新春恒例の皇室行事「歌会始の儀」が1月18日、皇居宮殿・松の間で行われました。すでに奈良時代には行われていたと言うこの行事。

2022年1月18日 歌会始めの儀
2022年1月18日 歌会始めの儀
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2021年12月に成年となられた天皇皇后両陛下の長女・愛子さまは、学業を優先した関係で出席はしませんでしたが、和歌を寄せられています。

学習院大学文学部日本語日本文学科の2年生の愛子さま。「窓」というお題に、2018年夏、高校2年生の時にイギリスの名門・イートン校に短期留学した思い出を和歌に詠まれています。

「英国の 学び舎に立つ 時迎へ 開かれそむる 世界への窓」

愛子さまが留学されたイギリスの名門・イートン校
愛子さまが留学されたイギリスの名門・イートン校

〈宮内庁の背景説明〉

初めて外国の学校をご訪問になり、歴史の重みを感じさせる立派な建物を目の前にされた時、今、ここから世界が開 かれようとしているというお心持ちになられました。約3週間にわたる英国でのご滞在への期待に心を弾ませるお気持ちをお詠みになったお歌です。

折に触れ和歌や俳句を詠まれる愛子さま

学習院によれば高校の国語表現の授業でも、イートン校の思い出を短歌にしたほか、スキーに行ったときの情景など、ご自身の体験を歌に詠まれてきたと言います。

在学中から歌を詠み、夏休みなどの長いお休みの期間には、学校の課題として和歌や俳句を詠むまれていたそうです。また、学習院女子中等科・高等学校の同窓会「常磐会」の創立125周年を記念して作られた「ふかみどり」という本で和歌を披露されています。

「学び舎の 冬日あかるき 窓の辺に 集える友の 影重なりて」

卒業を控える学生生活の中で、友人たちと笑顔で集まられた様子が感じ取られます。

和歌に慣れ親しんでいた愛子さまは、平安時代の文学に触れる機会も多かったようで、高校3年生の古文の授業では、「源氏物語」の末摘花巻をグループ研究してご発表。また卒業リポートでは、平安時代の猫と犬に関して、文学作品を通し考察をまとめられたということです。

これ以前、初等科の夏休みのリポートは、「藤原道長」。平安時代に権勢を誇り、「御堂関白記」という日記を記したことでも知られています。この道長について研究してレポートにまとめられているのです。

平安文学や和歌に深い関心

実は、2021年12月1日に二十歳となった際、宮内庁から提供された映像にも愛子さまが平安期の文学や和歌などに大変関心を持たれているご様子を知ることができました。

映像では、宮内庁三の丸尚蔵館で収蔵品をご覧になっています。三の丸尚蔵館は皇室に代々受け継がれた絵画・書・工芸品などの美術品類に加え、故秩父宮妃のご遺贈品、香淳皇后のご遺品や三笠宮家の寄贈品など現在約9,800点の美術品類を収蔵している施設で、宮内庁が所管しています。

収蔵品の中には、「蒙古襲来絵詞」「春日権現験記絵」、近年人気の高い伊藤若冲による「動植綵絵」など有名な作品も保管しています。

愛子さまは、三の丸尚蔵館学芸室首席研究官・太田彩さんの説明を受けながら、四つの作品をご覧になりました。

三の丸尚蔵館学芸室首席研究官・太田彩さんの説明を受けられる愛子さま
三の丸尚蔵館学芸室首席研究官・太田彩さんの説明を受けられる愛子さま

その作品は、「塩山蒔絵十種香道具」「源氏物語画帖」「更級日記」「源氏物語図屏風」で、いずれも平安時代の物語や和歌に由来する作品です。

「塩山蒔絵十種香道具」(江戸時代18世紀)

平安時代初期に初めての勅撰和歌集としてまとめられた「古今和歌集」に収められている「塩の山 さしでの磯に 棲む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ啼く」という歌にちなみ作られた香道具で、「葦手」という手法により、文字が散りばめられています。

明確ないわれは分かっていませんが、使用された痕跡はあると言うことです。

「古今和歌集」に納められている歌にちなんで作られた香道具
「古今和歌集」に納められている歌にちなんで作られた香道具
「葦手」という手法により、文字が散りばめられている
「葦手」という手法により、文字が散りばめられている

「源氏物語画帖」(江戸時代17世紀) 伝土佐光則筆

「源氏物語画帖」は、源氏物語54帖のそれぞれの物語の代表的なモチーフを、その部分の物語文と場面をそれぞれ色紙に表わして、一冊の画帖に仕立てた作品です。物語文は親王や公家が寄り合い書きし、絵は宮廷の御用を務めた土佐派の絵師が担当しています。

