10月6日からウズベキスタン・タシケントで開幕する、2022世界柔道選手権。
8日の57キロ級では特別な思いを持って出場するウクライナ代表の選手がいる。
2018、2019年、世界選手権女王のダリア・ビロディド(21歳)だ。

2018年の世界選手権では、48キロ級の最年少優勝記録を塗り替える17歳で世界女王に輝き、2019年には連覇も成し遂げた。

その美貌にも注目が集まり、モデルを務めることも。
しかし華やかで、順風満帆だった彼女の生活が、ある出来事によって奪われた。
ビロディドが自ら経験した壮絶な日々をフジテレビのカメラだけに語ってくれた。
2022年2月ロシアによる侵攻ですべてを失った
「私が寝ているとき、午前5時に母に起こされ『戦争が始まった』と急に言われ、すごく怖かったです。いつ死んでもおかしくない状況で、ずっと泣いていました」
2022年2月、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が始まった。
すぐさまビロディドの自宅近くでも爆撃の音が聞こえてきたという。

死と恐怖と隣り合わせの中、彼女は20時間かけてウクライナ西部へ避難し、友人とアパートを借りおよそ10日間を過ごした。
しかしそこの町では、全ての施設が戦争によって閉じてしまい、練習もできない状態が続いた。
「私が育ったキーウではスポーツや勉強など、何でもできたんですが、この町は違ったし、戦争で全てが閉まってしまい、練習もできませんでした。外は寒すぎたし、ジムは人々の避難場所として使われていたので、鬱(うつ)のような状態で何事にもやる気が起きず、体も頭も死んだような状態でした」
故郷を追われ悲しみにくれる中、ビロディドに声をかけたのは様々な国の柔道仲間たちだった。
「一緒に練習しよう、一緒に暮らせばいい」
そんな温かい言葉が、途方に暮れる彼女の心を突き動かした。
母国を離れる苦渋の決断を下し、練習拠点を提供してくれるスペインのバレンシアへと渡った。

「車で約3日間かけてスペインに来ました」
決死の避難をしてきたビロディドに、スペインチームは再び柔道ができる環境を提供。
「良い場所とは知っていましたが、スペインチームの全員が全面的にサポートしてくれて、私にとってバレンシアは第2の故郷。本当の地元のように感じるし、自分のチームのように感じます。ここに来て良かったですし、今は思っていた以上に幸せです」

生死をさまよう壮絶な体験をし、絶望的な状況にいたビロディド。
そんな彼女に生きる活力を与えたのは、やはり「柔道」だった。
「柔道に本当に助けられました。練習があったり、目標を持つことができたからです。この状況についてなるべく考えないがいいと思いますし、柔道のおかげでネガティブなことを考えずに済んでいるので、素晴らしい環境で練習できてうれしいです」
異例の階級変更を決断。それでも目指すのはただ1つ
故郷を離れる決断だけでなく、ビロディドはもう1つ大きな決断をしている。
それが、異例ともいえる「柔道での2階級アップ」だ。

「6年か7年にわたり48キロ級で戦ってきましたが、子どもから大人の女性になり、体重を維持するのが困難になりました。東京オリンピックまでの3年間、普通の食事もできず、毎日飲み物も食べ物も少しだけ。
173センチという身長で、筋肉をつけて48キロ級で戦うのはほぼ不可能でした。オリンピックで本調子がでなかったのは、あの階級で戦える精神状態ではなかったからだと思います」

2018年と2019年に世界一になったにも関わらず、東京オリンピックでは48キロ級で失意の銅メダル。その背景には減量の難しさとメンタルコントロールがあったという。
悔しさで落ち込むなか、追い打ちをかけるように始まった戦争。
それでも大好きな柔道と向き合い、ビロディドは57キロ級で戦える体づくりに取り組んだ。
「57キロ級は私にとって新たな挑戦です。強敵揃いですが、全員に勝ちたい。日本の舟久保(遥香)選手は練習でも試合でも対戦したことはないので、対戦が楽しみです」

練習環境、そして階級、劇的な変化を経て臨むビロディドにとっての特別な世界選手権。
愛する母国への思いを胸に、再び世界の頂点を狙う。
「ウクライナ国旗を掲げる絶好の機会。ウクライナが強い国だということを示したいです。ウクライナこそ最強だと。私の国と国民のためにベストを尽くします」
2022世界柔道選手権
10/6開幕!
フジテレビ系列で8夜連続中継!
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html