政治家や行政機関に直接意見を届けられるサービスを運営する「株式会社PoliPoli」。代表の伊藤和真さんは大物の先輩経営者たちに「絶対無理だよ」と言われる中で起業した。「自分がやりたいんだから、やろうか、くらいでしたよ」と当時の想いをけれんみなく口にする。

ファンドから資金調達も行い、上場を目指す。人々の幸せな暮らしに貢献するインフラ構築という事業に全力で挑む20代。その信念の源はどこにあるのだろうか? 特集「スタートアップ・リポート」年末特大号として実施した、フジテレビアナウンサー佐々木恭子との対談をお届けしたい。

レジェンド経営者から「絶対無理だよ」

株式会社PoliPoli 代表取締役 CEO 伊藤和真(いとうかずま)
株式会社PoliPoli 代表取締役 CEO 伊藤和真(いとうかずま)
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佐々木:PoliPoliを起業したのは大学2年生の時だったそうですね。一番最初に立ち上げたのはどんなサービスだったのですか?

伊藤:じつはPoliPoliを始める前に「俳句てふてふ」というアプリを作りました。俳句がすごく好きで。当時18歳だったのですが…。俳句をやっている18歳ってあまりいなくて、そういう人同士がつながる「俳句版Twitterがあったらな」と思い、自分でプログラムを勉強してリリースしました。バッと人気が出て、いろんな人が使ってくれた。そのときに、インターネットでコミュニケーションをする良さを感じました。

佐々木:いまの話だけで情報がたくさん入っていますが(笑)、ネットをどう使いこなすかというよりも、サービスをつくって、そこに人を集めたという原体験があったんですね。

伊藤:ゼロからイチを作る面白さと「もしかしたら自身が提供するもので人を幸せにできるかも」という可能性を感じました。

佐々木:それが「俳句てふてふ」の時代。そこからPoliPoliに移りますよね。政治にかかわるサービスですが、何があったのですか?

伊藤:もともと政治には興味がなくて…。中高時代もブレイクダンスばかりやっていて、政治のことは全く分からず、むしろ「怖い」くらいの感覚でいました。ところがある日、大学の近くで街頭演説に遭遇したんです。その際に「街頭演説って効率が悪いのでは」「Twitterなどを使えば良いのに」って思って(笑)、議員さんに「なぜ街頭演説をやるのですか?」と直に聞きました。

佐々木:聞いちゃったんですか。

伊藤:はい、質問しました。その議員さんからは、「有権者はTwitterなどをあまり見に来ないので、路上に出て認知してもらうんです」といった話が聞けましたね。街頭演説の合理的な面も知ることができた。そこから少し政治に興味が湧いて、「政治や行政って何をしてるんだろう?」といろいろ調べるようになり…。

それこそ国家予算をつくる営みは、社会の基盤をつくることに通じると思うんです。そんな政治に対して「怖い」で終っていたらもったない。そこで友達と一緒に政治にアクセスできるアプリをつくり始めました。最初は趣味程度で、こんなに本気でやるとは思っていなかったのですが。そして、それが会社になったという感じです。

佐々木:気軽な感覚で始めて、それが大きくなっていった。

佐々木恭子(フジテレビアナウンサー)
佐々木恭子(フジテレビアナウンサー)

伊藤:なめらかに、気づいたらこうなっていたという。世の中に対する怒りとかフラストレーションといった強い動機はありませんでした。

佐々木:でも、政治をテーマに起業をした。まわりはどんな反応でしたか。

伊藤:「絶対無理だよ」って言われました。それこそ大物経営者、レジェンドみたいな方たちのほとんどから「無理」って言われて。「いろいろリスキーだし、厳しいんじゃないか?」みたいな話ですよね。

佐々木:そう言われてどう思いました?

伊藤:「自分がやりたいんだから、やろうか」くらいですかね。むしろ私は、起業をする人は「無理だよ」って言われるくらいじゃないとダメだと思っているんです。反対を押し切って起業を選択する、そんな覚悟が力になります。

政治での成功体験をつくる

佐々木:PoliPoliのサービスについて、「いま初めて知るよ」という人にもわかるように説明するとしたら、どんな風になりますか?

伊藤:政治家や行政機関に直接意見を届けられるサービスという言い方をよくしています。

PoliPoli サービス画面
PoliPoli サービス画面

佐々木:自分が意見することで、生活を少し変えられる、それを実感できるサービスですね。

伊藤:おっしゃるとおりです。事例をあげるとすると…1つ目は、社会でかなり話題になった「生理の貧困」。これはPoliPoliのユーザーさんからたくさん声があがって、それまでまったく政治に取り上げられていなかった状況から、政策的に取り組んでもらえるまでになりました。実際に数十億円単位で予算もついた。メディアにも報道されて、ムーブメントになりました。

2つ目の事例は、ネットショップをつくるときに住所を公開するルールを「非公開でも良い」と変えられたことです。住所を公開すると、個人事業主なら「ストーカーの危険がある」といったデメリットが発生しますよね。ほかにも課題がけっこうあって、それを企業や団体、個人が声としてあげたら、行政に伝わって、ルールも変わったんです。

佐々木:そういうことがすでに現実に起こっている。

伊藤:実際に現実が変わるとうれしいですよね。世間では「若い世代が政治に関心を持たない」と言われます。ぼくはそれを「政治での成功体験がない」と言い換えています。

選挙や政治にかかわって何かが変わったという体験がない。だから、政治にも関心が持てない。とはいえ「投票に行け」と呼びかけてもなかなか状況は変わらない。

それなら「政策を生み出し、変える」という政治での成功体験をつくっていこうと。で、現実が変わる喜びをみんなで実感していく。それがPoliPoliのやりたいことです。

