アジアのパワーバランスが、揺さぶられる兆候が現れつつある。

6月15日、北海道の襟裳岬の南東を南に進むロシア海軍のウダロイI級駆逐艦2隻、ステレグシチーII級フリゲート1隻、ステレグシチー級フリゲート3隻、マルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻の計7隻を海上自衛隊が確認。

宗谷海峡を通過したロシア海軍軍艦(統合幕僚監部提供)
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対艦、対地、対空ミサイル等、様々なミサイルを搭載、駆使出来る軍艦を中心とする艦隊だ。

その後、これら7隻は、千葉県・犬吠埼の南東約180kmを南西に進み、17日には伊豆諸島の須美寿島と鳥島との間の海域を南西に進んだ。19日には、7隻の内5隻が沖縄県の沖縄本島と宮古島との間の海域を北西進し、東シナ海に向けて航行した。

6月19日 統合幕僚監部作成

つまり、この艦隊は、太平洋側を北海道から本州に掛けて、日本に近づきながら南下したということだろう。

注目されるのは、この艦隊の水上戦闘艦が、前述のように多種多様な武器を運用できること。

この艦隊が、ミサイル観測支援艦のマルシャル・クリロフを引き連れているということは、実際に訓練発射を行う可能性を示唆しようとしているのかもしれない。

宗谷海峡を通過したロシア海軍軍艦(統合幕僚監部提供)

ウダロイI級とステレグシチーII級フリゲートには、例えば射程1500km以上の地上攻撃用3M-14Tカリブル巡航ミサイルが搭載可能なので、このロシア艦隊の動きにつれて、日本の太平洋側の一部がカリブル巡航ミサイルの射程に入っていた可能性があった。もしくは、ロシア側はそれを示唆しようとしていたのかもしれない。

アドミラル・グリゴロビッチ級フリゲートから発射されるカリブル-NK巡航ミサイル

また、ステレグシチー級フリゲートには、最大射程130~260kmの対艦ミサイル3M-24ウランや高度5~15000mに対応出来る対空ミサイル9M96 も運用できるので、艦隊全体の防衛を受け持つことも可能なのかもしれない。

そして日本周辺で注目されるのは、ロシアだけではない。

中国海軍の動き。そして電磁カタパルト搭載空母の登場

6月16日、中国海軍版イージス艦とも呼ばれるレンハイ級ミサイル駆逐艦1隻及びルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻が、日本海から北海道北の宗谷海峡を東に抜けた。

宗谷海峡を通過した中国海軍軍艦(統合幕僚監部提供)

さらに、東シナ海の日中の地理的中間線の西側において中国による新たな1基の構造物の土台を運搬する動きを海上自衛隊が確認し、日本の外務省が在京・中国大使館次席公使に抗議した。

また2022年6月17日には、中国海軍で3隻目の空母にあたる「福建」が、上海の江南造船所で進水した。

中国新空母「福建」甲板上の箱は「電磁カタパルト」のふた?

興味深いのは、そのサイズと新装備だ。

排水量約8万トンというのは、これまでの中国の空母「遼寧(満載排水量:5万9439トン)」、「山東(満載排水量:6万6000トン)のみならず、フランスの原子力空母シャルル・ド・ゴール(満載排水量:4万3182トン)などを優に上回っている。

中国海軍の002型空母「山東」

中国国営の新華社通信によれば、「福建」は「初のカタパルト(射出機)を搭載した空母で、アングルド・デッキ(斜め飛行甲板)を採用、電磁カタパルトとアレスティング・ワイヤー(着艦制動索)を配置」(6月17日)となっていた。

つまり、米海軍の新型原子力空母「ジェラルド・R・フォード」同様、戦闘機等の艦載機を打ち出すのに、リニアモーターと同じ原理の電磁カタパルトを装備しているというのである。

従来、各国の空母のカタパルトと言えば、蒸気の圧力で艦載機を打ちだす「蒸気カタパルト」が主流だったが、中国初の空母のカタパルトは蒸気カタパルトではなく、電磁カタパルトというのである。

米海軍新型原子力空母「ジェラルド・R・フォード」米海軍空母として初めて電磁カタパルト装備(米国防総省公式画像)

従来の中国空母「遼寧」と「山東」は、艦載機のJ-15戦闘機が自らのジェット・エンジンのパワーのみに依存して、前端が反り返ったスキージャンプ甲板を走り、飛び立って行く。

従って、中国海軍のJ-15艦載戦闘機がミサイルや爆弾等の装備を満載する場合、燃料を減らして発艦、空中で他の飛行機から燃料を給油する必要があった。

中国海軍の002型空母「山東」のスキージャンプ甲板から発艦するJ-15艦載戦闘機

中国空母はステルス機搭載空母になるのか?

