長きに渡る暴力団と県警の対決の歴史。
市民を容赦なく傷つけ、最凶と恐れられた「工藤会」を、警察はいかにして追い詰めたのか。
「頂上作戦」の舞台裏では何があったのか。
工藤会と戦い続けてきた福岡県警
1994年9月、福岡県警本部のすぐ横で起こった発砲事件に、誰もがあぜんとした。
(暴力団発砲事件 1994年9月)
記者:
発砲があった現場です。窓ガラスに4発の弾痕が見えます。中では、慌ただしく現場検証を行っています。そしてこの場所ですが、なんとすぐ近くに福岡県の警察本部があります

福岡県警は、長く「工藤会」と戦ってきた。
(田中組家宅捜索 2012年10月)
警察:
お前らいつも行儀が悪いのう! 極道なら極道らしくせんか! こら!

「工藤会」も対決の姿勢を崩さなかった。
当時の「工藤会」幹事長は、テレビ西日本のインタビューに次のように答えていた。
工藤会幹事長(当時) 木村博受刑者:
県警の幹部からですか、「工藤会とは全面戦争」とかいうコメントも出ていましたけど、向こうも戦争のつもりなら、こっちも戦争のつもり。受けて立ちますよ

福岡県警・尾上芳信刑事部長:
警察を本気にさせた。福岡県警史上、最大の特別捜査本部と言ってよいのではないかなと

そして…
(野村総裁宅強制捜査 2014年9月11日)
記者:
警察が工藤会のトップ、野村総裁の自宅に強制捜査に入ります
2014年9月11日、県警は「工藤会」の野村悟総裁(当時67)ら最高幹部を逮捕。いわゆる「頂上作戦」が行われた。

当時、現場の最前線で指揮をとっていたのが福岡県警・尾上芳信刑事部長だった。頂上作戦にこぎつけるまで、警察は「工藤会」に幾度となく牙をむかれていた。

福岡県警・尾上芳信刑事部長:
警察官の帰宅時間を待ち伏せして、「お前らのことは、いつでも襲おうと思えば襲えるんやぞ」とパフォーマンス的なこともやつらはやっていたので、凶悪で陰湿な組織だと思っておりました

全国から捜査員派遣も効果上がらず
1988年、「工藤会」捜査に携わった元警察官の自宅に火が放たれ、本部事務所への家宅捜索が行われた。
(本部事務所の家宅捜索 1988年)
警察:
放火!
組員:
はあ?
警察:
現住建造物放火!

2002年、警察官の宿舎に時限爆弾が仕掛けられた事件も「工藤会」による犯行と断定された。

(警察官舎爆発物事件 2002年8月)
記者:
被害に遭った車は、こちらに駐車されていました。このうち2台のフロントガラスが割られ、もう1台のボンネットには、爆発物のようなものが置かれていました

そして2012年、県警にとって悪夢が訪れた。
(元警察官襲撃事件 2012年4月)
アナウンサー:
福岡県北九州市でけさ、元警察官の男性が銃撃されました。撃たれた男性は、退職前に暴力団捜査を担当していました

福岡県警・尾上芳信刑事部長:
銃撃された元警部は、私が初めて刑事になった時から当直を共にするような同僚だったので、特に強い憤りを感じた次第です。警察庁も、これは何とか福岡県警を支援しなければならないということから、全国の機動隊、捜査員を北九州市に派遣していただくことになった

全国から捜査員が派遣され、職務質問を強化した。
しかし…
(YouTubeに公開された職務質問の音声 2012年)
組員:
駐車場に動かしたら何でいけないの?
警察:
協力して下さい
組員:
令状持っておいで、令状
警察:
あなたたちは、市民に対して攻撃をしよるわけやないですか?
組員:
市民? 攻撃をしよる証拠はどこにあるん?
警察:
みんな分かっとることやないですか

組員:
分かっとるってどういうことよ
警察:
違うって言うんですか?
組員:
違う
警察:
じゃあ、あなたが最初に言ったこと、見せてくれてもいいやないですか? あなたたちが車の中に危険なものがないというなら、職務質問したときに見せてくれてもいいじゃないですか?
(組事務所の家宅捜索 2012年10月)
組員:
関係なかった時は、お前ら責任取れよ
警察:
おー、責任とるよ
組員:
名前なんか?
警察:
なんで言わないかんのか

