転職サイトへの違和感をきっかけに生まれたキャリアSNS「YOUTRUST(ユートラスト)」。仕事仲間とのつながりを活かした、転職・副業など仕事にまつわる機会を広げるSNSを展開する。

代表の岩崎由夏さんが新卒でDeNAに入社した時、起業は選択肢になかったと言う。一生会社員として生きるつもりだった1人のビジネスパーソンが、起業家として生きる道を選んだのはなぜだろうか。特集「スタートアップリポート」2022年末特大号として実施した、フジテレビアナウンサー生田竜聖との対談をお届けする。

求職者がフェアに転職できる環境を

生田:まずは起業を決めたきっかけについて教えてください。

ユートラスト代表取締役CEO 岩崎 由夏
ユートラスト代表取締役CEO 岩崎 由夏
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岩崎:私はDeNAに新卒で入り人事に配属となったのですが、そこで転職市場のあり方に違和感を抱いたんです。それを先輩に伝えたら「そういう時こそ、起業ってするものだよ」と言われて。起業が選択肢に入ったのはその瞬間でした。それまでは一生会社員として生きていこうと思っていましたから。もちろんすぐに「じゃあ、起業!」とはならず、3カ月くらい悩んだ末に起業しました。

生田:その3カ月間はどんな準備をされたのですか?

岩崎:プログラミングを勉強したり、資金を貯めるためにフリーランスで知人の会社を手伝ったりしました。もう、その頃はまったくの無知で、「株式会社」が何なのかも知らなかったくらいで(笑)。恥ずかしい知識量でしたから、相当勇気の要る決断でした。

生田:サービスのアイデアはどこから生まれたのですか?

岩崎:さきほど述べた「違和感」です。DeNAでは人事、つまり採用する側として転職市場に関わっていましたが、ある時、自分が転職活動をする側になりました。そうしたら、自分が採用担当として抱いていた違和感と似たものを、反対側の求職者サイドからも体験して。両サイドから見て「この業界はもったいないな」と思い、それが爆発して起業した感じかもしれません。

生田:違和感というのは、具体的には?

生田竜聖(フジテレビアナウンサー)
生田竜聖(フジテレビアナウンサー)

岩崎:転職市場は基本的に、求職者の採用が決まった時、年収の何パーセントかがフィーとして人材紹介会社に行く仕組みになっています。この構造によって何が起きるかというと、「ウチは何パーセント出すよ」といった企業同士の競りのような状態が発生します。

人材紹介会社からすれば、当然、高い紹介料を払ってくれる企業に求職者を誘導したくなりますよね。こうして求職者のあずかり知らぬところで、その人のキャリアが左右されていくのを目のあたりにした時に、「これって、誰のための転職なんだろう」と思って…。

生田:求職者の転職先が、フィーによって決まる部分があると。

岩崎:人の人生、キャリアを本人の知らないところで誘導していいのかなって思いますよね。だから、求職者がフェアに選択肢を並べて、その人の意思で転職先やキャリアを選べるような世界をどうしたらつくれるだろうと考え始めたのが最初です。

ゆるいつながりがキャリアを助ける

YOUTRUSTサービスイメージ
YOUTRUSTサービスイメージ

生田:御社の企業名は「YOUTRUST」ですが、「TRUST(=信頼)」という言葉を使ったのはなぜでしょうか。

岩崎:転職市場って“紙主義”なところがあるんです。職務経歴書や履歴書中心というか。でも、その人の内面は紙ではわかりません。学歴や職歴はわかっても、じゃあその人は明るい人なのか、慎重な人なのか、チームの一員になったらどうなるのかということは見えない。

でも、実際の会社の選考で大事なのってそういう性格的なものだったりするじゃないですか。で、それを知っているのって大抵は友人だったり元同僚だったりするので、そのつながり、信頼関係を基礎にしたサービスをつくりたいなと思い「TRUST」を入れました。

生田:YOUTRUSTならではの特徴を教えて頂けますか?

