「名古屋めし」と呼ばれるような、独自の食文化が根付いている愛知県。
その代表的なものが、八丁味噌やたまり醤油をはじめとする発酵文化だ。知多半島や三河地域では、江戸時代から続く醸造技術が今も受け継がれ、「名古屋めし」を支えるだけでなく、観光としても注目されている。
ジャーナリストで編集者の篠原匡さんは、この発酵文化も愛知県が持つ大きな可能性だと語る。著書『愛知県は天下を取るがね』(新潮新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。
名古屋めしの象徴「八丁味噌」
お酢とみりんは酒粕からの発展系だが、別系統として味噌とたまり醤油が挙げられる。
この地方で作られるのは、主に大豆と塩のみを原料とした「豆味噌(赤味噌)」だ。一般的な味噌も大豆が原料だが、発酵に使うのは米麹。米麹に含まれるデンプンが糖に変わるため、甘味が強く、色も明るめになる。
それに対して、豆味噌は米のデンプンを使わず、大豆そのものに麹菌を植え付けた豆麹で大豆を発酵させ、タンパク質を分解していく。そのため、熟成に1~3年という時間がかかるが、濃厚な旨みとコク、独特の渋みを生み出す。色が黒褐色なのも、長い熟成期間が要因だ。
ちなみに、「名古屋めし」の象徴とも言える八丁味噌は、この豆味噌を2年以上、長期熟成させたものだ。米麹を使った信州味噌などとは異なり、豆味噌は煮込んでも香りが飛ばないため、味噌煮込みうどんや味噌カツのような料理のベースになった。
八丁味噌の産地は知多半島ではなく西三河の岡崎市。豆味噌は尾張だけでなく、三河でも同じように発展していたということがよくわかる。
豆味噌の副産物「たまり醤油」
この豆味噌の副産物として生まれたものがたまり醤油だ。たまり醤油の始まりは、味噌桶の下にたまった汁。一般的な濃口醤油は小麦が加えられるため、ふわっとした華やかな香りがある。
それに対して、たまり醤油は基本的に大豆オンリーの豆味噌の搾り汁のため、濃口醤油のような芳香はほとんどない。ただ、熟成に熟成を重ねた豆味噌の汁だけに、濃厚な旨みととろみ、独特の香ばしさがある。

