終末期を自宅で#1 がんで余命わずか「悔いなく自分らしく」思い出重ね…家族の選択 コロナ禍の看取りの現場【長野発】
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終末期を自宅で#1 がんで余命わずか「悔いなく自分らしく」思い出重ね…家族の選択 コロナ禍の看取りの現場【長野発】

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終末期の患者に寄り添う訪問診療

長野県松本市に訪問診療を中心に行うクリニックがあり、終末期の患者と家族に寄り添っている。患者の1人とその家族を通じて、コロナ禍の今、自宅で最期を迎えることの意味を改めて考える。

もって3カ月…がんで余命の告知

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2021年11月3日、安曇野市。

諸井吉彦さん:
お手、いい子だね。おかわり、いい子だね~

諸井吉彦さん、65歳。安曇野市で妻の悦子さんと一緒に暮らしている。1日の大半はベッドの上。もう、ものを口にすることはできない。

諸井吉彦さん:
死ぬことに対して怖さはない。どうやって死ぬかに対しての怖さはある

諸井さんは2021年3月、自宅で血を吐いて倒れた。原因は「がん」。2020年夏の健康診断で大腸がんの疑いがあり、再検査してポリープを切除。

しかし、がんができていたのは十二指腸とすい臓だった。抗がん剤の治療が始まったが、9月に十二指腸が破裂して緊急入院。「ステージ4」と診断された。

諸井吉彦さん:
余命は数週間から、もっても3カ月。1カ月かな、2カ月かな、3カ月かなって。ある程度、いろんな毎日を考えて、その中での最後の告知ですから「ああ、やっぱりな」と。

諸井吉彦さん:
何年も家族に迷惑をかけたり痛い思いをするよりも、はっきりとXデーというか、だんだん迫っていると分かると、身の回りを整理したりとかができる。やらなきゃいけないなって気持ちになりますので、自分にけじめがついた。言葉が悪いけど、ほっとした

家族と最期を迎える決意 妻「家で看取りたい」

諸井さん家族 3人の子供に恵まれた(提供:諸井さん)

諸井さんは静岡県浜松市の出身。高校卒業後、電気機器販売店などで働き、悦子さんと20歳で結婚。3人の子どもに恵まれた。37歳の時、仕事の都合で安曇野へ。退職後は妻と2人でゆっくり過ごそうと思っていた。

最期を覚悟できたのは、苦楽を共にしてきた家族がいたからだ。

諸井吉彦さん:
一緒にかみさんがいるだけで僕はほっとするんですよ、顔を見るだけで。一緒にやってきて、女性として、女房として強くなってきて「ああ、安心だな」と。思ったことを言える、飾らない理想の家族になってくれたから、気持ち的に離れていることが1人もいない。そんな良いことないね

諸井さんの妻・悦子さん

妻・悦子さん:
お父さんとずっと一緒にいたい、それが一番だったんじゃないかな。看取るなら家で看取りたい。みんないたいんですよ、お父さんと。残りの時間を楽しくいけたらいいなと思って。子どもたちも「悔いの残らないようにしようね、いっぱい思い出つくろうね」って

患者に寄り添う訪問診療「残された時間を平穏に」

瀬角英樹医師の訪問診療

10月28日。

訪問診療クリニック樹・瀬角英樹医師:
はい、どうもすみません、こんにちは

諸井さんを診療する瀬角英樹医師。松本市でクリニックを運営しながら、諸井さんのように自宅で療養する患者をケアする「訪問診療」を行っている。

訪問診療クリニック樹・瀬角英樹医師:
どうですか、痛い?

諸井吉彦さん:
痛いもんで、(痛み止めを)1錠飲んで、30分後にもう1錠飲むと良くなる。これで2錠になるじゃないですか。(1日)4錠までとなると、2回しか飲めない

訪問診療クリニック樹・瀬角英樹医師:
薬の説明には1日4錠までと書いてあるけど、それはあくまでも原則なので、痛みに合わせて対応してもらってかまわないです

諸井さんは延命治療を否定しているわけではない。自分は受けないだけ。代わりに、大学病院から紹介された瀬角医師のケアを受けている。

諸井吉彦さん:
家で死にたかった。家でやっぱり庭を見ながら、お見舞いにたまには来てもらって、家族と話しながら悔いのない…

妻・悦子さん:
コロナ禍でみんな会えないじゃないですか。病院も1人しか入れないとかってあるので

医師と看護師が訪問

10月から週1回、瀬角医師が往診するほか看護師も訪問し、家族をサポートしている。

訪問診療クリニック樹・瀬角英樹医師:
僕らにできることは体の苦痛を取り除くこと、これを第一にしっかりやっていく。さらに精神的な面ですよね。今後のこと、心構えとか、死んだ後どうなるのか、そういう悩みにも応えながら、残された時間を平穏に暮らせるお手伝いをできるようにしたい

瀬角英樹医師

終末期の患者に寄り添う訪問診療。諸井さんは…

諸井吉彦さん:
「今年もたないだろう」と言われたら「今年もたせましょうよ、頑張って」と。ささやかな希望を持ちながら、その希望をつないでくれるのが訪問診療

みんなが集まって…心のこもった家族写真

10月30日の諸井家。浜松にいる長女の真由美さん(42)と長男の浩司さん(40)、松本に住む次女の晴美さん(35)が孫を連れてやってきて、にぎやかな雰囲気に包まれていた。

3人の子供と孫たちが訪れにぎやかに(10月30日)

諸井さんは、腹部の痛みがひいているときは歩くことができる。

「左が良いよね」「嘘だよ、絶対こっち(右)だって」と家族が選んでいるのは、諸井さんの遺影だ。

長女・真由美さん:
赤い服の写真がいい人?(大勢が挙手)ほら、赤じゃん

遺影に選んだ写真

優し気な表情の諸井さんが写っていた。

孫・陽愛ちゃん:
昔のじいじ、めっちゃイケメン

長女・真由美さん(左)と次女・晴美さん(右)

次女・晴美さん:
信じられなかった。まさか自分の家族にそんなことがあるとは思わなかったので。その話しちゃうとね、こういう会話すると涙出てきちゃう。ふと考えると、悲しくないと言ったら嘘なんで。でもやっぱり楽しくいたいじゃないですか

長女・真由美さん:
そうだね

家族写真の撮影

この日、家族が勢揃いしたのには、もうひとつ理由があった。それは、みんなで「家族写真」を撮ること。長男・浩司さんの提案だ。

家族写真の撮影を提案した長男・浩司さん

長男・浩司さん:
あれしとけば良かった、これしとけば良かったと、悔いが残らないように、本人がやりたいことをやらせてあげたい。安心させたいなと思っています

子どもたちと…

孫たちと…

そして、妻の悦子さんとの写真を撮影。

諸井吉彦さん:
みんな心がこもったね、良い写真が撮れた。感無量です。何でもそうですけど、これで最後と思うと、極まるものがありました。(子どもたちに)「いざとなったら役に立たない」と愚痴を言っていたんですけど、実際にはみんなそれぞれ考えてくれて見直しましたよ

長男・浩司さん:
9、8、7、…

自宅で最後まで自分らしく。残された時間を大切に過ごす家族の肖像だ。

諸井吉彦さん(65)

諸井吉彦さん:
このまま、普段通りでいきたい。普段通りだけど自分の後始末もしなきゃいけないから、そういう細かな事の積み重ねだよね。それが一つでもできれば「生きてて良かったな」と思えるんじゃないかな

(長野放送)

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