「アーミー」と呼ばれるファン5万人がおよそ半年ぶりのライブに熱狂した2日後、その電撃発表が行われた。

韓国の世界的人気グループ「BTS」の所属事務所は、最年長メンバーJIN(ジン)さん(29)が10月末に入隊延期の取り消しを申請し、入隊に向けた手続きに従うと発表した。また他のメンバーも順次、入隊する予定とした。

兵役による入隊の正式発表だった。

韓国では原則28歳までに男性は兵役に就く義務がある。1992年生まれで2022年12月に30歳になるJINさんは、2020年に改正された兵役法(いわゆるBTS法)によって2022年末まで入隊が延期されていた。

(提供:BIGHIT MUSIC)
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早ければ年内にも入隊へ

入隊延期の取り消しを申請すると、通常は3カ月以内に兵務庁から入隊通知書を受け取ることになる。しかし入隊待機者が少ない場合、早ければ2カ月以内に通知が届くこともあり、韓国メディアは「早ければ年内にも入隊する可能性もある」と報じている。

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国論を二分した「BTS兵役議論」

BTSの兵役を免除するか、韓国では最近まで議論が続いた。
韓国の兵役制度では、スポーツや芸術分野で優れた成績を残した者には兵役を免除する「特例」がある。しかし、俳優や歌手などの「大衆文化芸術家」は特例の対象にはなっていない。

世界的な人気を誇るBTSに「兵役特例」を認めないのは「不公平だ」という主張に政治家が賛否分かれて加わり、兵役法の改正案が国会で議論された。

国会の国防委員会の依頼で行われた世論調査では、大衆文化芸術家に兵役特例を認める「兵役法改正」について、賛成60.9%に対し反対34.4%となった。(9月18日リアルメーター)

本人たちの意思とは無関係に交わされた激しい議論は、結果的に本人たちを悩ませた。

所属事務所「HYBE」イ・ジニョンCCO:
「ここ数年間、兵役制度が変わっていて、(適用)時点を予測しにくい点があって、アーティストがつらいのも事実」(2022年4月)

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なぜこのタイミングで?「BTSらしく約束を守った」

BTSメンバーは当初から兵役に応じる考えを示していた。

JINさん:
「兵役は当然の義務だと思っていますし、国の呼びかけがあればいつでも応じる予定です」(2020年2月)

国論を二分した議論は結論が出ないまま、JINさんが年末を待たずに入隊に向けた手続きを進めることについて、韓国メディアは「背中を押されての入隊ではなく、自身の選択と決断であることを示した」「BTSらしく約束を守った」(聯合ニュース)と評している。

また、発表は電撃的だったものの、「決定した事項をお知らせする事項についても熟慮と協議を重ね」たという所属事務所のコメントから「方向性は早くから決めていた」(MBC)と分析し、「社会とアーミーにした約束を守りながら、より長い活動のための“布石”」(同)と報じている。

(チケットを持たないファンも会場外に殺到した)
(チケットを持たないファンも会場外に殺到した)

電撃発表を冷静に受け止めた韓国

ライブ前、多くのアーミーたちはこのステージで何らかの発表があると思っていた。結果的にライブ後になったが、その発表を韓国国民は冷静に受け止めたようだ。

ソウル市民に話を聞くと、「行かなくてもいいという話も出たにもかかわらず、行くというのはかっこいいと思う」「全盛期だから外貨もたくさん稼いでくるのに、国家的損失ではないかと思う」「誰か一人に特例を与えずに同じように行くべきだと思う」 といった意見が聞かれた。

また、ソウル在住で韓国エンタメ界などを取材するノンフィクションライターの菅野朋子氏は、アーミーも冷静に受け止めたと話す。

「アーミーはBTSの思いを尊重していますから、冷静に受け止めていたと思う。おおよそ予想はついていたようですし。特に韓国アーミーは韓国で活動するならば、どんな形であれ兵役についた方がいいと話す人が多かった」(菅野氏)。

電撃発表の翌18日、韓国株式市場ではBTSの所属事務所HYBE(ハイブ)の株価が上昇し、一時7.8%高をつけた。兵役に関する先行き不透明感が払拭されたことが要因と分析された。6月にメンバーがYouTubeチャンネルで活動中止に言及した際に、株価が約25%下落したのとは対照的な受け止め方だった。

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「もっといかないと。30年、40年」

15日、5万人の歓声に包まれた韓国・釜山のライブ会場。5分以上続いたアンコールの後に再び姿を見せたBTSは再び歓声を浴びた後、1人1人アーミーたちに語り掛けた。

JIMINさん:
「僕たちのライブはきょうだけあるわけでもなく、僕たちはずっとやるから」
「もっといかないと。30年、40年」

JUNGKOOKさん:
「これからもっと10年という時間も、みなさんと共にいきたい」

RMさん:
「私が多くを言わなくても皆さんは知っていると思う」
「BTS7人の心が同じで、皆さんが私たちを信じてくれるなら、私たちにどんなことがあっても強くつながって皆さんと幸せに音楽を作るから」

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「2025年にはグループ活動再開を希望」

所属事務所は「当社とメンバーは2025年あたりにはBTSが7名でのグループ活動を再開することを希望しておりますが、現時点で正確な時期を特定するのは困難でありますことをご理解いただけましたら幸いです」とコメントしている。

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兵役による入隊期間は部隊により20カ月前後(部隊により異なる)。2025年に7人揃ってグループ活動を再開するとすれば、2~3年の間に全員が兵役を終える必要がある。JINさんに続き、あまり時間を置かずに他のメンバーの入隊が続くとの見方も出ている。

「2025年と期限を提示したのは計画があるのでしょう。空白期間を最小限にするために、個人活動なども含めてきっちりスケジュールを組んだのではないか」(前出のノンフィクションライター菅野氏)。

BTSの兵役免除に関して結局結論を出せなかった韓国政府。李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相はこの議論の中で、「BTSが軍に来ても、(グループ活動の)練習時間を与えて、海外公演があれば、いくらでもできる方法がある」と発言した。軍に属しながらのBTSとしての活動に含みをもたせた形だ。

韓国政府が仮に兵役中のBTSを政治利用しようとすれば、再び議論が起こることになりそうだ。

【執筆:FNNソウル支局長 一之瀬登】

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一之瀬登
一之瀬登

FNNソウル支局長。韓国駐在3年目。「めざましテレビ」「とくダネ!」など情報番組を制作。その後、報道局で東京都庁、東京オリンピック・パラリンピック担当キャップ。2021年10月ソウル支局に赴任。辛いものは好きですが食べると「滝汗」です。