岩崎:YOUTRUSTは「キャリアのSNS」です。普通の転職サイトであれば、履歴書などを登録したらスカウトが来て、という感じだと思うのですが、YOUTRUSTの場合はFacebookみたいに友人や元同僚とつながって、お互いが近況報告をしたりコメントをし合うんですね。そこで転職・副業の情報交換をする。それこそ「岩崎さん、転職するの?うちの会社でちょっとお手伝いしてみない?」みたいな熱のこもったメッセージが届いて、そこから実際に転職が実現したりするんです。

SNSであることの良さは、いますぐ転職したいという人でなくても、「つながっておけば、いつかはわが身を助ける」という感じでゆるい関係性を築けることです。これはあるあるですが、求職者には「今は転職できないけど、何かいい話があれば聞かせて欲しい」といったゆるいつながりが必要な時もあります。それができるYOUTRUSTは、中長期的にキャリアと向き合えるプラットフォームです。

生田:素敵なコンセプトです。

岩崎:でも、その趣旨は、どこまで行っても転職市場に抱いた違和感をぬぐっていくことでした。多くのサービスは、求職者よりも、仲介企業や採用企業の方を向いています。でも、本来は求職者の方を向くべきです。求職者のキャリアであり、人生ですから、やっぱり彼らのものとして扱わないといけない。

人生の選択はしんどそうな方向へ

生田:今でこそサービスもそこまで明確になりましたが、もともとは起業すら考えていなかった。ご自身は人生の選択で何を大事にされているのでしょうか。

岩崎:しんどそうだなって思う方向に行くようにしています。

生田:えっ。しんどそうって…なぜ?

岩崎:私って、もともとすっごく怠惰な人間なんです。何もないと、それこそ「ずっと家にいます」ってなるような(笑)。でも、そうしていくと自分のことが嫌いになっていってしまうんです。自分のことは好きでいたい。だから、自分を追い込んで怠惰から離れざるを得なくしてきました。

就職活動時もそう考えていて、そんなときに偶然、DeNA創業者の南場智子さんの講演を聴く機会に恵まれて。そこで南場さんが「うちの会社は120パーセント頑張って成功できる確率が50%の難しい仕事しかありません」と言うのです。「おお、これはしんどいし、だからこそ面白そうだ」と思い、DeNAに進むことを決めました(笑)。

生田:会社の立ち上げからこれまでで「あの時は、しんどかったな」と感じたことってありますか。

岩崎:もう、いっぱいあるんですけど(笑)、個人的な話でもいいですか。じつは、メンバーも増えて、まさに「これから」というときに流産を経験したんです。しかも流産が発覚したその日にはイベント登壇があった。スタートアップに進む若手の門出を祝うあいさつをさせていただいたんです。

笑顔で話をしなければならなくて、これはしんどかったですね。しんどそうな表情がわからないように、口紅を真っ赤に引いて、目が赤いのもうまくごまかして、何とか乗り切りました。でも、一方で不思議な感覚にもなりました。逆に、仕事がなかったら流産の悲しみに打ちひしがれていたかもしれない、じつは仕事のおかげで精神が保てているんじゃないかって。

生田:仕事があるから何とか耐えられた。

岩崎:仕事に助けられたって感じです。社長って、自分の後ろで支えてくれる人は基本いないじゃないですか。だから最後は「自分が何とかしなきゃ」ってなる。その責任がある感じが私には性に合っていて、その責任感ゆえに私は元気でいられたのかもしれません。

幸せを感じる「進捗感」

生田:経営をしていくなかで、たとえば、ほかのスタッフが「こうじゃないですか」と言ってくることを聞き入れて採用することもあれば、CEOの岩崎さんの決断で物事を進めることもあると思うんです。その際に、これだけは譲れないという判断の基準はありますか?

岩崎:そこには、「戦略」と「哲学」があるかなと思っています。哲学については(仲介企業でも採用企業でもなく、求職者の方を向いてキャリア形成支援をする等)先ほど語りましたが、そこは譲りません。この会社は別に儲けたくてつくった会社じゃないんです。と、言うと株主の方々に怒られるかもですが、少なくとも儲けが最優先になることは、私が社長をしているうちは絶対にない。私には、そんな風に「譲れない哲学」がいくつかあるんですけど、一方で「戦略」はいくらでも変えます。

生田:哲学や理念的なことを想起させるような、好きな言葉ってありますか?