源氏物語54帖のそれぞれの物語をモチーフに画帖にされている
源氏物語54帖のそれぞれの物語をモチーフに画帖にされている

女性が源氏物語にまつわるものを婚礼の調度として持参したものと考えられています。昭和天皇の后・香淳皇后も大切にされていたということです。

親王や公家が寄り合い書きをした色紙を貼り一冊の画帖に
親王や公家が寄り合い書きをした色紙を貼り一冊の画帖に

「更級日記」(鎌倉時代13世紀) 藤原定家筆

平安時代中期の菅原孝標の娘による、少女期から40年間についての回想記です。

「源氏物語」に憧れる少女期の様子や父の赴任地から帰京する旅の様子、宮仕えや家族のことなど、当時の女性の生活の様子をうかがい知ることが出来る平安期の女性日記の最高峰の一つとされています。

平安期の女性日記の最高峰「更級日記」愛子さまがご覧になっているのは藤原定家氏による「書き写しの原本」
平安期の女性日記の最高峰「更級日記」
愛子さまがご覧になっているのは藤原定家氏による「書き写しの原本」

ただ、原本は残っておらず、藤原定家によるこの写本によって、「更級日記」は伝えられてきました。写本のため貸し出された際、ページを前後してしまい、後世のものも同じような間違いがあったことから、この定家が写したものが全ての写本の源となっていることが分かりました。

江戸初期の後水尾天皇が所有していたことは確認されていて、その後の天皇家に伝わっていったことから「御物本」とも呼ばれて伝わってきましたが、現在は三の丸尚蔵館が所管していることから、「三の丸本」とも呼ばれています。

「源氏物語図屏風」(江戸時代1642年) 狩野探幽筆

「源氏物語図屏風」は、54帖全ての段を6曲1双の屏風に描かれているもので、雲や霧によりそれぞれの場面が区切られています。この屏風は江戸時代の桂宮家伝来で、2代智忠親王に嫁いだ、加賀・前田利常の四女・富姫の婚礼調度として作られたものです。

「源氏物語図屏風」は、54帖全ての段を6曲1双の屏風に描かれているもの
「源氏物語図屏風」は、54帖全ての段を6曲1双の屏風に描かれているもの

ご説明者の太田さんによれば、天皇ご一家のお世話を担当する「侍従職」から、愛子さまが学ばれている日本文学に関わる作品をお見せしていただければと相談があったといます。

眞子さんも佳子さまも

二十歳に際して宮内庁が提供した映像で、三の丸尚蔵館の収蔵品は、秋篠宮家の長女・眞子さん、次女の佳子さまの際にも登場しています。

2011年 成年皇族の行事に臨んだ眞子さん
2011年 成年皇族の行事に臨んだ眞子さん

2011年10月に二十歳になった眞子さんは、昭和天皇と香淳皇后のご結婚にあたり献上された「御飾棚」と棚に飾られていた工芸品を見ています。眞子さんは、上皇后さまが皇后時代に、皇后さまのご養蚕を手伝うことがありました。そうしたことから、高村光雲作「木彫 養蚕天女」を見ている映像が撮影されました。ちなみに、養蚕天女が持つ繭の形は日本古来の品種で、歴代の皇后も育ててきた蚕「小石丸」によく似ていると言うことです。

2014年 成年皇族の行事に臨まれた佳子さま
2014年 成年皇族の行事に臨まれた佳子さま

2014年12月に二十歳となられた佳子さまの場合は、1884年に調製された「雅楽図」、雅楽を舞う「蘭陵王置物」、「大太鼓型ボンボニエール」でした。

太田さんによれば、眞子さんは、文化財の修復に関心があり、上皇后さまが育てられた蚕から採れた糸で修復した「春日権現験記絵」のことを思い、養蚕をテーマに、皇室の伝統文化をテーマにしたということです。

でも、なんとなく「雅楽」から「舞台」や「踊り」を連想してしまいます。

首席研究官の太田さんは、「平安時代に大きく発展した文字が、和歌や物語などの文学を生み、和歌や物語が美術品のデザインとして取り込まれて発展していった」ことを愛子さまにお伝えし、「そうしたイメージの広がりが日本文化の土壌を豊かにして発展させていきました」という説明に愛子さまは大変興味深げに質問をされていたということです。

また、高等科で、源氏物語など王朝文学に出てくる動物たちについて研究してまとめたことを楽しげに話をされていたということです。

このように皇室由来の品々を大切に守り研究を続け公開してきた三の丸尚蔵館ですが、2021年12月から休館しています。

実は、今の建物の隣に一回り大きな新・三の丸尚蔵館を建設中なのです。2023年秋から新たな展示室での公開が予定されています。

開館の折には、愛子さまも目を輝かした皇室に伝わる工芸品を見に行ってみてはいかがでしょうか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 橋本寿史】

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橋本寿史
橋本寿史

フジテレビ報道局解説委員。
1983年にフジテレビに入社。最初に担当した番組は「3時のあなた」。
1999年に宮内庁担当となり、上皇ご夫妻(当時の天皇皇后両陛下)のオランダご訪問、
香淳皇后崩御、敬宮愛子さまご誕生などを取材。