人工の流れ星を降らせる。世界初となるエンターテインメント事業の実現に取り組む株式会社ALE。代表の岡島礼奈さんは研究者から金融業界を経て宇宙ビジネスの領域で起業した。

「人工で流れ星を降らせること自体は簡単」なはずだったが、実際には様々な困難に直面する。最も大きかったのは「組織作り」。ALEは企業のミッションを言語化する過程を経て、その困難を乗り越えていった。

特集「スタートアップリポート」2022年末特大号として実施した、フジテレビアナウンサー奥寺健との対談をお届けする。

流れ星を自分たちで流せたら絶対におもしろい!

奥寺:株式会社ALE(エール)は「人工の流れ星」をつくるという世界初の事業を展開されています。岡島さんは大学で天文学を学ばれたそうですね。

株式会社ALE 代表取締役CEO 岡島 礼奈(おかじま れな)
株式会社ALE 代表取締役CEO 岡島 礼奈(おかじま れな)
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岡島:私は星がとてもキレイな鳥取県で育ちましたが、天文学を志す転機が中学生のときにありました。『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』という本に出会って、それがすごく面白かったのです。宇宙がビッグバンで始まったとか、膨張しているとか、想像を超える世界に魅了されました。

それからというもの、星空を見ても「素敵だな」というより、「ブラックホールはどこかな」と見るようになって(笑)、大学では天文学を専攻しました。ただ、そこで先生たちの話を聞いていると、どうも天文学は巨額の予算を取ってこないと研究ができないとわかってきます。「基礎研究」の重要性を国になかなか伝えられず、予算がつきにくくて困っている先生がたくさんいたのです。

それを知ってから私は、別の道で、たとえば資金を得る流れを作ることで基礎科学の発展に貢献できないかと考えるようになりました。

奥寺:その後、岡島さんは国際金融の道に進まれます。

奥寺 健(フジテレビアナウンサー)
奥寺 健(フジテレビアナウンサー)

岡島:資本主義のど真ん中で資本主義を理解することで、資金調達やその仕組みづくりができるかもと思ったからです。ただ、金融業界に入ったその年が2008年で、リーマンショックが起きてしまいます。その影響で、自分が所属した部署も縮小。最終的に2011年にALEを立ち上げることになりました。

奥寺:それで、「人工流れ星」をつくることになるわけですが、大学でも流れ星を研究されていたのですか。

岡島:いえ、それが違うと言いますか(笑)。天文学は太陽系の外を見る研究がほとんどです。他方の流れ星は、それに比べれば地球近辺の、ほとんど地表にかかわる事柄というか、流れ星のもとが大気圏に入ってきて光るという話なので、宇宙というより地球の話なんですよね。

奥寺:そうか、流れ星は地上から見れば遠いけれど、宇宙全体からすれば地球の表面すれすれの話になる。でも、流れ星とビジネスって、簡単には結びつかないのですが…。

岡島:じつは私も、当初はビジネスとして考えていませんでした。「流れ星を流したら絶対おもしろいから、とりあえずやってみよう」というくらいの気持ちでスタートしたのです。ビジネスについては、自分は得意ではないとわかっていたので、時期が来たらビジネスが得意な人を見つければ何とかなると思って始めました。すると、「おもしろいことがしたい」という人が意外にも集まってくれて。

  

人工流れ星を降らすエンターテインメント事業「SKY CANVAS」

弊社の事業には好奇心をくすぐるという側面もありますし、そもそも宇宙系のビジネスは言語のバリアも国境の壁もないので、いきなり世界に出られるという側面もあります。そこに魅力を感じた人がジョインしてくれました。

奥寺:ALEのビジネスモデルという話でいえば、「観光」がポイントになると聞きました。

岡島:たとえば、オーロラを見たいとなれば、北極圏などにみんな旅行に行きますよね。同じように、観光で人を誘致したい国々に弊社の流れ星を提供して、そこに人が集まるようにできれば、経済効果が生まれます。そこをポジティブに捉えてくださる国内外の観光系、政府系の方々がたくさんいます。この周辺には、ビジネスのチャンスがあると思っています。

「人工流れ星」で生命の起源がわかるかも?

