ゲノム編集技術でフグの”毒”はどうなる?
トマトやマダイと違い、トラフグの体内にはテトロドトキシンという毒成分がある。そもそも、食べることができるフグの種類や部位、漁獲海域は定められていて、それ以外のものの販売・提供などは食品衛生法で禁止されている。
トラフグについては、毒成分のない筋肉、皮、精巣が、可食部位となる。ゲノム編集トラフグについて、厚生労働省は、可食部位に毒成分の蓄積は認められなかったことを明らかにしている。しかし、フグが毒化するメカニズムは十分には解明されていないのが現状だ。
この記事の画像(7枚)厚労省の担当者は「あってはならないことだが、もしゲノム編集トラフグに、従来品種と異なる毒化がみられた場合には、それがゲノム編集由来なのか、固体由来なのかを、改めて確認していくことになる」と強調する。しかし本当に食の安全性は守られていると言えるのだろうか。
海外にフグ食を広める活動に取り組む国際ふぐ協会の古川幸弘会長は、「人体に悪影響のない安全な食べ物を提供することが一番大事。フグの場合はどの遺伝子が毒をコントロールしているのかはっきり分かっていないはずなので、厚労省から許可が出たことの驚きの方が大きい。」と指摘する。
ゲノム編集トラフグ まずは国内市場 いずれは海外へ?
ゲノム編集技術は20年以上前に開発され、品種改良の分野などで採用されてきた。2020年にノーベル化学賞を受賞した「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)と呼ばれるゲノム編集の画期的な手法により、農産物や水産物の品種改良の時間が大幅に短縮できるようになった。
また、生物の遺伝子の解明や、エネルギー源になるような新たな物質の開発など、様々な分野で応用が期待されている。
ゲノム編集トラフグの販売について、開発会社は、まずは国内市場をターゲットとしている。その上で、ゲノム編集であるという表示と、トレーサビリティを確保できるならば、海外展開も視野に入れているという。
そもそも毒魚であるフグは国際的にあまり食べられていない。現在、日本からフグの輸出が可能とされている国は、マレーシア、アメリカ、ロシア、シンガポールのみ。ほとんどの国では、基本的には、輸入や販売などが禁止されている。
農林水産物や食品の輸出の促進は政府を挙げて進めている施策であり、生産コストが抑えられるトラフグの開発は、それを後押しすることに繋がるかもしれない。
古川会長は「世界からは日本のフグ食について多くの偏見があるが、研究者さん達の様々な活動や話題で食文化がさらに深まり、海外の人も「日本のふぐを一度食べてみよう!」という気持ちになるのを期待する」と話している。
今後、我々の生活に欠かせない「食」に関わる分野で、ゲノム編集食品はどう発展していくのか。世界を相手に、日本は、その新しい技術を、どのように生かしていくのか。「22世紀ふぐ」が、その命運を握っているのかもしれない。(完)
(トラフグ、マダイの画像は、リージョナルフィッシュ提供)
(フジテレビ社会部・厚労省担当 熱田信)