラットフォームをつくればアウトプットする人のバリエーションが増えるのではという仮説でVoicyを始めたんですが、まあ誰もしゃべらんっていう(笑)

藤本:そこから、どうやってユーザーを拡大していったんですか?

藤本万梨乃(フジテレビアナウンサー)
藤本万梨乃(フジテレビアナウンサー)

緒方:最初はやはりアナウンサーなどのプロにしゃべってもらっていました。ただし、そのうちにおもしろいVoicyの使い方をする人が出てきたんです。「今日の自分の話」を普通にしたり、「僕のポケモンGOの進捗はこうです」といった報告をはじめたり。すると、そっちの方が人気が出て。

それって内容的にはブログっぽいじゃないですか。だから、途中からサービスを「声のブログ」と呼ぶようにしました。しかも、声を発信するのってしゃべるだけなので、書く作業より断然手間がかかりません。すると、それに気づいたブロガーさんたちがVoicyに参入するようになったんですね。

以降は、タレントさんや芸人さんから、子育て中のママさん、ビジネスパーソンという風にユーザー層がバラエティーに富んでいきました。

藤本:やはり、一筋縄ではいかなかった。

緒方:悪戦苦闘しましたよ。僕はスタートアップには2種類あると思っています。一つが課題解決型。社会に課題があって、それを解決する企業です。もう一つが価値創造型。ゼロからイチで新しいものを生む企業ですね。

Voicyは、もともとのニーズが見えなかったこともあって、基本的に価値創造型だと思うんですけど、これが資金を集められなくて。投資家にプレゼンをしても、「誰のどんな課題を解決するんですか?」って突っ込まれて、結局「いや、そういう会社には投資できないです」みたいな話になるんです。つらかった。

藤本:価値創造型スタートアップの独自の苦労があるのですね…。

緒方:価値創造型って、セオリーがないんですよ。そこが難しいです。端的に言うと、新しい文化をつくるしかない。

スマホの次が来たら、飛び込もうと思っていた

藤本:先ほど、Voicyをつくろうと思った理由について少し語っていただきましたが、改めて起業の発端について教えてください。

音声プラットフォームVoicy
音声プラットフォームVoicy

緒方:もともと「スマートフォンの次の時代があったら(そこに)飛び込みたい」って思っていました。

藤本:スマートフォンの次の時代!

緒方:ちょっと大きな話になりますが、人と人が情報交換するときって、大昔は対面でしゃべるしかなかったじゃないですか。それが、文字が誕生して時と場所を越えられるようになった。そこに活版印刷ができて、伝える量も伝えられる範囲も格段に増した。さらにテレビやラジオでそれが加速し、インターネットが登場すると検索で情報を自在に取りにいけるし、自身が発信者にもなれるようになったわけです。

藤本:情報革命が進んだ。

緒方:そうです。そしてスマートフォンが出てきた。目の前の端末でほんとうにいろいろなことができるようになった。現在はそこまで来ています。これは情報をとりまく技術が便利になっていく延長上にすべてがあると思うのですが、「この延長って、現在がほんとうに最後なの?」って疑問も抱いているんです。

国民がこの10センチ四方くらいの箱をずっと持ち歩きながら情報収集をしている。で、首とかを痛めているわけです。情報技術の進化って、基本は「人が情報を得るために生活を犠牲にする度合いを下げる」という方向に動いています。であれば、じきにスマホについても「不便だよね」という時代が必ず来ます。

藤本:それこそ、情報のインフラを変えていきたいと。

緒方:はい。さらに、インターネットって誹謗中傷とかがめちゃくちゃ多くなっているじゃないですか。ネットが民主化されてみんながネットを使うようになったらそうなるのもあたり前なのですが、ネット上に安心・安全で守られる場所もつくりたいなって思っています。

藤本:と、言いますと?