奥寺:先ほど流れ星は地表すれすれの話だということに触れましたが、流れ星のもとを放って、それが確認できる地上の範囲はどれくらいですか。

岡島:直径200キロです。

奥寺:すると、関東地方の大部分くらい?

岡島:東京を中心にしたら、房総半島ぜんぶが入るイメージですし、富士山や宇都宮あたりまでカバーされます。その範囲内にいれば、人工流れ星は見えるはずです。

奥寺:そこに投資をしてくれる方もいらっしゃるわけですね。金額感がなかなか想像できずにいるのですが…。

岡島:金額は公表できないのですが、「思ったより高くないね」とおっしゃってくださる方もけっこういます。コストとしてかかるのは、人工衛星をつくって、流れ星のもととともにロケットに積んで宇宙から撒くこともそうですが、一番は「打ち上げ費用」です。

2011年の創業時は、宇宙のことを民間企業がやるという気運があまりなかったのです。でも、いまは宇宙スタートアップというジャンルもできて、宇宙に特化したファンドも出てきました。

奥寺:まさに、気運が高まってきたと。ところで、岡島さんがもともとビジネスの世界に入った目的は基礎研究を支援することにありましたよね。流れ星を流すこと自体が目的そのものではないと思うのですが、いかがですか。

岡島:目的にはエンターテインメントの側面もありますし、もちろん科学研究を支える側面もあります。私たちの取り組みは、流れ星や隕石を研究している世界中の人たちから関心を寄せていただいています。じつはそれらの研究は答え合わせが難しいのです。たとえば、天然の流れ星が流れたとします。その流れ星の「もと」にこんな物質が含まれていそうだということはある程度推測できるのですが、大気圏で燃えてしまう「もと」はキャッチできないので、実際の成分を確認することは不可能です。

実現すれば世界初となる人工流れ星エンターテインメント
実現すれば世界初となる人工流れ星エンターテインメント

しかし、私たちの人工流れ星は「これこれの成分を『もと』にして空に流そう」と決めることができます。もし、その「もと」を流れ星にすることができれば、その様子を観測したデータと成分とを照らし合わせた「基準」「ものさし」をつくれます。この成分の流れ星は、こういう光り方をする、みたいなイメージの対照表ができる。すると、天然の流れ星の「もと」についても、その基準を参照することで、どんな物質が含まれているかを観測データから特定できるようになります。

奥寺:おもしろいです。ちなみに、それがわかるとどんな発見につながりそうでしょうか。

岡島:流れ星のもとは、彗星由来のものや、小惑星帯と呼ばれるところに由来するものなどがあります。流れ星のもとの成分がわかれば、小惑星帯にどんな物質が多いかが判明します。じつは、小惑星帯は太陽系の成り立ちを明らかにする可能性を秘めていると言われているので、そこを研究していけば、太陽系の起源についても何かわかるかもしれません。あと、私が個人的に興味を持っているのが「パンスペルミア説」です。

奥寺:パンスペルミア?

岡島:地球の生命の起源にかかわる話で、生命は「地球上でできた」というよりも「宇宙空間からやって来た」とする説です。実際に、隕石などから(生命のもととなる)アミノ酸が発見されているのですが、仮にALEがタンパク質を流れ星として流して、そのデータを「ものさし」化することができれば、天然の流れ星の観測データから、「どれくらいのタンパク質が宇宙から来ているか」を推計することもできるようになるかもしれません。

奥寺:夢のある話です。しかし、尺度をつくるとなると、相当に困難だと想像してしまいます。

岡島:ほんとうは人工流れ星は2020年には流れている予定でした。ですが、人工衛星に一カ所、動作不良が見つかって、流せなくなってしまったのです。おっしゃるとおり、難しい仕事ですよね。

イーロン・マスク氏が先日ある会見で「月に行くというアイデアを考えつくのは簡単だけど、実際に行くのはめちゃくちゃ大変だ」と話していたのですが、この感覚、すごくわかります。私ってもともと、流れ星を流すことは「簡単だ」と思っていたのです。人工衛星から流れ星のもとを放出して大気圏に突入させればいい、ただそれだけだよねって。ところが実際にやるとなるとほんとうに大変で…。

