米国の政界に新しいスローガンが生まれた。
「レッツゴー・ブランドン(がんばれ、ブランドン)」という言葉で、これをテーマにした楽曲がiTunesのヒップホップチャートで一時トップに立った。
と言っても「ブランドン」という政治家を励ます表現ではない。
実は、一部が放送禁止用語なので伏せ字にするが、「フ○○○・ジョー・バイデン(くたばれジョー・バイデン)」を意味する隠語のようなスローガンなのだ。
優勝インタビューでのハプニング
ことの起こりは、10月2日にアラバマ州タラデガで行われたストックカーレースNASCARで「ブランドン・ブラウン」という名前のドライバーが優勝し、NBCテレビのスポーツリポーターのケリー・スタバストさんがインタビューをしていた時のことだった。
「夢みたいだ。パパ、やったよ!」と興奮するブラウンさんにスタバストさんがこう言った。
「ほら、観衆も応援していますよ『レッツゴー・ブランドン 』って。」
ところが、その時テレビカメラが映した観衆は別の声をあげていたのだ。
「フ○○○・ジョー・バイデン」と・・・・・・。

反バイデンの新スローガンに
最近、バイデン大統領の人気が下がるにつれてNASCARだけでなくアメリカン・フットボールの試合でも保守系の観衆がこの掛け声を上げるようになっており、この場合もNBCのカメラを見て観衆が叫んだようだった。
スタバストさんがなぜそれを激励の掛け声だと紹介したのかは分からないが、このインタビューをきっかけに「レッツゴー・ブランドン」が「くたばれジョー・バイデン」を意味するようになり、それにあやかった楽曲までが有名になったわけで、トランプ前大統領の事務所はこの言葉を印刷したTシャツを売り出した。

有力紙の誤報
またこの問題では、ワシントン・ポスト紙がバイデン大統領を支持するあまりに誤報を出し話題となった。
同紙は10月23日の電子版で「バイデン反対者は下品な嘲りを大統領に浴びせるようになってきた」という記事を掲載し、次のような例をあげていた。
前大統領の息子のドナルド・トランプ・ジュニアはバイデン大統領に対する悪口雑言をSNSで広めており、9月にジョージア州で行われた集会では『USA、USA』という聴衆の声に促されて演段に登るとこう言った。『このごろはさまざまなスローガンがあるようだけれど他のを知っているかい?』すると聴衆は一斉に『レッツゴー・ブランドン』と声をあげたのだ。
翌日、ワシントン・ポスト紙に次のような訂正が掲載された。
記事中に『聴衆はレッツゴー・ブランドンと声をあげた』とする部分は「聴衆はフ○○○・ジョー・バイデンと声をあげた」に訂正します。この誤りは編集者によって挿入されたものでした。

トランプ・ジュニア氏がジョージア州で演説したときは、まだNASCARのレースは行われていなかったわけで、記者の原稿に編集者が手を入れてトランプ陣営がいかに世論を操っているかという印象を強めようとして勇み足を踏んだようだった。
ジャーナリズム史上、最大の訂正
This is the greatest correction in the history of journalism!
— Donald Trump Jr. (@DonaldJTrumpJr) October 24, 2021
Thanks @washingtonpost pic.twitter.com/TlUrcRDc52
トランプ・ジュニア氏がツイッターでこう勝利宣言をしたこともあって、ブランドンという名前はさらに知られるようになったようだ。
おりしも、バイデン大統領は内外に問題を抱えて支持率も急降下しており、今後ことあるごとに「レッツゴー・ブランドン」の声が上がることになりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】