世界41の国と地域から300社以上のスタートアップ企業が集結した「City-Tech.Tokyo(シティテック東京)」。世界一のスタートアップ都市を目指す東京都が初めて主催した大規模なテックカンファレンスで、約1万人が来場。(2023年2月27日、28日/東京国際フォーラム)

世界中の都市が抱える課題の解決に対して、東京はそのお手本になれるのでしょうか? イノベーションの息吹と起業家の熱気であふれる会場の様子を、フジテレビアナウンサー遠藤玲子がリポートします。

AIは幼なじみに 株式会社I'mbesideyou

I'mbesideyouはオンライン会議の映像・音声などをAIで解析する事で、組織のチーム力を高めてくれるマネジメント支援ツール。

早速サービスを試してみます。

遠藤「画面に映った顔で私の心も読み取れるのですか? ちょっと怖いですが…」

I'mbesideyou サービス画面
I'mbesideyou サービス画面
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遠藤「『恐怖』って表示されました(笑)」

神谷渉三さん(I'mbesideyou代表)「どんな表情、声色、ジェスチャーをしているか。そういったデータを処理して、その人が心理的安全性のある状態にいるのか、メンタルの調子はどうかを見守るサービスを提供してます」

株式会社I'mbesideyou 代表取締役 神谷渉三(かみや しょうぞう)
株式会社I'mbesideyou 代表取締役 神谷渉三(かみや しょうぞう)

データは本人の了承を得た上で職場のメンバーと共有できます。その人が活き活きと働けているかを客観的に可視化することで、上司と部下、または同僚の間で心配りや声かけをするきっかけとなるそうです。

神谷「弱っている時って、なかなか自分からは言い出せないですよね。そんな時にあらかじめ信頼のおける人とデータを共有しておく事で、最近調子どう?と言った声かけをしてもらえるようになります。親が子供を見守るのと同じ感覚です」

遠藤「まさにI'm beside youなのですね」

神谷「一人一人に幼なじみのようなAIを提供したい。それが私たちのやりたいことです」

「後ろに誰かがいるみたい」空気圧マッスルスーツ 株式会社イノフィス

会場を歩いていると、見るからに珍しいスーツが置かれてるのを発見。出展しているのは、株式会社イノフィス。

マッスルスーツを装着
マッスルスーツを装着

依田大さん(イノフィス執行役員)「こちらは、腰の負担などを軽減するアシストスーツです。重いものを持ち上げたり、中腰姿勢での作業に活用できます」

スーツといってもリュックサックのように着用します。電力は全く使わず、空気圧だけで動作。実際に着てみると…。

遠藤「あ、なんか変な感じ。一人じゃないみたい。後ろに誰かがいて、助けてもらっている感じがします」

どんなニーズがあるか尋ねてみると、例えばいちご農家など、中腰での作業が続く農作業に適しているそう。この製品はすでに家電量販店でも販売されています。

焼きおにぎりがウェットティッシュに 株式会社ファーメンステーション

続いて目にしたのは、ワイングラス。ワインの試飲?かと思いきや、中身はりんごのカスで作ったエタノールでした。

りんごのカスで作ったエタノールの香りを確認
りんごのカスで作ったエタノールの香りを確認

ここは株式会社ファーメンステーションのブース。同社は、調理時や流通時に食材から出る廃棄物を再利用するサービスを展開しています。エタノールは自動車の燃料にもなりますが、ここでは消毒用のウェットティシュが展示されていました。おもしろかったのは、焼きおにぎりから作られたウェットティッシュです。

ファーメンステーション展示ブース
ファーメンステーション展示ブース

酒井里奈さん(ファーメンステーション代表)「焼きおにぎりを作る時に規格外のご飯が出てしまうんです。それを商品にしました」

ウェットティッシュからは、もちろん焼きおにぎりの香りはしません。酒井さんはゴミゼロを目指して事業を立ち上げました。これまでであれば廃棄物に過ぎなかったさまざまな「カス」が、アップサイクル(=新たな価値を与え、別のものに生まれ変わること)されていきます。

酒井「当社のサービスならゴミゼロですし、むしろカスから機能のあるものを複数生み出せます。カスをエタノールにする際に、さらなるカス(カスのカス)が出るんですね。でも、それにも機能性がある。化粧品の原料にもなったりするんです。私は、『カスのカスはカスより良くなる』という事実をより広く認知させていくつもりです」

水道インフラ無しで水を循環 WOTA株式会社

次に立ち寄ったのはWOTA株式会社のブース。展示されている「水循環型手洗いスタンド」が目を引きます。

WOTA 展示ブース
WOTA 展示ブース

多田尚人さん(WOTA 営業担当部長)「こちらは水道管がつながっていなくても、その場で使った水をその場で浄化し、循環させて再び使うという仕組みを搭載した手洗いスタンドです。循環率は98%で、源水を入れていただければ500回以上の手洗いが可能です」

遠藤「石けんもついているのですね」

何とこのスタンド、石けんが混ざった水も綺麗にできるのだそう。水道管の有無に制約されずに(電源さえあれば)どこでも使えるため、すでに多くの場で利用されています。

水をその場で浄化し循環させる仕組み
水をその場で浄化し循環させる仕組み

多田「シャワー式の製品もあり、このたびのトルコ大地震では支援の現場で製品が活用されています」

なぜ、水の循環技術を用いたサービスを始めようと思ったのでしょうか。多田さんはこう語りました。

多田「2030年には世界人口の40%が水不足に陥るという予測もあります。従来の大規模集中型の水道インフラではどうしても対応し切れない部分がある。そこで、小規模分散型のインフラを作ろうと考えたんです」