組織作りの困難に直面し、ミッションを言語化

奥寺:どんなところに大変さを感じますか。

岡島:話が“宇宙”なので、関係者がたくさん出てきます。NASAや日本のJAXA(=宇宙航空研究開発機構)もそうですし、宇宙に関わるアメリカの力ある人とか、宇宙ゴミに関心のある研究者の方々とか…。技術的なところにももちろん困難はあるのですが、そういった方々の納得を得ていく作業も難しいです。

加えて、私の場合、組織づくりにも困難を抱えました。みんな「おもしろそう」と思って参画してくれるのですが、科学とビジネスの関係に誤解も生じていて。私がそれをうまく言語化できなかったのです。結果、チームビルディングに行き詰まってしまいます。15人くらいの組織だったころに、ビジネスチームのメンバーがごっそり居なくなるという一大事も経験しました。

奥寺:その時はすごく大変だったろうと想像します。その状況をどう切り抜けたのですか。

岡島:まさに、ビジョンやミッションを言語化しました。残ったメンバーで話し合い、また、メンバー全員にインタビューをして、「なぜALEにジョインしたのか」「どんなことがやりたいか」等をすべて聞いて、会社のエッセンスを抽出しました。そして言葉にまとめていったのです。

奥寺:そうしてできたのが、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションですね。

ALEのミッション
ALEのミッション

岡島:それを、みんなが意識していけるように、行動指針にまで落とし込んで、ミッションで組織が動くように変えていきました。

奥寺:そのミッションですけれど、「科学を社会につなぎ」は何となくイメージできます。「宇宙を文化圏にする」はどういった意味になりますか?

岡島:宇宙空間って文化的なものがあまりないんですよね。「宇宙を経済圏にする、生存圏にする」という話はしばしばなされますが、人は「生活に必要な最低限のものさえあればいい」というものでもなくて。たとえば宇宙船のなかって、すごく無機質ですよね。そこに木のイスとか欲しいじゃないですか。住み心地とか、そういうものも包含した営みを宇宙空間でもできるような未来にしたい。そんな思いをミッションに込めました。

奥寺:ただ「生き延びる」空間にするのではなく、「人間らしく生きられる」空間にしていく。大事な視点ですね。

岡島:最終的には宇宙系のビジネスも、人類がちゃんと存続できて、地球を住みやすい環境にし続けられるというところに結びつけたいと思っています。そこを基礎科学でカバーしたい。そのために、やはり基礎研究にお金が流れるようにしたいです。

奥寺:最後にまとめますと、岡島さんが「こうなったら良いのに」と思っていることは何になりますか?

岡島:数百年単位でいえば、やはり人類と地球がサステナブルな状態になっていくことです。あとは重力をコントロールできるようになったら世界が楽しくなりそうだと思っています。

奥寺:重力を?

岡島:重力が何なのか、じつは現在もほとんどわかっていません。もし重力がコントロールできるようになったら、宇宙にも自由に行けるようになります。上下の移動がめちゃくちゃ楽になり、土地や住居の概念も変わる。何かの発見があれば、そういう可能性が出てきます。そこで、やはり基礎研究が大事になってくるわけです。と言いつつ重力に関しては、1000年後も何も変わっていないかもしれませんが(笑)。

<インタビューを動画で見る>

制作:プライムオンライン編集部

奥寺 健
奥寺 健

舞台⇒音楽⇒物理⇒音声⇒アナウンサー こんな志向の中で生きてきました。 スポーツは自然科学と地域文化、報道は社会への還元と考えています。 そして人が好きです。
北海道大学と電気通信大学大学院を経て93年フジテレビ入社 「めざましテレビ」スポーツコーナー、 五輪取材団6回(アトランタ、長野、シドニー、ソルトレイクシティ、アテネ、トリノ) 現在Live News Days、 Live News it、スピードスケート取材・実況(97年~)等担当