感染拡大が急激に進む新型コロナウイルスの第6波。今、地域医療は崩壊と隣り合わせの状況になっている。

あふれかえる検査希望者…検査キット確保が困難に

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
(奥さんは)コロナ陽性やったですよ。誰か周りにおられる?

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患者の夫:
最初に自分が陽性に…

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
ああ、やっぱり

患者の夫:
この子も熱があるんですよ。きのう検査したら陽性でした

検査キットを片手に走り回る山本院長。福岡市内にあるクリニックの発熱外来は、新型コロナの検査を希望する人であふれかえっていた。

車や特設テントの中だけではなく、入り口の空きスペースも利用して、検体の採取が行われる。
受付には、ひっきりなしに検査の予約申し込みの電話があった。

やまもとホームクリニックスタッフ:
車7台で来られますね。かしこまりました

検査の急増で難しくなっているのが、検査キットの確保だ。

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
当初予想していたよりも抗原キットの使用頻度が高くて、もともと持ってた在庫がなくなったので、すぐ連絡して…

このクリニックでは、陽性となる人の数が日に日に増えていて、1月28日は午前中に検査した10人のうち、5人に感染が確認された。

急激な感染拡大で処方が間に合わないおそれも

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
残念ながら、うちのキットで検査したらコロナの陽性でした

患者:
あー

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
思い当たることはあります?

患者:
買い物程度しか行ってないので…

陽性反応が出た40代の患者は、ある不安を抱えていた。

患者:
糖尿病なんですが、重症化とかするんですか?

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
する可能性があって、若い方は基本的に対象じゃないんですが。実は糖尿病の方は、特効薬が使えます。ラゲブリオ(モルヌピラビル)というお薬があるんですけど

2021年12月に国内で承認されたコロナの飲み薬「モルヌピラビル」。18歳以上の重症化リスクの高い患者が使用でき、院長は男性に処方することを決めた。

コロナの飲み薬「モルヌピラビル」
コロナの飲み薬「モルヌピラビル」

しかし…

やまもとホームクリニックスタッフ:
ないそうです

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
ないって?

モルヌピラビルは取り扱える薬局が限られているうえ、1施設あたり3箱しか在庫を持てず、数が足りなくなることが懸念されていた。

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
ないのは初めてのケースですね。ちょっと困る。どこかにあると思うので、ちょっと探してみます

さらに、こんな問題も…

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
通常であれば、PCR検査は翌日に結果が出るんですけど、今これだけ福岡の検査数が多いので、クリニックに結果が帰ってくるのに3日かかっている。結果がすぐ戻ってこないと、お薬が制限される。特に今回のラゲブリオ(モルヌピラビル)に関しては、(服用開始が)発症後5日以内なので…

検査の結果が出るまでに時間がかかり、処方が間に合わないおそれもあるのだ。

今回の患者には、別の薬局にあったモルヌピラビルをなんとか融通してもらうことができた。

薬剤師:
今週は5件…。前の週までは0だったので、急に増えている

急激な感染拡大で、今 地域医療は崩壊と隣り合わせの状況なのだ。

やまもとホームクリニック・山本希治院長:
とにかく今を乗り越えれば。また収束していくと思うので、できるだけ頑張っていこうと思っています

新型コロナ以外の医療に深刻な影響

新型コロナの治療に必要な検査キットも薬も足りない。医療資源の枯渇は、新型コロナ以外の医療にも深刻な影響を及ぼしている。

福岡大学病院ECMOセンター・石倉宏恭センター長:
ビニールで仕切られてるところから向こうがレッドゾーン。今回は、エクモセンターよりもコロナセンターになる。重症以外の患者も入院するので

人工心肺装置「ECMO」を使い、多くの重症患者を治療してきたECMOセンター。
新型コロナ治療の最後のとりでとも言われるこの場所には、1月29日現在、12人が入院しているが、重症者は1人もいない。

福岡大学病院ECMOセンター・石倉宏恭センター長:
コロナ自体の症状はほとんどなくて、基礎疾患を持っている人が入院している。人工透析をしているとか、何かの手術を受けている患者とか。そういう患者は重症化するリスクが高いので、大学病院で経過を見てる

その一方で今、懸念されているのが救急医療への影響だ。

福岡大学病院ECMOセンター・石倉宏恭センター長:
脳卒中や心筋梗塞、そういう症例が多いので、この時期が一番救急の患者が増える。通常、救急に支障を来している状況がひたひたと来ていて、毎日毎日、ベッドコントロールがギリギリの状態

消防庁によると、救急患者の搬送先がすぐに決まらない救急搬送困難事案は、1月17日からの1週間で全国で4,950件と過去最多となり、そのうち7割以上は新型コロナとは関係ないケースだった。

福岡大学病院の救急救命センターには、一般の病院ではなかなか対応できない救急患者が搬送されてくる。
それでも、ICU(集中治療室)のベッドを毎日1~2床確保するのが精いっぱいだ。

搬送の受け入れ不可…命の選別が必要な事態も

この日の夕方、一本の電話が救急救命センターにかかってきた。3メートルの高さから転落した男性の受け入れを要請するドクターヘリからだった。

医師:
ちょっと待ってくださいね

看護師:
ベッドでしょ、パツパツですもんね

ベッドの空きは、1床のみ。この患者を受け入れると、全てのベッドが埋まることになる。

医師:
残念ながら受け入れ不可です

搬送されていた男性は背中の骨折が疑われたが、幸いにも容体は安定していたため、他の病院でも対応できると判断したのだ。

福岡大学病院・喜多村泰輔医師:
つらい。すぐに命にどうこうではないので

(Q.この人の搬送を受け入れると、命に関わる方を受け入れられない?)
福岡大学病院・喜多村泰輔医師:

そう、そこが難しい

新型コロナによって、むしばまれる救急医療。さらに感染者が増えれば、命の選別が必要な事態も考えられる。

福岡大学病院ECMOセンター・石倉宏恭センター長:
医療資源を通常の救急に投入できない。制限がかかっていることはつらい。われわれは、コロナの最後のとりでであるのと、救急の最後のとりででもある。そこで制限をしてしまうと、福岡にとって、助かる命が助からない可能性がある

1人でも多くの命を守るために、限りある医療資源をどう活用すべきなのか。
最前線では、ギリギリの綱渡りが続いている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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