組員:
名前も言いきらんのかい!
警察:
やかましい!
「工藤会」は、警察をあざ笑うような態度を繰り返していた。
元組員の男性が、カメラの前で当時を振り返った。
(Q.警察組織は怖くなかった?)
元組員の男性:
怖くないですね。なめとったですね、やっぱり。特によそから応援に来ている県警の方たち、好き勝手してくれてですね

時を同じくして始まった暴力団の入店を禁じる「標章制度」に反発して、飲食店関係者が次々に襲撃される。
しかし、なかなか逮捕することができない警察に、市民からの信頼は失墜した。
飲食店関係者:
何のために標章したのかな、無駄な税金使って
飲食店関係者:
警察も真剣にはやっているんでしょうけど、結果として出ないので、市民として、がっかり

(Q.標章制度に組織は怒っていた?)
元組員の男性:
怒っていましたね。カスリ(みかじめ料)が入ってこんですもんね。それを守るために行けっていう感じで、結局、女性の方も手当たり次第いかれた、関係なく
事件を止めるには「トップをとらなければダメ」
そんな中、転機を迎えたのは2013年の冬だった。
(漁業関係者・上野忠義さん銃撃事件 2013年12月)
記者:
午前8時前、近くの住民から「パンパンと音がして、見たら人が倒れていた」と119番通報がありました

(Q.野村総裁の逮捕を意識したのは?)
福岡県警・尾上芳信刑事部長:
上野忠義さん、響灘漁港関係者ですけど、残念ながら銃撃されて死亡される事件が起こりました

漁港関係者への襲撃は初めてではなく、1998年にも上野さんの兄・梶原國弘さんがピストルで撃たれて死亡し、実行犯グループはすでに逮捕されていた。

記者:
事件の背景に、北九州市響灘の巨大港湾工事を巡る利権争いがあるのではないかとみて、梶原さんが以前組合長を務めていた脇之浦漁協の組合員から事情を聴いています
福岡県警・尾上芳信刑事部長:
当時の事件を振り返って、公判記録を取り寄せて精査した次第です。実行犯グループには、一切の利益はありません。それを受け取っているのは、幹部連中だけであります。
そういったことを考えると、幹部以外の意思に基づいて、そういった事件が起こるはずがない。テロとも言えるような事件を止めるためには、やはりトップをとらなければダメだと

「事件の背景にトップ野村の指示があった」と立証するためには、どうすればいいのか?
県警は、通信傍受をはじめ、あらゆる捜査手法を尽くした。

福岡県警・尾上芳信刑事部長:
無罪になっている実行犯グループを再度、取り調べを行って、真実を語ってもらうとかですね。不起訴事案であっても、再度起訴することは法律上可能ですので、もう一度チャレンジする。
人から奇想天外な作戦と言われようが、法律の範囲内であれば、私は何でもやる

警察の威信をかけて、失敗は許されなかった。
福岡県警・尾上芳信刑事部長:
「本当にトップの逮捕なんてできるのか?」という内部の声もありました。失敗をすれば、北九州市民がターゲットにされて、さらなる被害者が出る可能がある
そして迎えた作戦の日…
(頂上作戦 2014年9月11日)
アナウンサー:
福岡県北九州市の特定危険指定暴力団、工藤会の最高幹部が、1998年に起きた殺人事件に関与したとして殺人などの疑いで逮捕されました

「漁協元組合長射殺事件で野村被告ら逮捕」
「看護師刺傷事件で野村被告ら再逮捕」
「歯科医師刺傷事件で野村被告ら再逮捕」
そして、尾上刑事部長にとっても因縁の事件、元警部銃撃事件の立件にも成功した。
野村総裁の逮捕は、合わせて6回。一連の頂上作戦は、県警が勝利を収めた。

今、頂上作戦から7年の時が過ぎて、ようやく迎える「審判の日」。
工藤会壊滅に向け、指揮を執り続けた尾上刑事部長は、何を思うのか。
福岡県警・尾上芳信刑事部長:
凶悪凶暴な組織と、誰もが(存在していいと)認めていない、壊滅させなければならない組織と私は思っています。
この判決から当面の間が、工藤会対策にとっての一番のヤマ場を迎える大切な時期だと思います

(テレビ西日本)
【関連記事】
・「忖度」か「指示」か?工藤会TOPに死刑判決 どこが画期的だったのか…若狭勝弁護士が解説
・”最凶”工藤会トップに死刑判決 総裁を追い詰めた鉄の結束の”ほころび”とは