緒方:ネットの発信者って大抵、プロか時間のある人だったんですよね。人生を豊かに生きている人は発信の必然を感じていなかった。で、プロがビジネス目的で発信しているコンテンツと、暇な人が暇つぶしで発信しているコンテンツだけに触れていると、人ってどんどん鈍(なま)っていくというか、ギスギスしてくるんです。

僕はその舞台に、バリバリの一般の営業マンとか、ワーキングママとか、そういう人たちも出てきてほしかった。じつは生活に密着していて魅力ある発信ができるのはそういう人たちなんです。で、彼らを参入させるためには、手間がかかってはいけないので、発信コストはめちゃくちゃ下げないといけない。Voicyが「シンプルに発信できる」に振り切っている理由はそこにあります。

藤本:その信念は、それこそVoicyのサービスやコンテンツに表れています。

緒方:「Voicyは人を届けるプラットフォーム」と言っていますが、発信コストを下げることで人生を豊かに多様に生きている「人」をみんなに知ってもらえる環境をつくりたい。次の時代、音声がインフラになって、生活しながら、何かをしながら情報を集めるのがあたり前になったときに、片手間でも魅力的な発信ができる人を増やしていきたいのです。

これが次の文化として社会に必要なんだろうなって思っています。ただ、はじめた当初はビジネスのことを考えられていなくて「人が喜ぶものなら、最終的にはお金になるはず」というノリでしたので、はじめてみたら全然投資家はつかないし、お金は入ってこないしで、何とかサービスをかたちにはしているものの、引き続き黒字化を目指しながら爆走しています(笑)。

Voicyのミッション

藤本:Voicyって、やりたいと思った人全員が発信できるわけではないですよね。

緒方:一カ月に大体600人の応募が来て、そのうち5%前後くらいの人にチャンネル開設のオファーを出しています。

藤本:選考基準は何でしょうか。

緒方:これ、ちょっとビックリされるんですけど、声の審査じゃないんですよね。

藤本:えっ。意外です。

緒方:だって、日本国民みんな日常からしゃべっていますけど、声が綺麗か汚いかで友だちを選んでいないじゃないですか。声質は何でもよくて、大事なのは「その人が声でGIVEをすると、何がどう変わるか」だと思うんです。ぼくたちはそこを見ている。

今までのネット発信者は、どこかで自分の発信を自分のメリットに変えようという「わたし基準」で発信している人が多かった。誰かにGIVEをしようって発想が弱かった。そんな人が増えたら、ウケ狙いのコンテンツばかりがあふれるし、それじゃあ長期的には聞く側は幸せになれない。だから、GIVEによって聞き手がハッピーになったり、聞き手の視野が開けたり、感性が磨かれそうだという方を選んでいます。

藤本:そんなVoicyが、行き着きたい所とは?

緒方:近い将来、日本にも、「えっ。おじちゃんたちの時代って画面がないと情報が得られなかったの?」「それでどうやって生活してたの?」と驚かれる時代が来ると思います。それを見越して、ぼくたちは3段階で「すべきこと」を考えています。

まず最初に、声で発信する人たちがより活躍できる世界をつくる。そして次に、いままでになかったコンテンツが世の中にあふれるようにしたい。「人の耳を豊かにするプラットフォーム」ですよね。「一日いろいろ聞いていたら、幸せだね」となる状況です。そして最後は、やはり文化の話。「何かをしながら聞ける」「耳で情報を得るのがふつうだよね」というところまでもっていきたいです。まだやりたいことの5%もできていないんですよ。

藤本:最後に御社のミッションについて教えてください。

緒方:うちのミッションは「音声×テクノロジーでワクワクする社会をつくる」です。ぼくたちには、「われわれは社会づくりをする会社だ」っていうのがまずある。しかもそれは課題解決型ではなくて、難易度は高いけど、世の中にワクワクが増えるものをゼロイチでつくろうという考えに基づいています。その上で、ミッションに「×テクノロジー」ってありますけど、「音声」と「テクノロジー」それぞれを極めるぞという意志も持っています。音声にはおもしろさや深みがあって、それがまだまだ認知されていない。それを引き出して広めたいですし、テクノロジーも徹底的に磨き上げたいです。

藤本:また、御社は「音声で社会をリデザインする」というビジョンも掲げられています。

緒方:ぼくたちは自社のことをデザインする会社だと思っているんですよ。今までの社会は、それはそれで成り立っているんですけど、そこに音声が乗ることでもっと豊かな社会になるんじゃないかとぼくらは思っていて。

運動しながら音声が聞けるとか、たとえばプロ野球の試合会場に向かっている電車の中で選手の一言みたいなものを聞ける、みたいに、この社会にもう一段、音声というコーティングがなされると、もっといいデザインができると思うんです。そうやってどんどん声が付加されることで、みんなのワクワク度合いが増えたらいいなって思っていますね。

<インタビューを動画で見る>

『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)緒方憲太郎
『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)緒方憲太郎

制作:プライムオンライン編集部