しかし、電磁カタパルトを空母が装備すれば、艦載戦闘機は自らのジェット・エンジンのパワーのみに依存するのはでなく、空母甲板の電磁カタパルトによって打ち出されることになり、艦載戦闘機の発艦頻度が増えることになる。

加えて艦載戦闘機がミサイルや爆弾を満載していても、燃料を減らすことなく空母から発進させることが可能となり、強力なジェット・エンジンを持たない早期警戒機等も電磁カタパルトにより発艦が可能になるだろう。

電磁カタパルトのシャトル(黄色丸)に艦載機の前脚を引っかけて射出(米空母「ジェラルド・R・フォード」)(米国防総省公式画像)

射出する戦闘機の重量制限が緩和されるなら、将来は、中国空軍の大型ステルス戦闘機J-20、または、それより小型のJ-31戦闘機(FC-31)の艦載バージョンを開発し、電磁カタパルトを装備した中国空母から運用される可能性もあるかもしれない。

中国空軍の大型ステルス戦闘機「J-20」

しかし、電磁カタパルトは、大量の電力が必要となる。

このため発電量が豊富な原子力空母の米海軍「ジェラルド・R・フォード級」には適した装備と言えそうだが、中国の「福建」は原子力空母ではなく、その動力はIEP、つまりディーゼルエンジン等で発電した電力で電気モーターを駆動しスクリューを回す方式だ。

英海軍の「クイーン・エリザベス級空母」も推進方式はIEPだが、艦載戦闘機の発進方式はスキージャンプ方式だ。

英空母「クイーン・エリザベス」のスキージャンプ甲板から発艦するF-35Bステルス戦闘機(米国防総省公式画像)

「福建」は今後、洋上での試験を続け、2024年にも中国海軍に就役するとみられているが、この洋上試験期間中にIEPと電磁カタパルトの組合せの有効性が図られる事になるだろう。

IEPであることが、電磁カタパルトの性能に制約を課すものかどうか?

それによっては、前述の通り「福建」はJ-20ステルス戦闘機をベースにしたステルス艦載戦闘機を運用する空母となる可能性が出てくるかもしれない。

そして中国が3隻の空母を保有・運用するとなれば、2024年以降は常時1個空母打撃群(艦隊)が展開可能となり、東アジアの海軍力バランスが揺さぶられる更なる要因となるかもしれない。

さらに、アジアのみならず北米大陸の軍事バランスを揺さぶる要素になりそうなのが、北朝鮮の核・ミサイル開発だ。

北朝鮮の核ミサイル開発に対するアメリカの対応

米シンクタンクが入手した14日付の衛星画像を分析したところ、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)核実験場で2018年に爆破された坑道付近で、崩壊した西側坑道付近で新たに壁がつくられたり、資材が置かれているのが確認され、修復作業が行われていることがわかった。

一方、別の南側の坑道ではすでに工事が完了し、核実験への準備が整っていると分析されている。

今回、修復作業が確認されたことについて関係者は、北朝鮮が核開発を長期的に続ける意思を示すものとみられている。

6月14日撮影北朝鮮豊渓里核実験場の坑道(Tunnel No.4)付近で新たに壁がつくられたり、資材が置かれているのが確認され、修復作業が行われていると見られる

北朝鮮の核開発に神経を尖らせているのが米国だろう。

米空軍は、沖縄県・嘉手納基地に核実験の際に出る電磁波を捕捉・計測する能力があるとみられているRC-135Uコンバットセント偵察機を派遣している。

コンバットセントは、米空軍にたった2機しかない特殊な偵察機だ。

嘉手納基地に展開したRC-135Uコンバットセント電磁波計測偵察機。米空軍に2機しか存在しない核実験の際の電磁波を計測出来るとされている。(撮影:久場悟氏 6月13日)

また、核実験の後、空気中に散った放射性物質を収集し分析するコンスタントフェニックス偵察機は、従来2機しか存在しなかったが、3機目のコンスタントフェニックスWC-135Rとみられる画像がSNSで公開された。

機体の横に突き出しているのが空気中のサンプル収集装置だ。

WC-135Rコンスタントフェニックスと言われる機体。核実験の後、空中に飛散する放射性物質を収集・分析する特殊偵察機。(L3Harris Technologies社 HPより)

核実験監視を強化しようという意図だろうか?

北朝鮮が懸念される7回目の核実験を実施し、それが小型核兵器の試験であった場合、それは、北朝鮮の大型大陸間弾道ミサイル火星17の多弾頭化や、日本を射程とする上に変則軌道でミサイル防衛をかわす北朝鮮版“極超音速ミサイル”にも搭載可能な核弾頭への道を開くことになるかもしれない。

2017年9月3日核弾頭の開発現場を視察する金正恩委員長(当時)

北朝鮮が次に実施する核実験が小型核兵器を見据えたものだった場合、それは米国のみならず、日本の安全保障にも重要な案件となるだろう。

北朝鮮版"極超音速ミサイル"(左)(2022年1月発射) 北朝鮮・火星17型大陸間弾道ミサイル(右)

米軍は、北朝鮮の核実験だけでなくミサイルも警戒しているのか、全部で3機しかないRC-135Sコブラボール弾道ミサイル発射監視機のうち2機を沖縄県・嘉手納基地に派遣している。

米空軍が3機しか保有していないRC-135Sコブラボール弾道ミサイル発射監視機2機が嘉手納基地に展開。胴体横の小窓の奥に高性能の赤外線センサーなどを内蔵。(撮影:久場悟氏 5月25日)

日米がすすめてきたミサイル防衛では対処が困難な核ミサイルを北朝鮮が保有するのかどうか?

これは、米国だけの関心事ではないだろう。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 能勢伸之

超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」

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