岩崎:最近大切にしているのは「GIVE」です。「GIVE&TAKE」の「GIVE」です。私は、他人にGIVEした人が最後は勝つって信じています。それこそ弊社のバリューに「GIVE FIRST(大切な人に自ら与える。)」とあるのですが、「貰ったからあげる」とか「欲しいからあげる」といったことではなくて、とにかく先にGIVEしていこうよって。それで(見返りが)返ってきてもこなくてもよくて、とにかくGIVEをする。そういう組織にすることを大事にしています。

生田:GIVEに行き着いたのは経営をしていく中で、ですか。

岩崎:少なくとも、短いながらも私の半生で「そうかな」って思うようになりました。人は心の生き物なので、「あの人いいな」「あの人は好きだな」っていう感覚がモチベーションになると思うんです。そのきっかけがGIVEになります。で、もし私のことを愛してくれる人が世の中にたくさんいるなら、そのうち一人は、うちの会社がピンチになったときに助けてくれるかもしれない。そのことが、私だけじゃなくメンバーを救うことにもつながる。こう言うと戦略的に聞こえるかもですけど…。

生田:岩崎さんのまわりにはきっと素敵な人がたくさんいるんだろうなあって思います。ちなみに、経営者として人を雇うときにはどこを見て決めていますか。

岩崎:最近は「ほんとうに愛せるかどうか」を見ています。私たちの行動指針の中に「ART OF LOVING(努めて仲間を愛す。)」というものもあるのですが、その人を愛せるかどうかを自身に問うています。人を愛するのって難しいことなんですよね。人間、嫌いな人もいれば、近づきたくない人もいる。そういう人すら愛することができるとしたら、それって器だと思うんですけど、少なくとも愛することに「努め」なければならない。そのようにして愛することができる人と仕事ができたら、会社に行くのも苦じゃなくなるし、仕事の成果にもつながるはずです。負けられない局面でも、みんなで支え合い、踏ん張れるようになる。

生田:最後に、これからの長期的なビジョンについてお伺いしたいです。

YOUTRUSTのビジョン
YOUTRUSTのビジョン

岩崎:YOUTRUSTは「日本のモメンタムを上げる偉大な会社を創る」をビジョンに掲げています。私たちの世代って、ずっとずっと、「日本はダメだ」みたいなことを聞いてきた世代なんです。何かそれって悔しいじゃないですか。私には、日本は素敵な場所に見える。GDPだって世界3位です。そんなに悲観する必要もないと思うんです。

生田:確かに。

岩崎:とはいえ、いまの日本には足りないものもあって。わたし的には、それは「進捗感」だろうなって感じています。ビジョンに入っている「モメンタム」は、「勢い」と訳されることが一般的なのですが、私たちは進捗感や未来への期待のことを「モメンタム」と呼んでいます。今よりこれからの時間が、そして今日より明日が「素敵だ」って、「進んでいる」って感じられる。それって人間の幸せの要件だと私は考えていて。その進捗感を資本主義の市場のなかで感じていけるような状況が生まれるとしたら、そのときって、「偉大な会社」が出てきて経済を牽引している場面だと思うんです。

戦後だったら、トヨタとかSONYなど。いまのアメリカでいえばGAFA等ですよね。そういう企業が出てきたら、「自分たちは、やれる!」と思えるし、幸せな人も増えると私は信じています。自分たちが、まずそういう偉大な会社になっていきたいです。また、私たちは転職市場で人材の流動性を担保する事業をしているので、それによって私たち以外の偉大な会社が誕生することにも貢献したいです。

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制作:プライムオンライン編集部

生田竜聖
生田竜聖

フジテレビアナウンサー。
北海道生まれ。2011年フジテレビ入社。『めざましテレビ』『めざましどようび』メインキャスター。
趣味は音楽鑑賞、音楽フェス・ライブ参戦。