佐々木:それって、テレビに出ている私の身からしても、(投票権は)あなたが持っている権利なんだから「行くべき」って言っても届かないだろうなって思うんです。それよりも「あなた自身の力で政策をつくっていけるんです」という方がキーメッセージになりますよね。

伊藤:たとえば、ぼくはダンスが好きですけど、ダンスって練習場所がそんなになくて、公園とか土手でやってもトラブルが起きたりするんです。それって一個のイシュー(=問題、課題)じゃないですか。それを政策やルールづくりにつなげていくのが大事ですよね。

佐々木:ゆくゆくは上場も考えていますか?

伊藤:していきたいです。

佐々木:すごく下世話な話をしてしまうんですが、上場をすると経営者ってリターンが受けられるじゃないですか。そうやってお金を持つことが憧れの対象にもなる。伊藤さんはどうなりたいですか。

伊藤:ぶっちゃけ、リターンは要らないと思っています。上場しても1円も入らなくたっていいんですよね。もちろんある程度は、それこそ漫画を全巻まとめ買いできるとか、そういうのはほしいですけど(笑)、それよりも社会のインフラとなるサービスをつくるために上場するという感覚でいます。政治や行政ってインフラだと思っているので。

佐々木:それって、同世代の起業家の共通感覚ですか?

伊藤:どうですかね…。ぼく自身は、社会にいかに良い影響を与えるか、それで人を幸せにできるかという、そこ「のみ」を指標にしています。お金が目的なら、ほかの事業をやっていると思います。

幸せの定義とは

佐々木:これまでに、「もう無理かも」と思った失敗はありますか?

伊藤:サービスを一回ガラリと変えたことがあって、そのときはめちゃくちゃきつかったです。以前は街づくりみたいなコンセプトでアプリをつくっていたのですが、「このままだとそこそこのものしかつくれない」「社会のインフラになるようなサービスはできない」と思ってガラっと変えた。会社自体も縮小せざるを得ませんでした。その際は、みんなにも事業へのコミットを減らしてもらって…つらかったです。

佐々木:そうだったんですね。でも、結果、前向きな転換になったのかもしれませんね。伊藤さんは「失敗」を何だと定義しますか?

伊藤:えっ。何だろう。定義…難しいですね。むしろ「正解」にできたらいいんじゃないですかね、そのうち。

佐々木:現状が苦しくても、それを正解にすれば失敗ではないと。

伊藤:基本的にスタートアップって、「正解」はないと思います。何かあったときに「これなら絶対にできる」とか、そういうものはない。でも、その瞬間はわからないけれど、あとから正解にすることはできると思うんです。

佐々木:もう一つ、聞いていいですか。PoliPoliのミッションで使われている「幸せ」という言葉は、どういう思いで使われているのでしょうか。

PoliPoliのミッション
PoliPoliのミッション

伊藤:ぼくらのミッションは「新しい政治・行政の仕組みをつくりつづけることで、世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する。」ですが、社会の基盤はどこまでいっても一人一人の暮らしです。生活をいかに幸せなものにできるか。それを追求しつづけることが会社をやっている意味だし、生きている意味なのかなとぼくは思っていますね。

佐々木:そういうことって、たとえば昔から、それこそ同級生同士でも語らったりしてたんですか。

伊藤:めっちゃ話しました。

佐々木:えー!

伊藤:ミスドとかで12時間とか話してましたね。

佐々木:どうやって12時間も盛り上がるんだろう…(笑)。いまたどり着いた幸せって、どんなものですか?

伊藤:表現が難しいのですが、ぼくは「満ち足りた状態」かなと思っています。たとえば、理想がありますよね。こういう人生だったらいいなっていう潜在的なものから、こういうものがやりたいという目標までいろいろ。その中で、どれだけ現実にそうなったのか、みたいなところは一つ大事かなと感じたりしますね。もちろんこれは単純化した話です。

佐々木:そういうことって、私も年々考えるようになったというか…。自分は何のためにアナウンサーをやり続けるんだろうと思索することがあります。私は、みんなに居場所があって、「私はここにいるよ」って言いやすい社会ができたらと思っています。こういったインタビューも、いまを「生きづらい」と思っている人のヒントになればいいなって。

伊藤:やっぱり、社会って誰かの「幸せの居場所」であってほしいなと思うんです。これって本質的なことで。

佐々木:では、伊藤さんご自身にとっての幸せとは何ですか?

伊藤:ぼくにとっては、自分たちのサービスで社会をどれだけ幸せにできたか、それが幸せの基準です。そして、人生のうちに一回でもいいから、インフラとなるサービスを生み出したい。これができたら、ほんとうに幸せだなと思います。

<インタビューを動画で見る>

https://youtu.be/yi7fN-cPw4w

制作:プライムオンライン編集部

佐々木恭子
佐々木恭子

言葉に愛と、責任を。私が言葉を生業にしたいと志したのは、阪神淡路大震災で実家が全壊するという経験から。「がんばれ神戸!」と繰り返されるニュースからは、言葉は時に希望を、時に虚しさを抱かせるものだと知りました。ニュースは人と共にある。だからこそ、いつも自分の言葉に愛と責任をもって伝えたいと思っています。
1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。