手洗いスタンドの中身を見せてもらうと、かなり複雑そう。

多田「イメージでいうと、水処理場が10万分の1のサイズになってここに入っているようなものです。カートリッジの交換も、プリンターのように簡単にできます」

遠藤「各家庭にも広められるのでしょうか?」

多田「手洗い以外にも、シャワー、洗濯、トイレ、生活におけるすべての排水を循環型にするプロジェクトを進めています。それができれば、まさに水道管に制限されずに循環型での生活が可能になります」

調理のほぼすべてを自動化 TechMagic株式会社

続いて、TechMagic株式会社のブースを訪れました。同社は調理ロボットを提供しています。ロボットというと、一般的には単一の作業をしたり、既存のアームにプログラムを入れて場面に合わせて動作させる、といった働かせ方をするのが主流です。

しかし、同社の調理ロボット「P-Robo」は、たとえばパスタを作る際に、食材を入れたら完成までの一連の作業をすべて行ってくれます。しかも、1グラム単位で味の調整もしてくれるため、店舗ごとの味の均一さもたもたれます。1台のロボットで複数のメニューを調理することも可能です。

調理ロボット P-Robo 展示ブース
調理ロボット P-Robo 展示ブース

遠藤「調理を自動化することによって、どんなメリットがあるのでしょうか」

杉山紗友里さん(TechMagic株式会社)「厨房の人員が仮に3、4人だとしたら、それが1、2人でまかなえるようになります。採用コストや教育コストを抑えることができるのです」

盛り付け以外のすべての工程をロボットが行う
盛り付け以外のすべての工程をロボットが行う

一方で、盛り付けなどは人の手で行うようにしているとのこと。

杉山「盛り付けもロボットでできないことはないんです。でも、おいしそうに盛り付けたり、接客をしたりといったことは、引き続き人が行った方が良いと私たちは考えています。ロボットと人とで、仕事のすみ分けを行っています」

ロボットと人間が共存する未来について考えさせられます。

大手企業も出展「偶然の出会い」を創出

出展しているのは、スタートアップだけではありません。大企業もブースを構えていました。新たなスタートアップとの「偶然の出会い」から創造的な発想が生まれる。その信念のもとに、ひときわ目立つボックス型のブースを設置していたのは東京建物株式会社です。

和風テイストが目をひく東京建物の展示ブース
和風テイストが目をひく東京建物の展示ブース

渡部美和さん(東京建物株式会社 イノベーションシティ推進室課長代理)「八重洲、日本橋、京橋を合わせて『YNK(インク)』と呼ぶのですが、私たちはYNKを、大企業とスタートアップ、海外の方々が交わってイノベーションが起こる街にしたいと考えています。そのために、プロモーションをしているんです」

人との偶然の出会いがイノベーションの起点に
人との偶然の出会いがイノベーションの起点に

遠藤「(ブース出展をすることで)対面でのマッチングにこだわったのはなぜでしょう?」

渡部さん「私たちは、偶然知ってもらって、偶然出会うというところにイノベーションがあると思っているからです」

欧州のスタートアップ都市・ベルリン

海外からの出展も多数あります。欧州でスタートアップ都市として有名なベルリンの担当者に話を聞きました。

遠藤「特にどんな領域に注力していますか?」

Elvir Becirovicさん(ベルリン市)「たとえば、グリーンテック、モビリティ、エネルギー領域、AI、クリエイティブ産業全般、などです」

ベルリン市のスタートアップ推進担当
ベルリン市のスタートアップ推進担当

遠藤「実は私も以前ドイツに住んでいました。なぜ、たとえばミュンヘンだったり、他の都市ではなく、ベルリンでスタートアップが盛り上がっているのでしょう?」

Elvir Becirovic「ベルリンは、クリエイティブ・マインドを持った人たちにとって、魅力的な場所なのです。国際的で多様性に富んでいます。今回、代表団としてこのイベントに出展したスタートアップも、3分の2は異なる国の出身です」

スタートアップ推進を担当するElvir Becirovicさんは、ベルリンは日本企業にとっても住みやすく働きやすい場所であると言います。今年6月にはアジアのスタートアップ企業との交流を促進するイベント「Asia Berlin Summit 2023」が、ベルリンで開催されます。

シティテック東京 (東京国際フォーラム)
シティテック東京 (東京国際フォーラム)

筆者にとって初となるスタートアップイベントの取材。率直に、全てが新しく、知的好奇心が掻き立てられます。

外国の方はもちろん、人と会って話をするのも難しい時期が続いていました。しかし対面でのイベントが再開し、これだけの人で賑わって、お互いに刺激し合い、新しいアイデアが生まれていく。スタートアップの現場でまさにイノベーションが芽吹いていく様を、実感することができました。

遠藤玲子
遠藤玲子

フジテレビアナウンサー。2005年入社
学生時代を、ベネズエラ、アメリカで計9年過ごす。
入社後、『めざましテレビ』のスポーツキャスターなどスポーツを中心に担当。
第2子出産後、2017年からドイツで5年間過ごし、2022年に復職。
幼少期、思春期、子育て期を海外で過ごしました。
日本を離れたからこそ、気づくこと。
そんな“気づき”を大切にできればと思います。